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カード化する選手をどう決めるのか!?4000種類のカードを担当した“ミスタープロ野球チップス”に聞く仕事の流儀

1973年から発売されている「プロ野球チップス」(当時は「プロ野球スナック」)。この歴史ある商品を知り尽くしているカルビー社員がいます。マーケティング本部の三井剛さんです。

三井さんは2009年から約12年間、「プロ野球チップス」を一人で担当しています。まさに“ミスタープロ野球チップス”的な存在で、ファンの間で“プロチ”として親しまれるこの商品を語るには欠かせません。

そんなプロチの特徴といえば、商品に付くカードです。例年、約400種類のカードを3回に分けて発行しており、今までに作られたカードは約20,000種類。累計発行枚数は約18億枚に上ります。このカード制作の舞台裏を仕切るのも、もちろん三井さん。どの選手のどんな場面をカードにするのか、選手選びや写真決めなど、一連の作業を担当します。その作業は決して簡単ではありません。発売するときに、どの選手が活躍しているのか、お客さまがどんなシーンのカードを期待しているのか、悩むことも多いようです。
ということで、今回は三井さんに「プロ野球チップス」の制作秘話を聞きました。

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三井 剛(みつい たけし)
カルビー株式会社 マーケティング本部 商品1部 1課
1995年入社。グループ会社のカルビーポテト株式会社、株式会社カルナックを経て、2009年より現職。主に「プロ野球チップス」などキャラクターチップスを担当している。

三井さんのシーズン開幕は秋。選手選びは「毎回悩みます」

「12年前からずっと『プロ野球チップス』を担当しています。カルビーの担当者は私一人で、代理店の方と一緒に制作しています。一度、違う課に異動した時期もあったのですが、『この商品だけは引き続き担当してくれ』と言われて(笑)。毎年の作業がすっかり染み付いていますね」

取材の冒頭、「プロ野球チップス」との関わりをこう答えた三井さん。この商品は、カルビーの中でも珍しい存在です。「ポテトチップス」が主体ではありながら、カード制作が重要になるためです。通常は、年3回(3月、6月、9月)、カードのラインアップを変えて「プロ野球チップス」が発売されます。2021年の場合、3月22日に発売した第1弾のカードは、全119種類。1球団6人ずつ現役選手が選ばれたレギュラーカードに加え、レジェンド引退選手カード、大記録達成や名場面を取り上げたエキサイティングシーンカードなどがあります。

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「2021プロ野球チップス」の第1弾

これらのカードを制作する中で、三井さんにとって一番楽しい時間であり、また一番苦労する時間でもあるのが、カードに入れる選手のラインアップを決める作業だといいます。

「どの選手をカードに入れるかは、毎回本当に悩みます(笑)。私が意識しているのは、買ったお客さまが喜んでいただける選手を入れること。だとすると、必ずしも成績だけで選ぶことはできません。知名度の高い新人やベテランを入れるのか、それとも着実に成績を上げている選手を入れるのか。判断はその時々で変わります。まれなケースですが、球団の方やファンの方にその選手の人気や印象をリサーチすることもあります」

球団やファンの声を聞くこともあるとはいえ、あくまでそれは特殊な場合。基本的には「成績や人気を見ながら自分たちで決める」と三井さん。毎週欠かさず読んでいる野球週刊誌は、相棒と言える資料。選手セレクトにも偏りが出ないよう、均等な目線を心がけているといいます。実際、三井さんに好きな球団を尋ねると「12球団、すべてのチームが大好きです」と笑います。

では、どんなサイクルで毎年のカード制作が行われているのでしょうか。三井さんの話をもとに、その流れを追っていきましょう。

三井さんにとっての“シーズン開幕”は秋。日本野球機構(NPB)や各球団と来年の「プロ野球チップス」の契約を結びます。本格的に第1弾カード(3月発売)の制作に入るのは、12月から。まず三井さんと代理店でカード化する選手を選び、リストが固まった時点で球団に提案します。

そうして選手が決まると、1月までにカードに載せる写真を選び、裏面の成績やプロフィール文を作成。入稿して、3月下旬に発売するのが例年の流れです。

どの新人選手が活躍するか、“スカウトのような目”でチェック

同じような流れで6月発売の第2弾、9月発売の第3弾と作るのですが、いつも苦労するのが第2弾の選手選びとのこと。そこには、こんな理由があります。

「第2弾カードの選手ラインアップは、遅くとも3月下旬には決めなければなりません。とすると、オープン戦などの成績だけで、カードが発売される夏頃に『どの選手が活躍していそうか』を考えなければならなくて(笑)。特に迷うのが、話題のルーキーです。やっぱり、なるべく入れたいですよね。ちょうど夏に1軍で活躍し始める選手も多いので。入れなければ『なんで入ってないんだ』となりますし、逆に入れて二軍落ちしてしまうこともあります……。この時ばかりは、スカウトマンのような見方になっているかもしれません」

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なお、発行するカードの枚数は基本的に12球団均等となっています。ただ、入っているカードは完全にランダムで、いくら購入しても好きな球団の選手がなかなか出ないこともあります。その中で、こんなお問い合わせをいただいたこともあったようです。

「お客さまから『〇〇(球団名)のカードの量が少ないのではないか』と……。基本的にすべて均一の割合で入れていますので、特定の球団のカードだけ少ないということはありません。そこだけはご理解いただきたいです」

レギュラーカード以外にも、さまざまな種類のカードが用意されているのは先述の通り。特に人気なのは、レジェンド引退選手カード。そのシーズンに引退した選手のシーンを切り取ったカードです。現役時代、高い人気を誇った選手の“最後のカード”なだけに、その一枚を探し求めるファンも多いといいます。

「引退選手の場合、すでに所属が球団ではなくなっているケースもあるので、許諾を取る作業は複雑になります。それでも、名選手の記念カードは少しでも残したいですよね。私も野球ファンの一人としてそう思っています

最近は、引退の仕方も多様化してきました。たとえば松中信彦さんは、2015年に福岡ソフトバンクホークスを退団したのち、すぐに引退せず、翌春まで他球団での現役続行を模索。しかし、シーズン開幕前の2016年3月に引退を表明しました。

「通常、レジェンド引退選手カードは、前年の引退選手を集めて3月の第1弾で出します。ただ、松中選手はそういった事情もあり第2弾で1枚のみ発行しました。異例のことでしたが、やはり記録や記憶に残る名選手の引退はカードにしたいので。それは自分の中で大切にしている信念です」

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松中信彦さんのレジェンド引退選手カード

三井さんがつねに考えているのは、カードが当時の野球シーンや選手を思い出す一枚になることだといいます。

「シーズン中の名場面を集めたエキサイティングシーンカードもそうですが、カードを見ることでお客さまの中にある当時の試合や思い出がフラッシュバックされる存在でありたいんです」

“その選手らしさ”が最大限伝わる場面を採用

カード制作でもうひとつポイントになるのが「写真選び」です。カード化する選手を決めた後、その選手のどんな写真を使うのか。ここにも三井さんのこだわりがあります。

「基本的には試合中の写真で、なるべく選手の顔が見えるカットを採用します。最近はフェイスガード(※選手の顔面を防護する目的で、近年ヘルメットに付加されているプロテクター)で選手の顔が見えにくく、なかなか苦労していますね(笑)。その上で、選手らしさの出ているシーンを探します。特徴的なポーズやフォームのある選手は、その写真を使いますね」

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例えば、福岡ソフトバンクホークスの松田宣浩選手の代名詞とも言える「熱男ポーズ」や、埼玉西武ライオンズの山川穂高選手が見せる「どすこいポーズ」などは、カード化しました。

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松田宣浩選手の「熱男ポーズ」カード

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山川穂高選手の「どすこいポーズ」カード

採用する写真は、おおむね球団所有のものを使い、適切なカットが見つからなければ新聞社や雑誌社の写真を借りるとのこと。毎回苦労するのは、守備の名手として知られる広島東洋カープの菊池涼介選手の写真です。

「試合中の写真は、基本的に投げる瞬間か打つ瞬間が多いんです。実は、野手がゴロやフライを捕球している写真は少ない。でも、菊池選手のカードで見たいのは、難しい打球をさばいた瞬間。なので、守備の良い写真が見つかったときはなるべく入れるようにしています」

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菊池涼介選手の守備のカード

そんな写真選びにおいて、三井さんを悩ませる“前代未聞”の選手が現れました。“二刀流”の選手です。彼を初めてカード化するとき、ピッチングとバッティング、どちらの写真を使うか悩んだといいます。悩みに悩み抜いた末、プロチの歴史を塗り替える一枚が生まれました。

「最終的に、投打それぞれの写真2枚を1つのカードに納めました。こんな選手が出るとは、私自身も想像していませんでした」

毎年のようにカード化される主力選手は、似たようなカットが続かないよう“カブり”を避けるのも大切。過去の同じ選手の写真を見返しながら、今までにないカットを必死に探すといいます。

「ずっとやっていると変わったカードを作りたくなって、あるピッチャーが投打で大活躍した試合が印象的だったので、バッティングシーンをカード化しました。その選手はその後、『今度は投げているシーンをカードにしてください』と言っていて、少し焦りましたが(笑)」

毎年悩ましいのは、ドラフト1位の選手。「本当は第1弾に入れたいのですが、ユニフォームを着てプレーしている写真が間に合わないケースもあります」過去には球団がカレンダーやポスター用に撮影した写真を使用したこともあるといいます。

春のキャンプの写真を使うこともありますが、「キャンプ中はネックウォーマーやサングラスを使用する選手が多く、顔のわかりにくい写真が多いんです(笑)」と意外な悩みが……。あのカードに使われる写真を選ぶまでには、いろいろな苦労があったのです。

「プロ野球チップス」がカルビーにとって重要な理由

三井さんが12年前から携わった「プロ野球チップス」ですが、発売されたのはそれよりはるか前の1973年。きっかけは、2年前に仮面ライダーの初放映を記念して発売されたカード付きお菓子「仮面ライダースナック」の大ヒットでした。ここでお菓子とカードの組み合わせに可能性を感じ、仮面ライダーが放送終了した後、「プロ野球スナック」として誕生しました。

1971年仮面ライダースナック

1971年に発売した「仮面ライダースナック」©石森プロ・東映

1973年プロ野球スナック

1973年に発売した「プロ野球スナック」

当時は読売ジャイアンツが絶大な人気を誇っており、カードはほぼ読売ジャイアンツ関連で、最初の一枚は長嶋茂雄さんでした。また、売上も読売ジャイアンツの成績に連動しており、もっとも売れたのは長嶋監督が初優勝した1976年。続いて、王貞治監督が初優勝した1987年。

長嶋選手1973年カード

最初のカードとなった長嶋茂雄さん

「その後、Jリーグ発足に合わせて『Jリーグチップス』も発売されました。私が引き継いだ12年前は野球とサッカーを両方やっていましたね。その後、『Jリーグチップス』は販売終了してしまいましたが、『プロ野球チップス』はほぼ変わらぬ形で続けています」

プロ野球チップス画像

過去の「プロ野球チップス」のパッケージ。中身のポテトチップスの味がコンソメパンチだったり、カードが1枚だった時代もありました。

とはいえ、三井さんが引き継いでから苦悩する時期もありました。担当から5、6年は、毎年売上が減少したのです。「スマートフォンやデジタルのゲームが増える中で、アナログのカードを集める時代ではないのかもと。当時はだいぶ落ち込みましたね」

しかし、三井さんはあきらめずに工夫を重ねました。たとえば2016年、今までパッケージの裏面に貼付させていたカードを表面に変えました。実はこの変更で売上が伸びたといいます。

「お店で商品を初めて見た子どもたちは、裏のカードの存在に気づかないかもしれないと思い、変えることにしました。ただ、製造工程の都合で、パッケージの表側にカードを貼るのは難しい。そこで、カードを貼る位置はそのままで、パッケージのデザイン自体を裏表逆にしたのです。ですから、『プロ野球チップス』の袋を見ると、つなぎ目のある裏面が商品名の書かれた表面になっています。カードの貼り方は変えず、袋のデザインを裏表ひっくり返したんです」

プロ野球チップス2016

表面にカードを付けた「2016プロ野球チップス」

こういった三井さんの情熱が、今の「プロ野球チップス」にこもっています。何より、「ポテトチップス」が主力事業であるカルビーにとって、この商品はきわめて重要な存在だといいます。

「『プロ野球チップス』の購入層を見ると、約5割が12歳以下です。カルビーの中でも、これほどお子さまの購入比率が高い商品は他にありません。だからこそ、お子さまが初めて自分の意志とお金で買う商品であり続けたいと思います。最初は野球カード目当てでも、そこで食べた『ポテトチップス』を美味しいと思ってくれれば、歳を重ねてカードに興味がなくなっても、カルビーの『ポテトチップス』を買ってくれるかもしれない。『プロ野球チップス』は、『カルビーポテトチップス』のファンになる入り口、エントリー商品として重要なのです」

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限定品などを除いて、現在の「プロ野球チップス」をうすしお味にしているのも「アレルギー物質が少なく、多くのお子さまに食べていただきたいからです」。そんな三井さんは、この仕事に携わっていて嬉しかった瞬間をこう振り返ります。

「愛知に行ったとき、ナゴヤドームの近くにあるショッピングセンターでちょうど目の前の親子が『プロ野球チップス』を買っていました。レジの清算が終わると、真っ先にお子さまがカードの封を開けていて。カードの中身に一喜一憂している姿を見るとうれしいですよね。子どもたちの遊びもデジタル化が進んでいますが、購入者の半分が12歳以下だからこそ、安全で遊びやすいアナログのカードに意味があるはず。これからも、変わらない『プロ野球チップス』であり続けたいと思います」

多くの手間がかけられた「プロ野球チップス」。この商品には他にはない意義があります。累計約20,000種類の野球カードのうち、三井さんが携わったのは約4000種類。彼はこれからも、ファンが、子どもたちが喜ぶ商品を作り続けます。


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