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「さやえんどう」の品質を守り続ける“職人魂”

現場を支えるプロフェッショナルな従業員の商品づくりにかける情熱に迫る「職人魂-THE CALBEE」の2回目です。

皆さんは「エクストルーダー」という機械をご存じですか? カルビーの商品でいうと「さやえんどう」を製造する機械です。新宇都宮工場(栃木県)と広島工場(広島県)の2拠点に設置されています。「さやえんどう」のおいしさは刻々と変化するエクストルーダーの調整によって保たれています。いつも変わらない品質をキープするために必要なこととは?!

今回はエクストルーダーの若き匠、松山卓大さんにお話を伺いました。

松山さん写真

松山 卓大(まつやま たくだい)
新宇都宮工場 生産本部 東日本生産部 スナック製造課 班長
2010年カルビー入社。鹿児島工場 ポテトチップス製造課配属。2012年に新宇都宮工場 スナック製造課へ異動し、2018年から現職

「さやえんどう」をつくり出す「エクストルーダー」とはどんな機械?

まずは「エクストルーダー」という聞きなれない言葉。この機械について説明しなければなりません。エクストルーダーとは、原料を移送しながら「混錬」「加熱」「加圧」処理を行い、2軸スクリューとそれを覆うバレルにより、押し出し及び成型する食品加工機です。そう聞いても「???」ですね。英語辞典で「エクストルーダー(extruder)」を調べると「押し出し機」と出てきます。イメージすると、混ぜ合わされた原料を、マヨネーズを絞ったときのように押し出す機械でしょうか。混ぜ合わせから押し出すまでを1台の機械で完結できます。

マヨネーズのイラストをイメージとして掲載
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なんとなく想像していただけましたか? カルビーの「さやえんどう」はこの機械によってつくり出されています。

松山さんはどうして「エクストルーダー」の達人と呼ばれるようになったのでしょうか?

「私が『さやえんどう』の製造部門に異動となった2018年当時、4人いた社員は皆さんベテランで、その方たちが持つスキルや経験を継承しなければというタイミングでした。世代交代をきちんと行うために私が呼ばれたのだと思います。全員が定年退職後にシニア社員として活躍されていましたが、引退も目前。できる限りのことを聞いておこうと必死でした。製造現場の方って寡黙な方が多く、自分が黙っていたら何の情報も入ってこないのです。なので、恥ずかしがらずに分からないことは何でも質問していました。ホント、危機感ばかり感じていて、データ化できないセンスや経験値をどうやったら自分のものにできるかいつも考えていました」。

松山さんが話している画像

「エクストルーダーから押し出される製品の原型は、いい状態が続いているなと思っていても、急にガラッと状態が変わることがあります。30分機械から離れて、戻ってきた時には『あれ?』というような。だから、定期的によく観察するしかないのです。今までなかったのに今一瞬あった、という変化を見逃さないことが改善につながる可能性があるのです。日々データを自分の中に積み重ねていって、瞬時に変化のパターンが分かるよう努力しました」。

松山さんはエクストルージョンクッキング法という理論も勉強されたそうです。理論を解釈することで、外からは見えない機械の中がどういう状態なのかを想像して改善を促していくのです。製品の形で出てきて初めて品質が分かるというのは、「エクストルーダー」って手ごわい機械ですね。それでも、たゆまない努力によって松山さんは達人と呼ばれるようになっていきます。

原料の品質に左右されない職人技

「さやえんどう」は1994年に発売されました。えんどう豆の旨みと甘みを感じる味わいに加えて、食物繊維やタンパク質などの栄養がたっぷり含まれノンフライでヘルシーな豆スナックとして、子どもから大人まで長く愛されています。発売当時からのレシピをほとんど変えずに、歴代の職人たちが同じ品質や味わいで提供することで価値を守ってきました

さやえんどうのパッケージ

しかし近年、「さやえんどう」の品質を大きく左右する原材料が気候変動の影響を受けているようです。

「『さやえんどう』のえんどう豆はカナダやイギリスなどから仕入れています。2019年ごろから気候変動による世界的な熱波の影響でえんどう豆の品質に異変が起きています。エクストルーダーは、原材料が最終的な商品の品質に大きく左右します。逆に言うと、原材料が良ければ職人は必要ないほどです。でも、商品の品質を下げるわけにはいきません。原料に合わせて機械を微調整しながら、お客様にご満足いただけるような製品に仕上げています。これは自分の力だけでは難しく、研究開発や物流、品質保証などいろいろな部署の方々にサポートしていただいているからこそ実現できています」。

さやえんどう製造ラインの画像
「さやえんどう」製造ライン

松山さんがエクストルーダーの担当になった2018年。「さやえんどう」の品質を維持するために、先輩たちに積極的に質問すること、機械を知ること、理論を勉強することなど、さまざまな努力をしてきました。このような状況がたった4年で松山さんが達人と言われるようになった理由なのです。

「さやえんどう」に新しい仲間が誕生する…かも

カルビーは中期経営計画(2024年3月期)において、タンパク質の多い商品(※)の売上構成比10%を経営目標としています。「さやえんどう」は1袋(61g)中のタンパク質が10.7gとカルビーの商品の中でもタンパク質が多く、この目標達成のためにも重要な商品といえます。
※総エネルギー摂取量に占めるタンパク質の構成比が13%以上のもの

しかし、エクストルーダーで製造される商品を「さやえんどう」1品だけに頼っているわけにはいきません。この夏に新しい商品が誕生しました。その名も「さやだいず」です。どのような商品なのでしょうか?

さやだいずのパッケージ

「原材料をえんどう豆から大豆に変えてエクストルーダーで製造した商品です。タンパク質が豊富で、ノンフライでとてもヘルシーなところは『さやえんどう』と同じです。まるで大豆を食べているかのような味わいをぜひ試していただきたいのですが、テスト販売でしたのですでに終売しました。お客様の反応はとても良く、今後お店で見かけたら手に取っていただきたいです」。

先ほどの松山さんの話にもありましたが、「エクストルーダー」は製品の形で出てきて初めて品質が分かります。商品を企画し、これはうまくいきそうと想像しても、結局うまくいかずに消えていった商品もあります。逆に難しそうだな…と思ったのに、すんなりできてしまう商品もあるそうです。

「『さやだいず』は比較的順調に商品化できました。カルビーが日本で生産している商品の中で『さやえんどう』のシェアは圧倒的に少ないので、エクストルーダーでつくる商品のアイテム数をもっと増やしていきたいです。アメリカでは『HARVEST SNAPS』という商品名で日本よりも多く生産されています。豆ベースなので、野菜売り場で売られていて、アメリカ人にはより健康的なスナックとして人気なんです!

アメリカで売られているHARVEST SNAPS
アメリカの売り場

日本では隠れファンが多くて『実はさやえんどう好きなんですよ』と、『さやえんどう』を好きという人は『実は』という枕詞を付けます(笑)。堂々と『さやえんどうが好き』と言っていただけるように、これからもおいしい『さやえんどう』をつくり続けます」。


松山さんが話している様子

これからの製造現場を担う方々へ

駆け足で職人への道を登った松山さんですが、今後は自分の後を継ぐ人材の育成に力を注いでいかれるそうです。

「私は良い商品づくりには、機械、原料、職人が必要だと思っています。どれが欠けても良い商品にたどり着けない。『さやえんどう』は原料の品質の変化をカバーするために職人技といいますか、知識や技術を磨かなければならなかった。原料の良し悪しは自分ではどうすることもできませんが、自分のことは何とでもできます。これから技術を受け継ぐ方に伝えたいのは、とにかく『聞く』でしょうか。以前、難しいことを簡単にやっている大先輩がいたので『難しくないですか?』と聞いたら『難しい…そういえばそうだね』と難しいということを忘れて当たり前のようにやっていたのです。当たり前だと思っていることをわざわざ人に伝えないじゃないですか? だから、話しかけて仕組みやコツを聞き出すことが大切です。長い道のりですけど、努力したことは全て自分のためになりますから。職人とは一日にしてならずです(笑)」。

「職人魂-THE CALBEE」では、商品づくりの現場を支えるプロフェッショナルな工場従業員に迫ります。次回もお楽しみに。

【カルビー新宇都宮工場について】
栃木県宇都宮市の清原工業団地にカルビー新宇都宮工場はあります。カルビーの工場の中では最大規模で、ポテトチップス、サッポロポテトやさやえんどうなどのスナック、Jagabeeなどを製造しています。(操業開始:1995年)

新宇都宮工場の外観
カルビー 新宇都宮工場
編集後記

文・写真:間瀬 理恵


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