ひとくちサイズの「フルグラ®」を全国発売するまでの道のり
オーツ麦を主原料とし、複数の穀物を香ばしく焼き上げたザクザク食感のグラノーラとフルーツの酸味と甘みが楽しめる「フルグラ®」。私たちにはそんな「フルグラ®」の栄養やおいしさを、もっと多くのお客様へお届けしたいという思いがありました。ひとくちサイズボールにし、いつでもどこでも手軽に食べられるようにしたのが、2020年3月に全国発売をした「カルビッツ フルグラ®」です。
2013~2014年のテスト販売では、高評価を得て大きな反響がありました。しかし、量産化へのハードルが高く発売直前で中止を余儀なくされることに。そんな、ひとくちサイズの「フルグラ®」の量産化を成功させ、全国発売するまでのお話を、当時研究開発を担当していた赤宗健吾さんにお聞きしました。
女性がひとくちで食べられるサイズの「フルグラ®」
1988年、スナック菓子をメインに事業を行っていたカルビーが、シリアルや朝食という新しい分野に挑戦してから10年以上経った2000年代。商品ターゲットである女性に「フルグラ®」の意識調査をしたところ、購入する意向はあるが、実際には購入していないことがわかりました。特に20・30代の女性に大きなギャップがあったのです。理由としては、準備と片づけに手間がかかるため、購入をためらうことがわかりました。そこで、簡便でかつ間食としても食べられる商品の開発が始まりました。
2005年、赤宗さんは「フルーツグラノーラクッキー」というクッキー生地に「フルグラ®」を練り込んだシリアルバーの開発に携わっていました。この商品は忙しい朝や、軽く食事を済ませたいときの代替品として、いつでも、どこでも手軽に食べられる栄養機能食品でした。
その後、「フルグラ®」の売り上げが伸長したことで、“「フルグラ®」はバラバラしていてつまんで食べられない”“お菓子のようにひとくちで食べたい”などのお声をいただくように。そうしたニーズに応える商品を作ろうと、再び女性がひとくちで食べられるサイズの「フルグラ®」の開発がスタートしました。2012年ごろには今と同じボール状の商品が誕生。2013年から2014年にテスト販売をしたところ、“ながら食べができて良い”“ひとくちサイズの中に必ずドライフルーツが入っていておいしい”と好評を得て、全国販売を目指します。
量産化できる機械を購入し設備を整え、生産を始めたところ、想像していなかった問題が発生。このままでは製造できないことが分かりました。そのころ、北海道に異動していた赤宗さんは「大変なことが起きているな」と思ったそうです。
販売中止となりましたが、当時の担当者は間食でも食べられる「フルグラ®」のニーズは高いと信じ、諦めずに情報収集は続けていました。量産化への情熱は捨てずに模索し続けた中、生地を丸くする機械とも出会えました。2016年には失敗点の洗い出しと反省を行い、再スタートすることに。2回目の量産化に向け本格的にプロジェクトが始動した2017年から携わるようになった赤宗さんは問題点についてこう話します。
「前回の問題点は大きく2つありました。1つ目は、商品を丸くする機械の選定でした。大量生産できるように大型の機械を入れたのですが、丸くならずたくさん作ることもできませんでした。2つ目は、オーツ麦をはじめとした穀類やフルーツを丸く固めるためのシロップの選定と分量でした。シロップをたくさん使うとうまく固まるけれども食感が硬くなってしまいます。逆に少なくすると固まらずにボロボロに崩れてしまうからです」
テスト販売の少量生産の時は、問題にならなかったことが、量産化する際には大きな問題となっていました。試行錯誤を重ねて、シロップは決まりましたが、このシロップは時間経過とともに物性が変わっていくため、大きな機械で連続生産するにはまだまだ課題がありました。
過去の失敗例が参考に
「過去の失敗例の材料はそろっていたので、逆にそこを改良していけばいいというところからテストを始めました」と赤宗さんは話します。
1年以上かけて関係者みんなでアイデアを出しながら、品質が変っていくシロップを運ぶ工程を解決していきました。また、2014年の失敗例をもとに、赤宗さんの考えは大きな機械で生産するのではなく、小型な機械で、生産回数をこなす方法へとチェンジしました。
「シロップは時間経過とともに物性がどんどん変わってしまいますが、小型の機械にすることで、この問題は解決します。しかし、少量で連続して製造をしていくには、原料投入から包装までの全ての工程を予定通りに進行させる必要があります。そのため、機械の大きさや能力を一つずつ検証することがかなり大変でした。全部のデータをとって、どのサイズであればどんな分量ででき、どの流量であれば合わせていけるかを組んでいきます」
一般的な商品の場合、機械が一式そろっているため、機械メーカーでテストすることができます。しかし、この商品は世の中にないものだったため、全工程を一度に試すことができませんでした。
「会社を説得するために、工程同士をつなげて問題ないかテストを何度も行いました。丸い形状を作る成型機はカルビーにあったので、それを機械メーカーまで運んで生地を混ぜる機械とつないで機械テストをしました。工程ごとに違う会社からそれぞれの機械を買ってつながないとテスト生産ができないので、難しい点でした。また通常は、工程と工程をつなぐ部分は計算で算出して進めるところを、実際に工場に設置するときに必要なサイズを購入して試しました」
こうして、会社を説得する検証データを集めて、ようやく機械を購入し工場に設置することになりました。
テストでは見えなかった想定外の問題が勃発
工場に機械が設置されたのは2019年12月でした。機械単独で性能に問題がないか、確認をします。2020年1月中旬には、機械同士をつなげて試運転を開始しました。試運転の段階でも、想定外のトラブルが発生。大なり小なり何か起きるとは想定していたけれども、「フルグラ®ボール」は想像しないようなことが次々と起こったそうです。
「オーツ麦をはじめとした穀類にフルーツやナッツを入れてシロップと混ぜ合わせるのが一番難しいところでした。シロップの取扱いが難しく、安定した品質にするのがなかなかうまくいきませんでした」
生地を作って成形工程につなげていくときに、作った生地が連続的に次の成形工程に繋がるように流量を調整するのも苦戦したそうです。実際につないでみないとわからないため、何度もトライ&エラーを繰り返すしかなかったのです。開発だけでなく、製造や技術などみんなで機械の前に座り込んで、現場を見ながら知恵を出し合いやり遂げたのです。
「2月の前半まで、品質が安定しない状況で発売が3月と決まっていたので、焦りがとてもありました。商品の特性をきちんと理解し、量産化まで加工を落とし込むのが開発の責任だと思っているので、一番大変でした。一度失敗していることを経験した人と、2014年当時を知らなかった人も携わったのが良かったです。前回の失敗を経験した人の思いや、まっさらな目で機械を見る人の率直な意見がうまく融合して、みんなで協力できたのが、大変な問題を乗り越えられたポイントだったと思います」
生地が安定し丸い形状にすることができてくると、今度は新たな問題点が出てきました。
「『フルグラ®』は不定形で、角の部分が包装材を傷つける可能性があることが、量産化することで初めて分かりました。ピンチの連続です」と当時を振り返ります。
ここでも、関係者でアイデアを出し合いながら、包装機や包装材を改善することで、クリアしていきました。
ひとくちサイズに込められた大きな思い
いろんな困難を乗り越えて、ようやく全国発売に。それから約4年、「ビッツ」はこのたび「ボール」となり、商品名やパッケージを改良しながら、間食「フルグラ®」として女性に人気の商品となりました。
「『フルグラ®ボール』のおいしさは軽い食感なんです。丸く固めているのに、普通の『フルグラ®』のようなザクザクとした食感にしています。実は違和感のない食感にするのはめちゃくちゃ大変なんです。『フルグラ®』を固めれば『フルグラ®』より硬くなるのがあたり前なので。食感にとてもこだわっています」
「この商品が誕生するまでに本当にたくさんの人々の協力がありました。自分が担当でなくなってからも違う担当者が改良をしていって、いろんな人がつないでいった商品です」と赤宗さんは話します。
今回、リニューアルする商品に対して「どんどん改良していって、いい方向に変わっても、このひとくちサイズの商品は続いていってほしいです。開発はあくまで裏方で全部が思い通りになって順調に進んだら、それが一番のご褒美みたいな仕事です。お客様に喜んでもらわなければ意味がないと思うので、きちんとお客様にも商品の良さが伝わってほしいです」と赤宗さんは期待を込めます。
過去の失敗も糧にしながら、情熱を持ち続けた人たちがつなげたひとくちサイズの「フルグラ®」には、たくさんの人のアイデアや思いが詰まっています。きっと、これからもつないでいくと思います。
文・写真:町田 有希