「ポテトスナック」をギフトに…。「グランカルビー」が歩んだ10年の軌跡
「グランカルビー」は、カルビー初の百貨店で販売する「高級ポテトチップス」として、2014年4月1日に誕生しました。ここでしか手に入らない希少性と、ポテトチップスがギフトになった意外性で、オープン初日から長蛇の列! 当時スーパーで販売されていた袋型のポテトチップス(内容量60g)が120円前後のところ、「グランカルビー」は1箱(内容量60g)540円。それにもかかわらず行列ができた魅力とは何だったのでしょうか。
2回のリニューアルを経て、今年で10周年を迎えた「グランカルビー」。時代の変化に合わせて進化してきた軌跡や今後の展望を、「グランカルビー」現担当の3人に聞きました。
「今だけここだけ」がコンセプトの百貨店専用「高級ポテトチップス」
―まず、「グランカルビー」誕生のきっかけについて教えてください。
増田:私は2018年から担当になったので、以前のことは聞き伝えとなりますがお話しさせていただきますね。2012年ころ、阪急阪神百貨店様から「1枚1枚を楽しめるラスクのような厚さのポテトチップスができないか?」とご依頼を受けたのが始まりでした。当時、阪急うめだ本店の地下食品売り場では、流通菓子を高級路線で販売し人気を集めていて、スナック菓子として最もなじみのあるカルビーにお声がけいただいたようです。
ちょうどカルビーの鹿児島工場で「おさつほっこり」「じゃがほっこり」に続くお土産商品の第3弾を模索していて、低温でじっくり丁寧にフライするカルビー独自の製法が活用できると考えたそうです。この製法は、通常のポテトチップスと比べると時間や手間はかかりますが、じゃがいも本来の味や色を活かすのにぴったりの製法です。また、当時は地域の事業本部に意思決定が任されていたこともあり、店舗は大阪ですが、鹿児島工場のある西日本事業本部が管轄本部となりました。
―「ラスクのような厚さ」ってすごいですね。開発での苦労はありましたか?
増田:工場では約1センチの厚さまで挑戦しましたが、厚くしすぎると生揚げになったり、折れ曲がってひびが入ってしまったことも。じゃがいもの厚みをミリ単位で変えて試作し、「食べごたえがあるけどサクッとした軽い食感」という理想のバランスにたどり着くまで約3カ月かかったそうです。
また、開発当初はポテトチップス用の規格のじゃがいもで商品化を試みたそうですが、ギフト用として個包装で販売するため、大きすぎると袋に入らない、食べるときに割れやすい、枚数が少ないなどの問題が発生しました。そこで、小さめのじゃがいもを選別して使用・商品化したところ、食べやすく、枚数も多く、そのうえ中身も満足と阪急阪神百貨店様にも気に入っていただけました。
―出店後の反響はいかがでしたか?
後藤:私も「グランカルビー」の担当となったのは2021年なのですが、大阪勤務ということもあり、発売当時は店舗に来る機会が多々ありました。とにかくすごい行列ができていて、店舗スタッフに声をかけるのも申し訳ない感じでした。夕方になると棚には商品が全くなくて、配送作業しかできることがない状況だったのを記憶しています。
「ポテトチップス」がギフトになるという意外性と話題性、阪急うめだ本店でしか展開していないという希少性が大きな反響を呼びました。一般的なスナック菓子の「いつでもどこでも」に対して「今だけここだけ」というコンセプトが、百貨店のお客様にもご満足いただけたのだと思います。
下田:私はオープン当初から店舗スタッフとして勤務しています。2014年から1年間は行列が続き、開店前に整理券がなくなってしまうこともありました。
寒い中、早朝からお並びいただいているお客様にカイロを配ったり、カゴ一杯の商品を打ち間違いがないよう会計しなければならず、「お客様をお待たせしてはいけない、早くしなければ」という気持ちでレジを行っていたので、毎日帰る頃にはくたくたでした。
空っぽの棚を見て驚くお客様や、遠方から来たのに商品がないと残念がる方、お孫さんに喜ばれたと何度も来てくださるお客様や、スーパーとは違う食べ応えに惹かれて再度並んでくださる方もいて、お客様の声を直接聞けることはやりがいになりますね。
増田:行列の勢いが一息ついたころに、「商品にもっと驚きを出せないか」と言うことで「炙り製法」が導入されました。簡単に導入といいましたが、「グランカルビー」に合う炙り機が当時なかったため、開発担当者が愛知県のあるメーカーと一緒に約1年かけてオリジナルの炙り機を開発したそうです。こうして2017年12月に「炙りシリーズ」が誕生しました。この製法は現在の商品「Potato Roast」に受け継がれています。
SNSや流通の発展により、ギフト市場の在り方にも変化が
―2020年の店舗リニューアルの狙いや効果について教えてください。
増田: 時代とともにギフトのトレンドも変化しています。フォーマルギフトはシュリンクし、ギフトのカジュアル化やニーズの多様化が進んでいる実感がありました。そうした変化に適応するため、「グランカルビー」をアップデートしたいと考えました。
大人の女性が「かわいい」と思える“雑貨感”のあるデザイン、カルビーらしいフレンドリーな雰囲気の売り場づくりを狙いました。リニューアル後の購入者アンケートでは、「高級なポテトチップス」「ギフトになるポテトチップス」として高評価をいただき、9割以上の方から「また買いたい」とポジティブな声をいただきました。
下田:2020年はコロナ禍の影響があり、百貨店に来るお客様の購買行動も変化しました。以前は高級なギフトセットなどがよく買われていましたが、自粛ムードの中で、自分用や家庭用の安価な商品が買われるようになりました。リニューアルには約2年間の準備期間があったので、コロナ禍を見据えていたわけではないですが、結果的には良かったのではないかと思います。ナチュラルな雰囲気の売り場もお客様から好評でした。
―2020年のリニューアルと2022年のリニューアルの違いは何ですか?
増田:「ギフトにしたいポテトチップス」から「ギフトにしたいポテトスナック」へと商品の幅を広げ、“マルシェのような売り場”をコンセプトにしました。“じゃがいもカンパニー”カルビーならではの加工技術や商品開発力を存分に活かし、様々な形状や食感、味わいのポテトスナックをラインアップすることで、これまで以上に選ぶ楽しさやワクワク感を感じていただける売り場にしたいと思いました。
それには見た目の変化も重要と考え、カラフルなパッケージのスタンドパウチ商品も導入しました。ギフトはきれいな化粧箱に入ったものという発想を変え、気軽に手に取りやすい包装形態を採用。グランカルビーとしては、チャレンジングだったと思います。
後藤:スタンドパウチ商品の導入は、最初、百貨店の商品には向かないなどの意見もありましたよね。スーパーで販売されている商品みたいだと。でも、販売を始めるとお客様からの反応が良くて、ホッとした記憶があります。500円ぐらいの手軽な価格帯というのも、良かったのだと思います。
下田:2020年のリニューアル時は、ナチュラルな雰囲気の売り場に合わせすぎて、色合いがおとなしすぎた面もありました。最初のスタンドパウチ商品は、ビビッドなピンクや青のパッケージで目立ちましたよね。スタンドパウチという新しい形状やカラーの商品が加わったことで、売り場に動きが出て、楽しい雰囲気になりましたね。
次の10年に向けて、どのような進化を遂げていくのか?
―「グランカルビー」の今後の展開について、お聞かせください。
増田:以前は、洋菓子のような美しいパッケージに入ったスナック菓子を出してみたいと思っていましたが、ギフトってそういうことだけではないんですよね。ご提案の仕方次第で、ポテトスナックがギフトになる可能性はまだまだあると思っています。カルビーのポテトスナックはおいしいですし。
お客様のニーズを捉えて、ギフトになるポテトスナックのシーン拡大を狙っていきたいです。
後藤:百貨店で販売するからには、カルビーでしかできないような商品を開発できたらうれしいですね。
下田:私は売り場でお客様とコミュニケーションをとることが多いので、もっと客層を広げていきたいと思っています。お酒にもピッタリなので、男性のお客様を増やすとか。たくさんの方に知っていただきたいです!
文・写真:間瀬理恵