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ものづくり技術支援者の仕事観【社内報より『カルビトの流儀#06』】

カルビーの社内報は1960年に創刊され、現在に至るまで60年以上にわたり発行されています。「かっぱかっぽ」からスタートし、「かるびー」「CALBEE」などと名前を変え、グループ報となった今は社内の連帯感を一層深め、永遠に幸せの輪がつながっていけばという想いを込めた「Loop」という名前です。その中の1つのコーナー「カルビトの流儀」は、仕事上でのほろ苦い経験を通じて得た気づきを基に個人の仕事観を紹介しています。(ちなみにカルビトとは、カルビーグループで働く人のことです)

この「カルビトの流儀」をnoteで公開していきます。

今回は、“ゴールドスタンダード(以下:GS)”という品質の統一規格をつくり、商品の品質をアップさせた女性です。

安山 めぐみ(やすやま めぐみ)
カルビー株式会社 研究開発本部 ポテトチップス部 部長
1995年にカルビー入社、品質管理や商品開発に携わり、2010年から12年間GSチームに配属。2022年4月より現職。凹んだときに読み返す本は「うまくいっている人の考え方」(ジェリー・ミンチントン著 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)で、初心に帰りマインドセットできる。

―カルビーが目指すGSとは?

入社して最初に配属されたのは茨城県にある下妻工場の品質管理でした。5年間務め、その後製造部門に2年在籍し、当時は開発のテストラインがこの工場にあったので開発にご縁があり、続いて「じゃがりこ」の開発を担当しました。

入社してからの業務を通じて「ものづくり」については理解したつもりでいましたが、2010年、GSチームの立ち上げに参画してから壁に突き当たりました。

壁の前にGSについて少しお話ししますと、GSとはカルビーが目指すべき品質の統一規格のことです。理化学検査で表せない、おいしさの要素である外観・食感・味などを表現した現物見本のことをGS品と呼びます。

ポテトチップスでいう“パリっと感”というワードひとつとっても、Aさんが思う“パリっと感”、Bさんが思う“パリッと感”は尺度が違います。それを現物見本で示すことで、同じ尺度で食感を統一し、目指すことができます。

当時、各工場による品質のバラつきがあり、消費者調査でも思っていたような評価が得られず、課題となっていました。品質改善が急務という背景もあり、お客様が求めるおいしさ品質を知るために季節ごとに徹底した消費者調査を行い、何千人ものお客様の声を集めました。その調査から得られた内容を基にGSを定めました。

毎週全工場から商品を集め、このGS品という現物見本を基準として官能評価を実施しています。現在でも継続し、各工場へ結果をフィードバックしています(10点満点)。最初は「ポテトチップス」だけでスタートしましたが、現在までに「堅あげポテト」「じゃがりこ」「Jagabee」「かっぱえびせん」「サッポロポテト」というシリアル以外の全ブランドにGSの仕組みを展開しました。

ポテトチップス官能評価の様子(2018年に撮影)
かっぱえびせん官能評価の様子(2019年に撮影)

初めのころは、官能評価の点数だけ伝えても現場から「では、どうしたらいいの?」という声が多かったので、改善にあたり必要なノウハウを教える、“教育の仕組みづくり”をしました。まず、製造原理の教科書をつくり、それを基に工場に向けて「オペレーターキーマン教育」を開始しました。

―経験から生まれた原理原則を知るカリキュラム

「オペレーターキーマン教育」は、2014年度からスタートしてブランドを広げ、製造や開発のキーマンのべ400人が参加しました。品質向上のための原理の勉強に加えて、規格外をあえてつくる体験による標準の大切さを知るカリキュラムを取り入れました。これには私が突き当たった壁が関係してきます。

GSチームに所属して3年ほど経ったときに、ポテトチップスフライヤーの不具合で広島西工場に呼ばれました。そこでは不良品が多数発生していて、改善するには設備の知識が必要だったのです。製品の中身をつくることしか知らなかった私は、このとき設備について徹底的に学びました。その結果、目指すべき品質をつくり出すためには、設備を正しくセッティングする必要があること。基準外を知って基準を守ることの大切さ(原理原則)をより理解しました

工場オペレーターは決められたことを間違いなくやり遂げます。一方で、品質トラブルなどのイレギュラーなことに弱い面もあります。やってはいけないことや基準から一歩出てしまって引き起こされることが分かると、基準を守る大切さをより理解してもらえます。「決まっているからやる」と「分かって基準を運用する」のとでは、意識の面では全く違うのです。そのために、(実際の現場ではできないので)ラボで実施するオペレーターキーマン教育では、わざと不良品を製造する経験をしてもらいます。なぜ不良が出るかを体験してもらい、基準がある理由を理解してもらうためです。

苦労して設備を学んだ経験がなければ、良いカリキュラムはできていなかったと思いますね…。

オペレーターキーマン教育の様子
製造原理原則教科書

―体験が人を育てる。答えを与えるのではなく導く

設備のことを教わった師匠が2名いました。私がアドバイスを求めるまで見守ってくれて。答えを与えるのではなく、導いてくれたのですよね。結局、当事者が体験して気づき、答えに行きつかないと身にならないのです。私もこれを見習って、インストラクター的なスタンスで臨みます。元々おせっかいなので、答えを言いたくなるのを抑えるのが大変です(笑)。

“目指す品質の現物見本(GS品)”を提示し、それをつくるための”教育”を取り込んだことによって、スタート時より工場間のバラツキは減り、官能評価のポイントは向上していきました。

―今後の展望

2022年度からは「ポテトチップス」の開発部に在籍しています。カルビーの中で一番売上が大きい商品なのでプレッシャーを感じながらもうすぐ1年が経ちます。メンバーと供に学びを増やし、自身も成長できたらと思っています。

今までの経験を活かして開発メンバー育成の仕組みづくりにも力を入れていきたいです。どんどん成長していくメンバーを見て、開発で働いてみたいという人が増えるとうれしいです。


カルビーグループの社内報から飛び出した「カルビトの流儀」はいかがでしたか? 次回も楽しみにしていてくださいね!

■これまでの「カルビトの流儀」記事はマガジンにまとめています!

文:間瀬 理恵
写真:足立 紘朗、間瀬 理恵


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!次の記事もお楽しみに