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このじゃがいもはどこから来たの?を知るトレーサビリティ「じゃがいも丸ごと!プロフィール」開設秘話

皆さんお気づきですか?
カルビーのポテトチップスの袋にあるこのマーク。

「じゃがいも丸ごと!プロフィール」は、お手元のポテトチップスから、使われているじゃがいもの生産者や生産地、品種、製造工場などのトレーサビリティ情報にアクセスいただけるWEBサイトです。

カルビーが製造するポテトチップスのトレーサビリティ情報の公開はなぜ、どんな想いから始まったのか、「じゃがいも丸ごと!プロフィール」開設に奔走した初代担当の江口聡さんにお話を聞きました。 

江口 聡(えぐち さとし)
カルビー株式会社 カルビージャパンリージョン マーケティング本部 本部長
1988年入社。営業、物流、経営企画、マーケティングを経て2002年に「かっぱえびせん」ブランドマネジャー、2005年より本社マーケティンググループにてコーポレートメッセージの制定などを担当。
CVS事業本部、経営企画本部などを経て2023年4月より現職。



きっかけは企業イメージ調査で見えた社内意識のギャップ

―「じゃがいも丸ごと!プロフィール」は、ポテトチップスに使われているじゃがいものトレーサビリティ情報を公開していますが、そのきっかけや当時の状況など教えてください。

江口:「じゃがいも丸ごと!プロフィール」公開の前、2005年は初の創業家外の社長が就任し、あらためて全社一丸となって、自分たちの強みを発揮しようという機運が高まっていました。
私たちの企業姿勢を示すコーポレートメッセージをつくろうと全社横断プロジェクトがスタートし、私もこのプロジェクトに携わりました。

はじめにカルビーの企業イメージを把握するため、社外と社内全社員を対象にアンケート調査を実施しました。どの項目もほぼ同じ評価結果だったのに対して、ある項目だけ社内外の評価にギャップが見えたのです。

それは、社外では“カルビーは活気のある会社”と評価してくれているのに対して、社員からは“社内に活気がない”という結果でした。


じゃがいものトレーサビリティと信頼


―“活気がない”という結果が、トレーサビリティとどう関係していたのでしょうか。

江口:全社一丸となって行こう、という時に“活気がない”という自社評価はやはり問題です。この結果はどこに起因するんだろうと、その議論からプロジェクトは始まりました。

カルビーは真面目で正直な社風があります。そのためか、少しでもできていないことがあれば、実際できていること自体も対外的に言わない、といった面を持っています。
ですので、当時すでに加工用国産じゃがいもの取扱量は日本一、契約生産者とフィールドマンが二人三脚でおいしいじゃがいもを作り、それをカルビーが生産、販売を担い、お客様にお届けする・・・と畑から製品までのトレースはできていました。またじゃがいもの研究にも注力し、誇れることがあるのにアピール下手というか足りていなかった。

カルビーポテトが開発したオリジナル品種「ぽろしり」

江口:頑張っているけれど、外から評価されない、それが自分たちの自信につながらず、結果社内に“活気がない”状態なのではないかという答えに行きつきました。

じゃあ、活気を取り戻すために何をやろうかとなった時、じゃがいもの品質管理や研究などの取り組みはきっちりできていることだから、ここはしっかり外に伝えていこう、それが自信になるんだ、といったところがベースとなりました。自分たちを信じていなければお客様の信頼を得ることは難しいですから。


―それがコーポレートメッセージ「掘りだそう、自然の力。」や「じゃがいも丸ごと!プロフィール」につながっていくんですね。

江口:コーポレートメッセージを基に商品軸では健康的で楽しくておいしい、“自然の恵み”を食べていただけるシンボリックな商品を出していくことが、私たちのじゃがいもの取り組みをお客様に伝えることなんじゃないかなと。「カルビー大収穫祭キャンペーン」も同様です。

そして“取り組みそのもの”を対外的に伝えていくには、お客様が手に取ったポテトチップスから“カルビーのじゃがいも”を知っていただき信頼につながるような情報―トレーサビリティを公開しようと。これが「じゃがいも丸ごと!プロフィール」につながっていきます。


家庭菜園で閃いたアイデア

 江口:このトレーサビリティ公開は、実はもう少し前から検討していて…かつて私が社内提案していたことでもあったんです。
 
もともと自然が好きで、農作物にも興味があり趣味で畑をやっています。
農業や農作物への問題意識は常に感じていました。

入社16年目、九州支店で営業をしていた頃、カルビーのブランディングをテーマに「カルビーブランドのじゃがいもを青果販売できないか、携帯電話で生産者や生産地などのトレーサビリティ情報をみる仕組みを作りたい、カルビーのじゃがいもが青果売り場にあることでより一層、取り組みがお客様に理解されるはず・・・」と経営陣へ提案していました。

ですので担当になった際、「ああ昔そう言ってたよな」とその時の思いが蘇りましたね。

現在は8㎡ほど、一番広い時は50㎡に40種もの野菜を栽培していたそう。もちろん、じゃがいもも!


実現への課題と道のり

―カルビーでは「三連番地管理」(*)と呼ばれるシステムで、じゃがいもの生産情報から商品になるまでを管理していましたが、これが基盤になったのでしょうか。

三連番地管理:イメージ図/ [ CSRレポート2009 ]より

「三連番地管理」とは・・・カルビーでは圃場・工場・売り場の3つの場所で原料となるじゃがいもの品質チェックを行い、その情報を一元管理する「三連番地管理」システムを確立。生産者や圃場、収穫日、品種などの情報をコンテナ単位で管理することにより、製造日と生産ラインを特定すれば、使用しているじゃがいもの全情報を確認できるというシステム。
現在はそれを発展させ、原料からお客様の手にお届けするまでを一貫させた垂直統合型の管理体制「10プロセス」でサプライチェーンマネージメントを行っている。

江口:当初は「三連番地管理」のデータもあるし、すぐに実現できるような雰囲気だったのですが、「三連番地管理」はじゃがいもの入ったコンテナと生産地・生産者・品種データを紐づけ、そのコンテナがどの工場に入ったかまで追うものでした。

―そのデータだと何が不足しているのですか?

江口:ポテトチップスの袋から生産者・生産地に辿るには、データのルールをつくりイレギュラーなデータを整理する必要がありました。
 
例えばじゃがいもをコンテナではなく、バラで貯蔵している場合があるのですが、全部コンテナに入れ替えるのは非効率ですし、ひとつの倉庫には何十人かの契約生産者さんのじゃがいもが入っている、その場合どう紐付けるんだと。

コンテナ貯蔵の場合、各コンテナに生産情報とJANコードが印字されたシールが貼られている。
写真はバラ貯蔵の貯蔵庫の膨大な量のじゃがいも。「じゃがいも丸ごと!プロフィール」では、その倉庫に入っているじゃがいも生産者全員のお名前を表示している。

江口:またポテトチップス1袋に1生産者の表示がわかりやすく理想ですが、製造ラインが動いている以上、絶え間なく次のコンテナのじゃがいもが流れてくるため生産者(コンテナ)で区切るのは難しい。

コンテナ投入口から製造ラインに途切れなく流れるじゃがいも。現場ではだいたいこの辺り、と目途がついても厳密には区切れない。


江口
:それならと、製造ラインの区切りを1日単位にしたのですが、24時間稼働している工場で、1日の区切りをどこにするのかというルールづくりも必要でした。
工場には日を跨ぐじゃがいもの使用をなるべく避け、前日投入したじゃがいもが流れ切ってから生産日印字の切り替えを実施してほしいと要請し、システム的にはじゃがいも使用が日を跨いだ場合はフラグを立てて両日に生産実績があがるようにしました。

こういった細かい課題がたくさんありましたが、トレーサビリティである以上、そのルールはしっかりとしたものが必要ですので、全国の工場を回って導入の意義をお伝えしました。


―契約生産者さんの名前の扱いでも課題があったと伺いました

江口:契約生産者さんのお名前を出すにあたって、全国約1,700戸(2023年3月期)の契約生産者さんの許諾を得るために各産地を回りました。
カルビーポテトのフィールドマンは契約生産者さんに受け入れてもらえるかと不安に思っていましたが、契約生産者さんから反対の言葉は聞かなかったですね。
お客様がトレーサビリティを知ることで安心して食べてもらえれば、じゃがいもの必要量も増えていきますし、何より自信を持って栽培されているからだと思います。

掲載の段階でもまだ課題がありました。生産者名を整理していくと、親子代々で家族経営の場合、代替わりしても先代名のままだったり、〇〇ファームや〇〇会社などの団体名の扱いもルールがなかったので細かい調整が必要でした。

開始から約17年経った今も更新を続けています。(画像はイメージ)


―ここまで約1年、かなりのスピードでの公開です。

江口:各支店、工場を「じゃがいも丸ごと!プロフィール」の説明で本当に飛び回りました。

愛用の手帳は「じゃがいも丸ごと!プロフィール」で全国各地を回っていた17年前からのものだそうです。


「じゃがいも丸ごとプロフィール」の役割とこれから


―社内では“じゃが丸”の愛称で呼ばれる存在ですが、ネーミングはどのように決まったのですか?

江口:最初はトレーサビリティの仕組みを作ることをメインで進めていたので、じゃがいも生産者検索システムは仮で進行していました。
しかし開示内容を考えていくうちに、じゃがいもに関する情報はなるべく出そうとか、生産者のプロフィールや生産地の情報も合わせて出そうなどと話は広がり、じゃがいもに関する情報をまるごと開示する、じゃがいもだけでなく、生産者や生産地のプロフィールもしっかり伝えていこう、となり「じゃがいも丸ごと!プロフィール」というネーミング落ち着きました。ちょっと長い名前なんですけれど。

―時代背景も当時に比べさらに持続可能な環境、社会、農業への意識が高まっていますが「じゃがいも丸ごと!プロフィール」のこれからをどうお考えですか?

江口:「じゃがいも丸ごと!プロフィール」の意義は、トレーサビリティそのものです。
ポテトチップスは大人から子どもまで、あらゆる世代の方においしさと楽しさをお届けする商品ですから、ポテトチップス1袋ずつのトレーサビリティ情報を公開することは、お客様の安心につながります。

お客様からの信頼が社員の活気や自信となり新しい商品や企業活動を生み、それが企業価値を上げていくベースになる。
そうやっていろんなことが重なり合ってお客様から見たときに、活気があって明るいだけでなく、企業として信頼できるという評価につながるんだと思います。

じゃがいもの品質には自信を持っていますし、ここは他では真似できないカルビーならではの仕組みだと思っています。これからもお客様に信頼いただける企業であるために安全・安心につながる情報を適切に公開していく、そのひとつが「じゃがいも丸ごと!プロフィール」の役割だと思います。


文・写真:伊藤 奈美子

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