「コンソメパンチ」はなぜパンチ!?45周年を迎えたロングセラー商品の誕生に迫る
カルビーのポテトチップスにはさまざまなフレーバーがありますが、1970年代に誕生した「うすしお味」「のりしお」「コンソメパンチ」の3つは“定番”として長く人気を集めています。
中でも、異彩を放っているのが「コンソメパンチ」です。
発売当時、日本ではまだ珍しかった“コンソメ”をポテトチップスの味に選んだこと。そして商品名には、味だけでなく“パンチ”というワードを付け加えたこと。いろいろな工夫のもとに、この商品は生まれました。
「コンソメパンチ」が誕生したのは1978年。開発をリードしたのは、のちにカルビーの3代目社長を務めた故・松尾雅彦さんでした。
「まさに雅彦さんのひらめきが生んだ商品です」
そう回想するのは、元カルビー上級常務執行役員の阿紀雅敏さん。当時、新卒入社2年目の若手社員として、雅彦さんのもと、「コンソメパンチ」の開発に携わっていました。今回は、当時の現場を知る阿紀さんに、誕生から45周年を迎えた「コンソメパンチ」の開発秘話を聞きました。
当時マイナーだったコンソメが、なぜ「新しい味」の候補に?
カルビーがポテトチップス事業に本格参入した1970年代、すでに他社がポテトチップスを販売しており、カルビーはいわゆる“後発”でした。そしてこれが「コンソメパンチ」の誕生に関わってきます。
カルビーは、まず「ポテトチップス うすしお味」(1975年)で市場に参入し、翌年「ポテトチップス のりしお」(1976年)を発売しました。いずれもすでに他社が販売していた味でしたが、他社より低価格で販売したり、印象に残るコマーシャルを放送したりするなどして、徐々にシェアを拡大していきました。
一方で、関東地区のシェア拡大は難しかったといいます。
「まだカルビーがポテトチップスのブランドとして浸透していなかった時期でしたから、苦労しました。そこで、この状況を変えるために『カルビーオリジナルフレーバーのポテトチップスを作ろう』と考えられたと聞いています。」
こうして雅彦さんを中心に、新商品の開発が始まることに。阿紀さんも一員となりました。では、それからどのような経緯で“コンソメ”が選ばれたのでしょうか。
「ポテトチップスはアメリカから入ってきた食べ物ですから、商品を作るときはまずアメリカに学ぶのが基本でした。人気の味付けを見ると、1番はおおむねソルト系(塩)で、次に来るのがバーベキューのようなビーフ系の味付けなんですね。塩味はすでにカルビーでも出していましたから、必然的にビーフ系の商品を開発することになったのです」
そこで行き着いたのがコンソメでした。コンソメの出汁は牛肉や鶏肉からとられていますから、ビーフ要素があることは間違いありません。ただし当時、日本でコンソメは「ほとんど家庭に普及していなかった」と、阿紀さんはいいます。その味をポテトチップスに合わせたのでした。
「これはもう、雅彦さんの“ひらめき”と“引き出しの多さ”としかいえません。とあるフランス料理店でコンソメスープを飲んだときに、アイデアが浮かんだそうです。普段から本当にいろいろなものを食べていた方で、日頃の食の経験がアイデアにつながったのでしょう。私も後日、そのお店に行きましたよ」
アイデアが生まれた後は、開発チームでコンソメスープの味を一度分解し、ポテトチップスに合うように再構成してフレーバーを作っていったとのこと。「数学でいうところの『因数分解』を味の世界でやっていくのが、私たち開発の仕事なんです」と、阿紀さんは口にします。
「最初は私もコンソメに親しみがなくてよくわからなかったんですけどね。すき焼きならわかるんですが(笑)。ただ、ポテトチップス自体がアメリカから来た新しい食べ物でしたから、同じように海外から新しく来たコンソメを組み合わせるのは良いと思いました」
コンソメに“パンチ”を加えたのは文字数へのこだわり
こうして味付けが固まると、次に待っていたのが商品名を決めるプロセスです。なぜシンプルに「コンソメ」とするのではなく、「コンソメパンチ」にしたのでしょうか。
「『7文字にこだわった』と聞いています。雅彦さんは語呂の良さや響きの良さを大切にしていて、ネーミングは3・5・7文字が良いと考えていました。なかでも5文字や7文字は、俳句や短歌があるように、日本人の耳にも残りやすいといえます。最初は『コンソメ』で発売しようとしていたところ、途中で響きが良く、世の中にも定着していた“パンチ”という言葉を加えて7文字にしたとのことです」
パンチは1978年当時の流行語でもあり、パンチをきかすなどのいい回しで、元気がよいとか勢いがある、という意味で使われていました。強く印象に残る商品名にしたいという想いが、この名前に込められていたのです。
文字数に関していえば、「かっぱえびせん」や「サッポロポテト」など、「コンソメパンチ」以前に発売されていたカルビーの商品にも“7文字”のネーミングが見られます。それらもアイデアにつながったのかもしれません。
「味をそのまま商品名にしないのは、すでに発売されていた『サッポロポテト バーベQあじ』にも通じる発想で、味そのものよりも少し広い表現、想像が広がる表現になっていますよね。当時まだ馴染みのないコンソメだからこそ、パンチという言葉を加えることで、広く、大人から子どもまで親しみを持てるネーミングにしたのだと思います」
「コンソメパンチ」を一気に成長させた隠し味「梅肉パウダー」
商品名も決まり、1978年11月にいよいよ発売が始まりました。しかし、発売直後はなかなか人気が出ず「ピンチだった」と阿紀さんはいいます。開発チームは、その原因を味の設計にあると分析。打開策として、すぐに「梅肉パウダー」を加えました。するとこれが転機になり、人気は上昇。カルビーのポテトチップスを代表する定番の味に成長していったのです。
「梅肉パウダーを入れるアイデアには、私も驚きましたね。これも雅彦さんの発想です。理由として、開発初期の『コンソメパンチ』は、最初から最後までずっとコンソメの味が続き、飽きてしまうのではないかと。そこで前半はコンソメの味を楽しみ、時間が経つ中で徐々にポテトチップスそのものの味、じゃがいもの甘みを楽しめる二部構成にしたかった。そのために取り入れたのが梅肉パウダーだったのです。」
なぜ梅肉パウダーなのかというと、ポテトチップスを噛むうちに梅肉の“酸味”が出ることで、口の中のコンソメ味が一度リセットされ、その後はじゃがいもの味わいが広がっていく作用が期待できたため。いわば「味を切り替える役割」でした。
「酸味を持った材料なら当時いろいろ出ていたのですが、既存品の酸味料ではなく『コンソメパンチ』用にイチから梅肉パウダーを作ったのも印象的でした。すでにあるものを組み合わせるのではなく、もの自体から作る姿勢は、その後私が商品開発を行う上でも大きな学びになりましたね」
この時に入れた「梅肉パウダー」は、現在でも、「コンソメパンチ」の隠し味として使われています。
リニューアルで大切にした、変えてはいけない商品の「記号」
それから長く販売されている「コンソメパンチ」ですが、1996年に大きなリニューアルも行っています。阿紀さんはその中心にいました。
「リニューアルするときに大切なのは、その商品の『変えてはいけないところ』を明確にすることです。商品にとってキーになるものをまずはっきりさせて、そこは不動にし、他の部分を変えなければいけません。私はそれを商品の“記号”と呼んでいますが、記号は商品コンセプトのような文章で表すものというより、実際に食べて感じるその商品らしさです。このときも、まずは『コンソメパンチ』の記号が何かを捉え直すところから始めました」
1996年になると、コンソメも世の中に普及しており、阿紀さんはありとあらゆるコンソメ関連の食べ物を口にして、一つひとつの味をマッピングしたといいます。その上で「コンソメパンチ」の記号が何かを見つめ続けました。
「私が出した結論は、『コンソメパンチ』の袋を開けて一枚目を食べたとき、口の中に最初に広がる香りや味わい、その第一印象こそが“変えてはいけない記号”だということでした。この部分はそのままにして、ほかの点を改良していったのです」
これ以降も「コンソメパンチ」は中身を少しずつリニューアルしてきましたが、「食べたときの印象がずっと変わらないのは、『コンソメパンチ』の記号がしっかり守られてきたからでしょう。変わっているけど変わらない。だからこそ長く愛されているのだと思います」と笑顔を見せます。
阿紀さんは、長らく商品開発に関わり続けたほか、ポテトチップスそのものの改良も担当しました。すでに退職されましたが、長いカルビーのキャリアにおいて、若い頃に携わった「コンソメパンチ」は思い入れのある商品だといいます。
「これからもずっと、愛され続ける商品でいてほしいですね。おいしく、体に良いものを作るのはもちろん、同時に環境を含めて、社会的責任も果たすのが食品メーカーの使命です。原料やものからこだわるカルビーならできるはずですし、その姿勢は梅肉パウダーのアイデアにも表れていました。『コンソメパンチ』は、そんなカルビーらしさの詰まった商品です」
カルビーオリジナルのポテトチップスを作ろうと生まれた「コンソメパンチ」。誕生から45周年、これからも定番の味としてあり続けます。
編集・写真:櫛引 亮
文:有井 太郎(外部)