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お客様をリアルに感じたい。カルビー初のスマートフォンアプリ開発の裏側。

人口減少や市場の成熟によって新規顧客の獲得が難しいと叫ばれる昨今、商品や企業を支持してくれるファンの存在は、企業にとって生命線ともいえるほど大切です。

カルビーもファンコミュニケーションの進化・深化を目指し、2020年9月にカルビー初となるスマートフォンアプリ「カルビー ルビープログラム」(以下、ルビープログラム)をリリースしました。

今回は、アプリ立ち上げに尽力した一人、デジタルマーケティング担当マネジャーの関口洋一さんに取材。当時の苦労やアプリを通じて実現したいこと、そして今月リリースされた新機能についてお話をお聞きしました。

インタビュー

関口 洋一 (せきぐち よういち)
カルビー株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティング担当マネジャー
前職でのシステムエンジニアを経て、2017年入社。直営店「カルビープラス」の運営を担う部門に所属し、店頭のデジタル化のためのシステム構築やデータ分析基盤などを担当。2019年4月より現職。

カルビー初のスマートフォンアプリ「ルビープログラム」


ルビープログラムは、お客様が購入した商品のパッケージを指定の方法で折りたたみ、撮影していただくことでポイント(ルビー)を貯めることができるアプリです。貯めたポイントを使って、さまざまな体験プログラムやキャンペーンに応募していただくことができます。

ルビープログラム

カルビー初となるスマートフォンアプリは、関口さんがマーケティング本部内に眠る“宝の山”に着眼したことがきっかけで開発されました。

「当時、私はマーケティング本部に異動したばかりで、何ができるかを模索していたのですが、本部内にある大量のデータを有効活用できていないことにもったいなさを感じていました。例えば、カルビー商品を買っていただいたお客様がパッケージに印字された応募券(シリアルコード記載)を切り取り、ハガキに貼って応募するキャンペーンでは、そのお客様がどんな商品をどれだけ購入したかが把握できるのですが、当時は点数以外の情報を活用しきれていませんでした」

「その時、本部内で“不特定多数に向けてではなく、お客様一人ひとりに対してコミュニケーションすることができないか”という問題提起がありました。提起したメンバーと二人で、個々のお客様とつながるプラットフォーム構築に向けて、2019年夏前にプロジェクトをスタートさせました」

アパレルや外食など、自社で店舗を持っている業界が一人ひとりのお客様を認識し、個別にクーポンやDMを送るなどしているのに対し、食品業界は間に卸売業・小売業が介在し、企業とお客様が直接つながることは、そう容易なことではありません。カルビーとしても、会員制ファンクラブの運営などの経験はありましたが、これほど大きな規模で個々のお客様とつながるプラットフォームはかつてなく、未知の領域への挑戦でした。

次々と襲う困難。リリース1カ月前に絶体絶命のピンチ

プロジェクト開始以降、お客様に喜んでいただけるサービスの提供に向けて、議論を重ねていきました。お客様が購入した商品に紐づけてポイントを貯めていただく仕組みを作り、お客様の個を特定してコミュニケーションをとる、という点まで設計したところで、大きな課題が立ちはだかります。

難しかったのは、お客様がお買い上げしたことの確認をどう実現するかです。店頭に並んだ商品をアプリで読み込んで何度もポイント化できてしまっては、この仕組みは成立しません。先述のキャンペーンでいえば、パッケージの応募券を切り取るということで“実際に購入されて召し上がっていること”と“その商品が唯一無二であること”の2点を証明できていました。それをデジタルに置き換えるとなった時に、『さぁ、どうする?』と。なかなか良いアイデアが出ずに、半年ほどが過ぎてしまいました

飲料メーカーのキャンペーンなどで見られる、商品にシールを貼り、めくるとQRコードが出てくるものなども検討しましたが、工場への設備導入など莫大なコストが必要となることが分かり、現実的ではなかったといいます。とはいえ、お客様との1番の接点である商品を活かした取り組みにしたいという想いを捨てることはできず、頭を悩ませる日々が続きました。

ブレークスルーのヒントとなったのは、一緒に進めていたメンバーが考案した、環境に意識を向けるきっかけづくりのためのアイデアでした。

「本部内で進行していた別のプロジェクト内で、“食べた後のパッケージを折りたたむことで、ごみの嵩を減らせるのではないか”という話が上がったんです。そこから着想を得て、現在のルビープログラムの根幹である『折りパケ』のアイデアが生まれました。折りたたむということは、袋の中身を出さないといけないので、購入したことを証明することができます」

谷澤さん

「折りパケ」アイデアを考案した谷澤さん(左)と関口さん(右)

最大の難関であった購買証明をクリアし、アプリのリリースに向けて本格的に動きだした関口さん。着々と準備を進め、何事も問題ないかと思われましたが、リリースまで1カ月を切ったある日、とんでもない事件が関口さんに襲いかかりました。

アプリのテストモデルが出来上がり、いざ自分たちで写真を撮って試してみると、ことごとくエラーになってしまったんです

購買証明という点において、関口さんたちを救ってくれた「折りパケ」というアイデア。そのアイデアは思いがけず、データの読み込みに対しては大きな障害となりました。

「パッケージを折ることで、印字が歪んで不明瞭になってしまうんです。カルビーの商品に印字されているシリアルコードの特性も相まって、当時のアプリの精度では正確に読み取ることができませんでした」

折りパケ

「ポテトチップス うすしお味」を「折りパケ」した際の写真。
シリアルコードはパッケージフィルムの上部に印字されているため歪みやすく、画像認識の難易度が高くなる

そこからは日夜修正作業に追われました。お客様がどのような環境で撮影されるか分からないので、考え得る限りのパターンをすべて登録し、都度エラーを修正することの繰り返しによって、読み取り精度を少しずつ上げていきました。ようやくリリースできるレベルにまで達し、胸をなでおろしたのも束の間、関口さんの改善活動はまだ続きます。

「リリースしてからも、毎日状況を確認し、改善できるところを見つけては徹底的に改善を重ねました。お客様にご満足いただける品質になるまで、ひたすら地道な作業を続けましたね

関口さんはその後も、お客様が購入した商品に対して3段階で評価できるような機能の追加など、リリース後もさらなるアップデートを求めて奔走します。
そして次に着手したのは、お客様の“買いたい”気持ちを後押しする新機能の開発でした。

「どこで買える?」が24時間365日すぐ分かる!待望の新機能

2022年1月25日、アプリリリース当初から構想していた「販売店検索機能」が追加されました。アプリ内の「お知らせ」で案内された商品をどこで買うことができるか、自身の現在地から近い店舗の配荷情報を「2日以内」「3~4日以内」「5~7日以内」など、5段階に分けて知ることができます。

画面イメージ

販売店検索の画面イメージ。店頭の在庫状況は反映されないが、配荷された日が近いほど、店頭に在庫がある可能性が高い

「カルビーお客様相談室にいただくお問い合わせ内容のうち、最も多いのは商品の取り扱い店舗に関するものです。また、電話はかけてこないまでも、“買いたいのに売っていなかった”というネガティブな体験をされるお客様はたくさんいらっしゃると思います。そうした潜在層に対してもアプローチすることができるこの機能は、お客様の体験価値を上げるためには必須だと考えました

満を持して投入されたこの機能ですが、まだ限定的な内容にとどまっているといいます。そこには、お客様のユーザビリティを1番に考える関口さんならではの理由がありました。

「技術的には、全商品のデータを反映することも可能ですが、カルビーはポテトチップスだけでも年間100種類以上発売しています。そのたくさんの商品の中から、お客様が欲しい情報にたどり着くのは至難の業で、最初から全商品を対象にすると、かえってご不満につながる懸念があります。ですので、まずは『お知らせ』内で紹介した商品のみを対象とし、お客様の反応を見ながら最適な形を探っていく方法をとりました」

ろくろ回し

今回の販売店検索機能が追加されたことで、関口さんの中にある構想はさらに膨らみます。

「以前、カルビーお客様相談室に期間限定の『堅あげポテト 匠の香ばしにんにく味』という商品をお探しのお客様から問い合わせがあった際の話を聞いたことがあります。その時は販売終了していて諦めていただくしかなかったのですが、後日、同様の商品が再発売になった際に改めて架電してお知らせしたところ、とても喜んでいただけたそうなんです。その体験をデジタルでも実現したいという想いが強くあります」

現在は、お客様が気になる商品の取り扱い店舗をアプリで検索し、購入し、召し上がっていただく。そしてその商品に対する評価をアプリ上で行っていただくことができます。
将来的にはそこから一歩進んで、購入した期間限定商品で気に入ったものがあればチェックを入れていただき、再発売の際にはプッシュ通知でお知らせするなど、よりお客様の体験価値を上げていく機能を拡張していきたい、と関口さんは熱を込めて語りました。

メーカーとお客様の距離を縮めたい。これからの野望

アプリリリースから1年以上が経過し、登録者数も好調に推移している「ルビープログラム」。アプリに登録されたお客様が、登録前と比較して購入頻度が飛躍的に伸びたケースもあり、カルビーのロイヤリティを高めることに貢献している手ごたえは確実に感じている関口さん。ですが、まだやりたいことのほんの一部しか実現できていないと語ります。

お客様との接点をもっともっと増やし、つなげていきたいと考えています。例えば、カルビーには全国にアンテナショップがありますが、そこはお客様とリアルな接点を持てる貴重な場所です。そこと連携させることで、カルビーのファンでいてくださっているお客様の体験価値をさらに上げることができるのではないかと思っています」

関口さんの目指す最終目標は何なのでしょうか。

メーカーとお客様の距離をさらに縮めていくことです。これまでお客様とカルビーの最初の接点は店頭でしたが、アプリの導入や機能追加によって、お客様が商品を欲しいと思った段階から接点を構築することができるようになりました。そして購買、喫食、商品評価、ポイント獲得による体験までつなげることができます。
その一連の流れを通して、カルビーをより身近に感じていただけるような、そして私たちもお客様のことをより深く知れるような、そんな関係を築いていきたいですね

ラスト

2022年4月より、カルビーはお客様の体験価値向上にさらに注力していくべく、組織を大きく改編します。関口さんは、マーケティング本部内に新設されるCX(カスタマーエクスペリエンス:お客様の体験)デザインチームのマネジャーとなり、お客様とブランドをつなぐ仕組みのデザインを担うことになります。

お客様に喜んでいただく体験をどう創り出せるか――。
関口さんの飽くなき挑戦はまだまだ続きます。


「カルビー ルビープログラム」
https://www.calbee.co.jp/lbeeprogram/



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