見出し画像

【特別対談】Calbee✖️KAGOME 「自然の恵み」を大切にしてきた両社が考える、農業とサステナビリティ経営のこれから

今回のトップ対談のお相手は、トマトジュースなどでおなじみのカゴメです。
 
両社は、お互い企業理念で謳っている「自然の恵み」を大切にし、畑での栽培・収穫から商品として生活者にお届けするまで、一気通貫のビジネスを行ってきました。生産者と契約し、農作物の栽培や収穫をサポートしているところも両社の共通項でしょう。
 
そんなビジネスを営む上で、今考えなければならないテーマがサステナビリティです。カゴメの山口聡代表取締役社長と、カルビーの江原信社長が、農業の未来や持続可能性について意見を交わしました。

山口 聡(写真中央)
カゴメ株式会社 代表取締役社長

江原 信(写真右)
カルビー株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

後藤 綾子<ファシリテーター>(写真左)
カルビー株式会社 サステナビリティ推進本部 本部長


農業との二人三脚、社会課題の解決と自社の成長の両立に欠かせない

後藤:今回の対談は、「カゴメの山口社長とお話ししたい」という江原のリクエストで実現しました。
 
江原:カルビーとカゴメは本当に似ている点が多く、事業内容はもちろんのこと、じゃがいもとトマトも実は同じ「ナス科」という共通点があります。ぜひ一度じっくりお話ししたいと思っていました。
 
山口:カゴメの契約生産者を回っていると、近くでカルビーの契約生産者をよく見かけます。また、ともに研究施設を栃木県に構えていることもあり、若手研究員の交流などもさせていただきました。私もこの対談を楽しみにしていました。
 
後藤:そんなお二人に、今回はサステナビリティをテーマにお話を伺えればと思います。企業は今、社会課題の解決と経済価値の創出を両立することが求められています。持続可能な社会を実現しつつ、継続的な事業成長を進めるために、どのようなことを実践しようと考えていますか。
 
山口:カゴメでは、2016年に「2025年のありたい姿」を掲げて、社会課題の解決と事業成長の両立を目指して活動してきました。特に力を入れて取り組む社会課題を「健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」「持続可能な地球環境」としています。
 
私たちの会社は、社会課題の解決と事業成長の両立がしやすい立場にいると考えています。なぜなら、野菜をたくさん摂取していただくことは、健康寿命の延伸や農業振興といった社会課題の解決につながりますし、当社の事業成長にもなるためです。

こうしたことから、カゴメでは野菜をおいしく、上手にとれる商品やメニューの開発を強化したり、異業種の企業・団体と共同で「野菜摂取推進プロジェクト」などを進めてきました。先ほどこの対談の前に、当社の「ベジチェック®(※1)」を江原社長に体験していただきましたが、これも野菜をたくさん食べていただくために開発したデバイスです。

※1:手のひらをセンサーに押し当てると、約30秒で推定野菜摂取量を測定できる機器。

江原:ベジチェック®で具体的な数字が出ると、野菜をしっかり摂ろうという気持ちが生まれますよね。カゴメさんならではの取り組みだと思います。一方、カルビーはまた違ったアプローチを進めています。
 
私たちが両立を実現する上で重要になるのは、カルビー創業の精神である「未利用資源の有効活用」や、企業理念である「自然の恵みを大切に活かす」という考えです。これらを追求していく中で、“おいしさ” や“楽しさ”などの価値を提供することが、社会に貢献し、なおかつ自社の成長をもたらすことにつながるでしょう。
 
また、社会課題の解決に貢献する商品づくりにも注力しており、たとえば健康志向が高まる今、塩分を控えた商品やたんぱく質を多く含む商品の開発・展開も進めています。
 
もうひとつ、サステナビリティの観点で重要なのは、農業の持続可能性を高めていくことです。カルビーは国内に約1700戸の契約生産者がいますが、高齢化や後継者不足の問題は年々深刻になっています。こうした中で私たちにできるのは、農作物に付加価値をつけて生活者に届けること。それが生産者の収入増になり、後継者を増やすことにつながると考えています。

山口:カゴメの契約生産者は、国内に450ほど。私たちが使うトマトなどの原料は、多くが海外のものであり、カルビーとは国内の栽培規模に大きな違いがあります。それでも、農業の後継問題は私たちも直面していて、離脱される生産者が増えている現状です。
 
江原:こうした中で、私たちは生産者や農業全体と協働していかなければなりません。それが社会課題の解決と事業成長の両立につながるのは間違いないのです。

安定した収穫や生産者の負担軽減、そのために両社が行う「品種改良」

後藤:生産者の後継者不足に加え、近年は干ばつや豪雨など、地球温暖化による気候変動の影響も大きくなっています。こうした中で持続可能な農業を実現するため、両社ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
 
江原:カルビーでは、じゃがいもを安定して調達するための品種改良を行っています。暑さに強い、いわゆる「耐暑性」の高い品種や、病害虫への抵抗性が強い品種など、さまざまな観点で改良を行い、品種登録を進めてきました。
 
なかでも、2017年にカルビーグループ独自の新品種として登録した「ぽろしり」は、これまでの品種に比べて病害虫に強く、収量の増加につながると見ています。今後も、気候変動に適応するため、暑さに強い品種などを考えていきたいですね。じゃがいもの品種開発や改良は約15年かかるといわれますが、農業の発展のために、私たちが力を入れなければならない領域です。

山口:品種改良は、まさにカゴメでも力を入れている分野です。たとえばトマトなら「同熟性」の高い品種も研究しています。同じタイミングで赤く熟せば、機械による一斉収穫がしやすくなり、手作業が減って生産者の負担軽減になるからです。一方でカゴメトマトジュースに使用している品種「凛々子®」は、手収穫する時に実にヘタがついてこないようになっています。手収穫作業の負担軽減や生産ラインへのヘタの混入防止につながっています。
 
こうした動きを促進するため、カゴメでは、国内外に分散していた品種や栽培技術の開発部門をひとつに集約した「Global Agricultural Research & Business Center(GARBiC)」を設立しました。研究者やブリーダーが国をまたいで知識を共有することで、今後、より開発を強化していきたいと思っています。

江原:お話に出た「生産者の負担軽減」も重要なテーマですよね。カルビーが行っているのは、生産者の栽培や収穫をサポートするコントラクター(作業請け負い)事業です。収穫の際に、私たちが大型機械やスタッフを提供してお手伝いをするなどがその例。この事業は年々拡大していますね。
 
そのほか、持続可能な農業という点では、限りある資源を大切に使うことも必要です。肥料も資源のひとつで、多くを海外から輸入していますから、過不足なく適正に使うことがポイントに。それは自然保全にもつながるでしょう。
 
たとえば多くの肥料に含まれる「リン酸」。農作物の栽培には欠かせないものですが、畑の土壌を分析すると、すでに十分なリン酸が蓄積されているケースがあります。そういった場合は肥料を減らし、反対に不足している場合は肥料を付与するといった取り組みを、カルビーの契約生産者、ホクレン農業協同組合連合会、帯広畜産大学と一緒に進めています。リン酸減肥の普及率を当社のサステナビリティ活動におけるKPIにも定めています。
 
山口:テクノロジーを活用して資源を守ることも重要になるでしょう。カゴメとNECの合弁会社「DXAS(※2)」では、AIを活用した加工用トマトの営農支援事業を欧州で展開しています。客観的なデータや熟練者のノウハウを習得したAIによって、生産性の向上を図ることができるようになりますし、環境への負荷低減にもつながります。たとえば、干ばつによる水不足に悩まされている生産者に対して、AIのアドバイスにより少量の水で栽培できるように支援しています。

※2:Digital transformation(DX)、Agriculture、Sustainableの略

農業の大切さを生活者に伝えるために、何をしていくべきか

後藤:すでにさまざまな取り組みをしている両社ですが、今後、農業の持続可能性を確かなものにしていくためには、どのようなことが鍵になると思いますか。
 
江原:農業の現場で積み重ねられている工夫や努力を、きちんと生活者に伝えることではないでしょうか。すると、それを見た生活者は農業の大切さに目が行き、持続可能性に思いを巡らすと思います。
 
この考えに至ったきっかけは、取引先の方々が口にした言葉でした。カルビーでは毎年、取引先の方をじゃがいもの収穫体験に招待し、畑での収穫の様子をお見せしたり、品種改良について詳しくお話ししたりしています。そのときに「こういう努力をもっと発信してほしい」という声が聞かれたのです。じゃがいもに詰まったさまざまな工夫や努力を生活者に伝えることが、農業への興味につながると。
 
これらが発端となり、カルビーのじゃがいもづくりに関する取り組みやこだわりを届ける「じゃがい者」というCMをスタートしました。

CM「じゃがい者」の一場面。帯広川西地区の契約生産者が、じゃがいもづくりをサポートするカルビーグループの「フィールドマン」を紹介。

山口:とても重要ですね。私たちも同じ考えを持っており、生活者が野菜を育てて収穫するなど、直接的な農業体験の場を増やしたいと考えてきました。
 
そのひとつとして、長野県富士見町に設立した体験型観光施設の「カゴメ野菜生活ファーム」では、野菜の収穫体験を行っています。年間約3万6000人ほどが訪れています。小さい頃に野菜を育てるなどの野菜に親しむ経験があると、野菜が好きになるという調査結果もあり、 “次の野菜好き”を育てる場にしていきたいなと考えています。

カゴメ野菜生活ファーム

もうひとつ、約7万人の会員がいるコミュニティサイト「&KAGOME」では、サイト上で、会員の皆さまが野菜についての会話や、栽培する上での悩みなどを語っています。私もここで「オクラづくりに挑戦します」と宣言し、実際に育てたオクラの写真を投稿しました。
 
江原:こうした取り組みを通じて、日本の農業を支援していきたいですね。特に日本のじゃがいもは、北海道を中心に大規模な栽培をしており、世界的にも高い競争力があります。衰退することは避けなければなりません。
 
とはいえ、一社でできることには限りがあります。さまざまな企業と連携することが大切ではないでしょうか。私たちもお互い手を取り合いながら、広く農業と協働していければと思います。
 
山口:おっしゃる通りです。企業は自社のビジネスだけでなく、社会に貢献していかなければなりません。これからもいろいろな面で力を合わせていきたいですね。


編集:増田 亮子
文:有井 太郎(外部)
写真:稲垣 純也(外部)


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!次の記事もお楽しみに