2030年までに売上高比率40%超を目指す!/カルビー海外事業のこれまでとこれから
日本国内のカルビーファンのみなさんは、カルビーが海外でも数多くの商品を販売していることをご存じでしょうか。国内のカルビーファンの目に触れる機会はあまり多くないかもしれませんが、それぞれの国や地域の文化や食習慣に応じた工夫をしながら、その国ならではの商品を多数販売しています。
カルビーが今後ますます力を入れていく海外事業のこれまでとこれからについて、海外事業を統括する常務執行役員の笙啓英さんにお話をうかがいました。
笙 啓英(しょう けいえい)
カルビー株式会社 常務執行役員 海外カンパニー プレジデント
国内大手総合商社でのキャリアを経て、2013年に入社。海外事業本部 本部長を経て、2019年4月より現職。各国での事業展開をリードしている。
世界9つの国・地域でカルビーの商品を販売
―カルビーで展開している海外事業の概要を教えてください。
笙:現在、海外事業は9つの国・地域で展開しています。カルビーは上場前の2009年から本格的に事業拡大に乗り出しました。1970年の北米市場参入以来、タイ、中国で展開していた事業を、中華圏やヨーロッパ、オーストラリアやインドネシアにも拡大していきました。私自身は2013年にカルビーに入社し、2016年から海外事業全体を統括しています。一時期は世界各地に14の拠点がありましたが、事業の成長スピードとカルビーグループが持つ資源の適正配分を考慮し、適切なスピードで成長していこうという方針のもと、事業の選択と集中を行いました。
現在では北米、中華圏、英国、インドネシアを重点エリアとしています。これらの地域はマーケットが大きく成長が見込めます。カルビー全体の売り上げのなかで海外事業が占める割合は、私が入社した頃は5%ほどでしたが、直近では約20%まで成長してきました。
カルビーは日本国内ではスナック菓子のトップシェアを誇る企業ですが、日本は少子高齢化社会で今後の需要の伸びは限定的です。日本国内に安住していては大きな成長は望めません。2019年に策定した「2030ビジョン(長期計画)」では、海外市場を更なる成長の軸として確立し、2030年にはカルビーの売上の40%を海外事業で担うことを目標に掲げています。
―カルビーの海外事業の歴史で、大きな節目となった出来事がありましたら教えてください。
笙:これまでになかったことをしたという意味では、2018年にイギリスのポテトチップスの会社であるSeabrook Crisps Limitedを事業買収したことが挙げられます。この会社では「Seabrook Crisps」というポテトチップスを製造・販売しています。イギリスは世界でもトップクラスのポテトチップス消費国で、この商品もお店にたくさん並べられています。そのメジャーな商品の販売力を活用することで、カルビー独自の商品もお店に並べていただきやすくなりました。この事業買収はとても大きな効果があったと思っています。
海外での事業買収例としてはもうひとつ、2019年にアメリカのWarnock Food Products, Incを買収しました。こちらはスナック菓子のOEM(受託生産)ビジネスを主とする会社です。アメリカでは元々日本で販売している「さやえんどう」を現地の嗜好に合わせた「Harvest Snaps」という商品の売り上げが好調でしたが、買収によってWarnockの設備を活用し、ひとつの商品の売り上げに頼った事業運営からの脱却を図ることが目的です。
アメリカのスナック市場は数社のメジャーブランドが大きな割合を占めているのですが、同時に各スーパーマーケットが独自のプライベートブランドを展開し、日本よりも大きなシェアを占め、更に成長しています。そのような安定性を事業の基盤として、この会社の生産設備を使ってカルビーブランドの商品を新たにつくっていくことへの挑戦を進めていきます。また、アメリカには大きなアジアンマーケットがあります。現在、日本・香港・タイからカルビー製品をアメリカに輸出していますが、これらの需要を現地の生産で補ってゆく取り組みも進めていきます。
Warnockの製造ライン(箱詰め)
海外事業に関してもうひとつご紹介したいのは、中国での成功事例です。実はカルビーの中国事業は、2015年までに一度失敗しています。しかし「転んでもただでは起きない」の精神で、2016年にアリババなど現地のEコマースを活用した輸出販売を始めました。
実はこれに先だって、ラッキーパンチがありました。北海道土産として日本のお客様に人気の「じゃがポックル」が、中国では「三兄弟」というニックネームでブレイクしていたのです。中国の方々が北海道旅行にいらした際のお土産として大人気となり、私たちも知らない間にニックネームまでついていたんです。
中国では「じゃがポックル」だと誰もわからないけれど、「ポテト三兄弟」だと「ああ、あれね!」と反応する方がたくさんいるそうです。その知名度を活かしEコマースで販売したところ、途端に事業が黒字に転じました。
そうこうしているうちに、今度は「フルグラ」が売れ始めました。2つ目のラッキーパンチです。2016年にEコマースの販売を始めて、2020年の決算では中国のEコマースの売り上げだけで100億円を突破しました。
中国でも沿岸の都市部を中心に、新しいスタイルの朝食を嗜好する方々も増えてきており、従来の朝食に代わるものとして「『フルグラ』は美味しい!」と受け入れられたようです。中国の方が日本へ旅行するとドラッグストアを訪れることが多く、「フルグラ」もお土産として爆買いされていました。中国はSNS文化だけでなくEコマースで商品を買う文化も日本よりはるかに浸透しています。そういった中国の時流を捉えてEコマースから商品を展開する戦略に舵を切ったこと、そして中国国内の需要に対応すべく短期間で生産体制を整えたことに2つのラッキーパンチが重なった成功事例と言えるでしょう。
中国で販売されている「フルグラ」シリーズ
こうした成功事例を次につなげるべく、現在は「『じゃがりこ』チャレンジ」に取り組んでいます。「じゃがりこ」は日本では多くのご愛顧をいただいていますが、だからといって中国でそのまま売れるほど単純ではありません。Eコマースで得たの我々の知名度を活かし、かつ積極的に投資をすることで、中国で「じゃがりこ」を拡販していこうとしています。まだまだ売り上げ規模は小さいですが、順調に推移しています。
カルビーが誇る「智の泉」を海外事業に活用したい
―海外事業を展開していくなかで、国や地域に応じた工夫や苦労があればぜひ教えてください。
笙:アメリカなど現地で商品を製造できる海外拠点では、「現地のことは現地が決める」ことを徹底しています。カルビーには「信じる」ことを重視するカルチャーがありますから、基本的には現地のマネジメントを信じて決めてもらいます。「買ってつくって売る」ことを現地で完結するための人・設備・情報などが揃っている拠点では現地で考えて決めてもらうのが基本ですが、現地で足りない資産は日本のカルビーにこんこんと湧き出る「智の泉」から支援を届けています。
「智の泉」とは、カルビーがこれまで蓄積してきた商品開発や品質保証に関する技術や知識、人材など蓄積した財産のことです。現地のお客様に喜んでいただける商品を、日本の「智の泉」を活用しながら海外拠点の従業員が現地で考えてつくるという構図です。
一方で中国には日本から商品を輸出しているので、中国の人の意見を聞きながらも日本にいる我々がつくり上げていかなければなりません。日本と中国のマーケッターの意見をどう合わせていくか、同時に、いかに日本品質の基準を担保していくか。加えて、スピードも重要です。
中国やアメリカでは、日本よりはるかに速いスピードで世の中が変わっていきます。我々の海外でのシェアは日本に比べてとても小さいですから、スピードに対応できなければ負けてしまいます。いかにスピード感を維持しながら海外事業を堅実に展開していくかバランスの取り方が肝要です。その危機感を共有できるようメンバーとの意識合わせには常に気を遣っています。
カルビーの楽しさと美味しさをより多くの人に届けたい
―海外事業を統括する笙さんはどのような思いで仕事にあたっているのでしょうか。
笙:カルビーの商品はとても美味しい。ですが美味しいだけでは商品は売れません。特に海外事業においては、売り方に工夫の余地があるようにも思えるので、もっと商品を売れるように国内外のメンバーと共に知恵を絞って改善していきたいと考えています。
私たちの目的は何なのかというと、英語では「Fun & Tasty」。つまり、「カルビーの楽しさと美味しさをより多くの人に届ける」ということをずっとやっているんです。四半期ごとのミーティングでは、子どもが美味しそうに「かっぱえびせん」を食べている写真を見せて「これをやりたいんだ」と海外カンパニーのメンバーみんなに伝えています。私たちはその光景のために、日々厳しい交渉をしているんです。ある意味でとてもシンプルな仕事だと思っています。
海外カンパニーメンバーと共有している我々の目的、「楽しさと美味しさ」を表す光景としてプレゼンの最後にいつも差し込んでいる写真
―海外に向けてより多くの人に美味しさと楽しさを届ける、非常に夢のあるお仕事ですね。
笙:そうです。私の立場としては、国内のカルビー従業員全員に「海外事業は面白そうだな、楽しそうだな」と思ってもらえるように社内向けの広報活動をしなければなりません。コロナ禍でなければカルビーの国内の拠点すべてを回りたいところです。
海外事業で売上の40%をまかなうということは、単純に考えると従業員の40%が海外事業に関わっていなければならない。現状はそうなっていません。海外事業に力を入れるために、国内の従業員とのコミュニケーションを強化したい。国内の「智の泉」を探し当てて、海外のどの拠点に届けるか知恵を絞りたいですね。
―特に思い出に残っている出来事はありますか?
笙:入社したばかりのころ、出張先の台湾で、現地の工場を訪問するため新幹線に乗りました。車内販売のワゴンが近づいてきたのですが、僕の隣に座っていた小さな女の子が、お母さんからの「何が食べたい?」との問いかけに、ワゴンに積まれていた「Jagabee」を指さしたんです。
それまでのキャリアにおいて私は、いくら儲かったかが最優先のビジネスに携わってきました。しかしその光景に接して「これが商品の価値なんだ、こんなに嬉しいんだ」と感激してしまいました。
私は車内販売で「Jagabee」が売られていることも知りませんでしたし、女の子が指さしたことも完全な偶然です。まさにこれが「Fun & Tasty」なんだなと実感しました。カルビーの一員として気合いが入りましたね。
―海外展開にあたって、カルビー独自の強みは何ですか?
笙:カルビーの従業員は、商品のおいしさと安全・安心については世界最高基準のこだわりを持っています。これは海外展開にあたっても守っていくべきものです。しかし日本の商品を海外にそのまま持っていくのはちょっと違います。
海外の商品全般に言えることなのですが、日本ほど製造にお金をかけられていません。日本は品質(安全・安心・おいしさ)にとことんこだわってつくるからどうしてもコストが高くなります。日本と海外では、原価に対する考え方に大きな違いがあります。
日本の品質への思い入れをそのまま海外に持ち込むと、現地での価格競争に勝ち残ることはできません。国によって、そこのバランスをいかに取っていくかが重要です。品質を担保しながら、現地の厳しい競争に勝てるように考えていく必要があります。
またカルビーは国内向けの商品で多様な食感・フレーバーを出しています。それを実現するだけの発想の柔軟さと加工技術は、カルビーが日本で長い年月をかけて培ってきた叡智です。今はまだその叡智を「智の泉」として海外事業へ伝播しきれていないなと思っています。カルビーが誇る品質保証、開発、マーケティングの「智の泉三兄弟」を上手に国際化しないといけないなと考えています。しっかり「智の泉」を引き出して、海外事業に活用していきます。
国内の多種多様な商品群
ラッキーパンチを呼び込むカルビー商品の魅力
―日本のカルビーファン向けに紹介したい海外の商品を教えてください。
笙:アメリカでOEM生産を受託しているプライベートブランドで、「ホワイトトリュフポテトチップス」という商品があります。黒トリュフより貴重な白トリュフを使った現地で大人気の商品ですが、これが本当においしい! インドネシアのヒット商品「Potabee(ポタビー)」もとてもおいしい。個人的には「やきのり味」がオススメです。
韓国で展開している「ハニーバターチップ」もとてもおいしいのですが、この商品の誕生にはある逸話があります。2014年、韓国でセウォル号沈没事故という、修学旅行中の高校生を含む大勢の若者が亡くなった、大変痛ましい旅客船沈没事故がありました。国全体が悲嘆と怒りに包まれるなか、そのような状況でどんな商品を販売すべきか現地のマネジメントと議論を重ね、人々の心に寄り添い、癒してくれるのは優しい甘さではないかとの結論に至りました。
幸いにも、カルビーにはすでに「ポテトチップス しあわせバタ~味」という、バターとマスカルポーネチーズの塩味に優しい甘さを効かせた人気の商品がありました。当時高校生だった私の娘に食べてもらったところ、「パパ、いままでの人生で一番おいしい!!」と言われ、自信をつけて現地に持って行きました。現地の協力を得て韓国で好まれるようアレンジを加え、「ハニーバターチップ」という商品名で韓国での製造・販売が始まりました。
韓国の「ハニーバターチップ」
「ハニーバターチップ」のようなファンシーなパッケージは、韓国にはほとんどありませんでした。というのもそれまで韓国におけるポテトチップスは、ビールのおつまみといったイメージを持たれていたからです。「ハニーバターチップ」は徐々に売れ始めたものの、現地の生産能力に限界があり、すぐに欠品状態になってしまいます。すると「なかなか見つからない商品」として韓国の若い女性の間で評判になりました。そしてなんとか商品を手に入れた彼女たちは、自分が応援しているアイドルに「ハニーバターチップ」をプレゼントし始めたのです。
次に何が起きたかというと、そのアイドルたちが「ありがとう」とメッセージ付きで「ハニーバターチップ」とともにセルフィー(自撮り)をSNSにアップしたのです。中国の「三兄弟」の時もそうでしたが、これも大変ありがたいラッキーパンチでしたね。同じぐらいの広告効果を得るためにお金をかけるとしたら、おそらく何億円もかかるでしょう。こうした情熱的なうねりは、日本ではなかなか起こりにくいことかもしれません。そういう意味で、海外事業でたびたびラッキーパンチを起こしているカルビーは「持ってるねー!」と言われるかもしれません。でも私は、カルビーだからこそラッキーパンチが起きたのだと思っています。普通そういくつもラッキーパンチは起こりませんから。
―ラッキーパンチを呼び込むだけの魅力が、カルビーの商品にはあるということですね。
笙:そう思います。しっかり現地向けに工夫すれば、海外でもちゃんと売れるんです。いまは難しい状況ですが、自由に海外へ渡航ができるようになったら、ぜひカルビーの商品を探してみてください。「ハニーバターチップ」など一部の商品は期間限定で国内でも販売しており、海外へ旅行できず淋しい思いをされている日本のみなさんにも喜んでいただいているようです。今後、日本への輸入・販売を定番化させたいと考えています。
Warnockで製造された新商品「MY POTE」もオススメです!
―最後に、カルビーの海外事業の展望について教えていただけますか。
笙:やはり大きいマーケットを強くしていかなければなりません。重点4地域について端的にご説明するとまず北米は、いまある設備を最大限に活用していきます。中国についてはEコマースで一定の知名度を得ることができたので、今後はスーパーマーケットなどオフラインでも販売を拡大していきます。オンライン・オフライン両方で認知度を上げるために積極的に投資していきます。
英国はマーケットエリアの拡大に注力し、インドネシアは競合との厳しい価格競争に対して、原価を下げて売り上げを伸ばす努力を継続します。以上の重点4地域に加えて、タイを中心としたASEANでの生産力と開発力を上げていくために、人的・設備的投資も進めています。
あとは先ほども申し上げたとおり、国内のカルビー従業員に海外事業を理解してもらい、「智の泉(=well of wisdom)」を海外事業へ活かすための活動と情報発信も根気よく続けていきたいと考えています。
編集部より:今後はカルビーが海外展開している各国の情報をお届けしていく予定です。どうぞお楽しみに!