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流通最前線で武者修行中。AIで流通を変革する日を夢見て。

2016年、“レジのないコンビニ”アマゾンゴーの発表が世間を震撼させてから早5年――。日本国内でも、コロナ禍で接触を避けるキャッシュレス決済が普及し、人々の購買行動におけるデジタルに関する動きは加速しています。スーパーをはじめとする小売業の在り方はここ数年で大きく変わりました。

その流れは小売業だけにとどまらず、商品を提供するメーカー側も変化の時を迎えています。お客様の購買体験をテクノロジーで変えていく…そんな未来のために立ち上がったのがデジタルシフト推進担当マネジャーの松永さんです。今回の記事では、流通のDXに取り組む苦悩と葛藤に迫ります。

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松永 遼(まつなが りょう)
カルビー株式会社 営業企画本部 流通戦略部 デジタルシフト推進担当マネジャー
2007年入社。営業、財務、マーケティング担当を経て2016年から小売業のデータ分析に携わる。2017年に一般社団法人リテールAI研究会に加盟し、小売業のAI活用に向けて各社と手を組んで奔走。2021年より現職。


業界・業種の垣根を超えた取り組み

流通(リテール)業界をAIで変革することを目指し、2017年に発足したのが一般社団法人 リテールAI研究会(以下、リテールAI研究会)。小売業、卸売業、メーカー、IT企業など250社を超える企業が所属するAI活用の実証実験を行う日本最大級の流通関連団体で、カルビーは設立当初から所属しています。

「自分たちで立てた仮説をもとに、研究会に参加している小売業の店舗を使って検証することができます。通常では考えられないスピード感で物事を進められるのが魅力です

松永さんは、リテールAI研究会に参加するメリットについて語ります。

「自社だけでできることには限界があるので、業界・業種の垣根を超えて協力できる場は本当に貴重だと感じますね

流通とひと口に言っても、メーカー、卸売業、物流業、小売業の連携によって成り立っているため、どこかのプロセスだけDXを進めても流通全体の改善につなげるのは至難の業です。リテールAI研究会のような形での取り組みは国内でもまだ例は少ないですが、DXの歩みを大きく進めるには、業界横断で取り組むことは必要不可欠のようです

また、松永さんは、「普段関わりの薄い企業の方たちとネットワークができたのは、思いがけない収穫でした。特に日用品・雑貨、お酒カテゴリーなどはAI活用に関して先進的な取り組みをしている企業も多く、一緒に活動することでいつも勉強させていただいています」と、リテールAI研究会に参加する他社の姿勢にも大きく刺激を受けている様子でした。

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リテールAI研究会内で活動する「リテールメディア分科会」の座長を務めたことや、パッケージデザインにAIを取り入れている点などを評価され、今年10月「リテールAIアワード」を受賞した


実験結果から見えてきた「カルビー×デジタル」の可能性

リテールAI研究会の中には、位置情報データを用いた競合店分析を行う「次世代競合分析分科会」、AIによる自動棚割りの可能性を検討する「棚割り最適化分科会」など、複数の分科会が存在します。カルビーは自らの希望で「リテールメディア分科会」に所属し、店舗におけるさまざまな実証実験を行っています。

2019年9月~の第1期では、コンビニ店舗にデジタルサイネージ(映像を投影するディスプレイ)を設置し、赤外線センサー、ウェブカメラなどで来店したお客様の属性や行動を記録して、デジタルサイネージに投影した内容による購買行動の違いを分析しました。結果から、「投影するのは静止画より動画の方が目に止まりやすい」「ターゲティング広告は時間帯によって訴求内容を変えた方が効果が高い」ということなどが分かりました。2021年4月~の第2期では、対象店舗にドラッグストアも加わり、業態による違いなども比較しています。

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検証中の店舗の写真。デジタルサイネージとの距離が遠い人には、季節に応じた一般的なメッセージ、近い人にはターゲットの属性・状況に合わせたコンテンツ、商品を手に取った人にはクーポン表示、など最適な内容を訴求した

分科会の活動を通して感じたのは、カルビー商品とデジタルの“相性の良さ”だといいます。


「デジタルの良さはその活用スピードにあります。データから素早く現状を把握し、素早く打ち手を打ち、改善につなげられる。カルビーの商品は購買してくださるお客様の層も広く、店舗での回転も速いので、活用のもととなるデータの数が桁違いです」

データを活用するうえでは、松永さんが過去に小売業のID-POS(いつ誰がどの店舗で何をいくつ買ったかが分かるデータ)分析をした経験が活かされています。

「2016年から約5年間、小売業のID-POSデータを用いてスナック菓子カテゴリーの販促計画を立てる仕事をしていました。メーカーにいるとどうしても自社商品を主語にして考えがちですが、ID-POSを分析する上ではお客様を主語にして考えます。お客様Aとお客様Bという似た購買行動をする方々をグルーピングして、傾向と対策を立てるなど…。お客様がどういう思考で購買に至ったのかを考え抜いた当時の経験が、徹底的なお客様視点で考える原点になっています

ID-POSでは購買する前にどう悩んだのか、なぜ購買しなかったのか、といった購買前の行動までは測ることができません。店頭で購買前の行動を数値化することで、小売業に対してもより一歩進んだ提案ができるのではないかと、松永さんは分科会の活動を進めます。一方、実証実験での失敗からの学びもありました。

「棚の前に立ち止まったお客様に対して、商品クーポンを発行したいと考え、デジタルサイネージ上にQRコードを映し、それをお客様自身のスマートフォンで読み取ってもらってレジで提示してもらうという実験を行いました。でも実際に運用してみると、お客様にとってはすごくハードルが高く、面倒な作業だということが分かりました。AIを活用することでお客様の体験がどう変わるかというところまで具体的にイメージして提案しなければ、机上の空論で終わってしまうと改めて実感しましたね

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分科会第2期の活動では、各メーカーの個別実験に加え、全メーカーが同じテーマで行う共通実験も実施しました。各社が協力して活動し、他社の失敗も自分たちの糧にすることができることで、業界全体の改善スピードが向上することも、業界横断で活動することの大きな利点だと言えるでしょう。

松永さんの考える“未来の買い物のカタチ”

日々、流通の未来を考える松永さんに、将来的にお客様の購買はどう変化していくかを尋ねてみました。

「すごく難しい質問ですね(笑)。でも、自分ごとに置き換えると、買い物している上で“不便なこと”はなくなっていくのだろうなと感じています。例えば、レジ待ちだったり、重いものを運ぶことだったり、支払いの時にお金を出すことすら最近は面倒ですよね。

店舗で働く従業員の方に関しても、品出し、補充、レジ閉め、棚卸しなどは自動化されていき、売り場づくりや企画立案などに時間を割けるようになるなど、業務内容は変化していくのではないでしょうか」

ネットショッピングが主流になりつつありますが、リアルな店舗での買い物は廃れないと松永さんは続けます。

「特に食品に関しては、皆さんどこかで“リアルなお店で買いたい”という想いがあるように感じます。ネットでは分からないテクスチャー(香り・見た目・質感)を感じたいという気持ちや、買い物する行為そのものが楽しいという気持ちがあるからでしょう。私自身も、必要なものはネットで購入することもありますが、週末に子どもを連れてスーパーに行くのは1つの楽しみになっています。」

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リアルな店舗は、買い物を楽しみたい人が新しいものと出逢えるマッチングの場ともいえます
※写真はイメージです

「“不便なこと”はテクノロジーで解決したいと思いますが、リアルな店舗に行くこと自体はやめたくない。それは、見たことのないものと出逢えたり、値段やクオリティで驚きを与えてくれたりする、楽しさと発見が詰まった場所だからです

仲間とともに固定概念との飽くなき戦いに挑みたい

インタビューの最後に、今後の展望を尋ねると、「カルビーの中で仲間が欲しいですね(笑)」と松永さんは笑いました。

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「社内ではまだ活動への認知も低いですが、小売業はどんどん変化していて、流通DXは数年のうちに大きく進むでしょう。その波が来た時に乗り遅れてはいけないという危機感も持ちながら仕事をしています。リテールAI研究会で得た成果は社内に持ち帰り、積極的に還元していきたいです


活動開始当初、デジタル活用の要請をした小売業は1社に留まっていましたが、時代の変化とともに需要が増し、現在では5社から依頼を受けています。大きな転換点を迎えている今、カルビー内で流通DXに対応する取り組みを加速させていくために、どんな人財を求めているか尋ねてみました。

「固定概念にとらわれない人…でしょうか。私自身も幼いころから“新しいもの好き”で、古い慣習やしきたりにとらわれないタイプの人間です。飲食店やコンビニでも、新商品しか頼みません。毎日、冒険しっぱなしです(笑)。流通の世界には古い慣習も多いですが、それを打ち破っていく力を持った人と一緒に仕事ができたら幸せですね

インタビュー中、現在の仕事に対して終始「刺激的で面白い」と語る姿が印象的でした。業種・業界の垣根を超えて、ライバル企業とともに流通の未来を変えていけるか――そんな命題を背負って奮闘する松永さんの今後に、期待は膨らむばかりです!


リテールAI研究会HP:https://retail-ai.or.jp/


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