創業の地・広島からヒット商品をつくる! 新商品開発チーム「Calbee Future Labo」の挑戦
ヒット商品をつくれー。
このミッションを達成すべく、挑戦を続ける社内チームがあります。
「Calbee Future Labo」(カルビー フューチャー ラボ)。
既成概念にとらわれないよう、本社や開発拠点のある関東ではなく、カルビー創業の地・広島で新商品づくりに取り組むチームです。
顧客ニーズをとことん聞く「圧倒的顧客志向」を理念に掲げ、これまでに2000人を超える生活者にインタビュー。そこで得た気づきをヒントに、社外と協働して新コンセプトの商品を世に届けてきました。
拠点開所から5年あまり。
チームがどんな背景で結成し、現在の理念や商品開発プロセスにたどり着いたのか。
今回は、その歩みについて、立ち上げから現在まで携わるCalbee Future Laboの樋口謹行さんに聞きました。
樋口 謹行(ひぐち のりゆき)
カルビー株式会社 Calbee Future Labo
2013年に新卒入社。研究開発本部で「かっぱえびせん」の新味開発などに従事したのち、2016年4月に立ち上げメンバーの一人としてCalbee Future Laboに参画。現在はチーム内で新商品の企画立案を担当。
顧客を思い、多様な人を巻き込む“CFL流”
広島駅から徒歩3分のビル7階にCalbee Future Labo(以下、CFL)のオフィスがあります。
現在のメンバーは樋口さんを含む7人。うち4人が社外からの参画で、アパレルや雑誌編集、製薬会社など、多彩な経歴を持つのが特長です。
「新しい商品をつくっていく上では、既成概念にとらわれないことが大事です。そう考えると、いろいろなバックグランドを持っていることは強みだと思っています」と樋口さん。
CFLのメンバー(2021年4月撮影時)
Future Laboの名の通り、オフィスの内装は一風変わっています。
入口に靴を脱ぐスペースがあり、室内は土足禁止。「リラックスできる空間」を意識したフロアには、BGMが流れ、掘りごたつやキッチンがあります。
「キッチンでは試作品をつくっています。一般的にはしっかり企画をかためた後に、試作することが多いのですが、CFLでは少しでも面白そうだと思ったら簡単につくってみます。早い段階で間違いや修正に気づくことができて結果的に良いものができるはず。これを“バージョン0.1”から試すと表現しています」
CFLには、理念の「圧倒的顧客志向」をベースにこうした流儀がいくつか存在します。特長的なものが次の2つです。
1つは、顧客ニーズの探求を目的とした生活者インタビュー。生活者の実態をとことん探り、そこで得た気づきを企画にいかしています。
CFLの開発プロセス
もう1つがサポーター制度です。サポーターは「一緒に新商品を作りませんか?」を合言葉に募った社外の仲間で、インタビューの回答や試食会への参加を担います。CFLでは顧客を巻き込んだ開発、社外との連携を大事にしており、その代名詞的存在です。
参加条件は食に興味があること。年齢や性別、住む場所は問いません。募集は、WEBサイト上や名刺サイズのカードを配布して行い、いまでは10~70代の男女約1700人(6割が広島在住)が登録しています。
名刺サイズのカード
サポーターの役割
多様な人を巻き込み、商品を共創する“CFL流”は、社内外の注目を集めています。ただ、「道のりは険しかった」と樋口さんは振り返ります。
「いまでこそ、オープンイノベーションの事例で紹介いただくこともありますが、そんなに格好良いものではありませんでした。計画的に進んだわけではなく、必要なことを一つひとつ組み立ててきました。本当に失敗ばかりで、今より人数も少なく、文字通りゼロからのスタートでした」
突破口を開くため、創業の地・広島に結成
CFL設立の話は2016年にさかのぼります。背景には、経営層の危機感がありました。
カルビーは「かっぱえびせん」(1964年)、「ポテトチップス」(1975年)、「フルグラ®」(1991年)と10年周期でヒット商品に恵まれてきました。しかし、「じゃがビー」(2006年)を最後に、ここに並ぶ商品が出ていませんでした。
そこで突破口を開くため、創業の地・広島に設立したのがCFLです。
パッケージは2022年3月現在
樋口さんは「本社からあえて離れることで得られる独自性も大切です。そこで物理的に距離がある創業の地・広島に回帰したと聞いています。実際に広島に身を置いてみて、カルビーにとって特別な地だと感じています」と意義を語ります。
2016年4月、初期メンバー3人が広島に集まりました。2人は社外からの参画で、社内から唯一選ばれたのが、新卒3年目の樋口さん。貸しオフィスが拠点で、最初の業務はWi-Fiルーターとごみ箱の購入だったといいます。
「カルビーに染まっていない人材を選んだのだと思います。ただ、私は開発の経験が浅く、ほかの2人は食品業界未経験者。何からどう始めれば良いのか、不安も大きかったですね」
貸しオフィスで撮影したCFL初日の様子
ニーズを探求し、つながった学生やサポーター
「自分たちだけでヒット商品をつくるのは無理だ」
チームは一つの結論を出しました。そして「まずは顧客に頼ろう」と、ニーズを探るために生活者へのインタビューを開始。並行して、社外の仲間・サポーターを募っていきました。
樋口さんは「経験や知識、リソースの少ない私たちは顧客を知ることから商品をつくるしかありませんでした。3人でできることは限られているので、多くの人に仲間になってもらう必要があったんです。このとき、何を大事にするかを議論して、理念の『圧倒的顧客志向』や『社外との協働』といった考えがうまれてきました」と回想します。
慣れないインタビューを繰り返す中、方法も改良していきました。
「最初は『食』を中心に質問していましたが、新しいものが生まれる予感がしなかったんです。そこで、視野を広げて生活習慣全般を聞くようにしました。すると、色んな角度で『食』を見ることができて、多くの気づきが得られるようになりました」
いまも使われているこの方法は、まず、インタビュー対象者が事前に1週間の生活記録をシートに記入。それをベースに1対1で話を聞きます。質問は「なぜ、この時間にご飯を食べたのか」、「どうしてこの行動したのか」など。朝起きてから夜寝るまでのことを根掘り葉掘り聞き、そこで得た気づきから、課題を探っていくのです。
1週間の生活記録シートの例
チームは「まずは2000人の話を聞こう!」と目標を定めました。
「2000の数字に根拠はありませんでした(笑)。ニーズを理解し、顧客のためになる商品を企画するには、多くの方の生活実態を知る必要があると考えたんです」
一方で、3人で1回1時間ほどのインタビューを2000人分行うのは途方もない話でした。そこで、次に頼ったのが地元の大学。人づてをたどり、広島工業大学と県立広島大学の学生が“研究生”としてインタビューに協力してくれることになりました。
「大学の協力でインタビューが進みました。学生は良い意味で“社会人の常識”がなく、私たちが疑問に思わないことまで気づくことができました。ただ、初めからうまくいっていたわけではなく、学生にどうやってインタビューを教えるのか、などたくさんの課題がありました。チャレンジの繰り返しです」
インタビューは、大学の単位としても認められ、これまでに総勢100人を超える学生が活動しています。
生活者インタビューを行う大学生(左)※2019年以前に撮影
2000人から得た気づきが企画のエンジン
インタビューで得た気づきは、ふせんに記し、オフィスの壁一面に貼り付けられています。
これまでに話を聞いた生活者数は、いまや約2100人に。
そこから得た“気づき”の数は、3200枚を超えました。※2022年3月現在
第4弾の「にゅ~みん」は睡眠の気づきを基点に開発が進みました
樋口さんは「これが私たちの商品開発のエンジンで、ネタ帳です。ふせんの内容がすぐに企画につながるとは限らないのですが、あえてアナログで貼りだして、常に見える位置に置くことで、ひらめきのきっかけになると考えています」と、ふせんに目をやります。
こうして積み上がった気づきは“資産”として、「もっと商品企画につなげるためにどうすれば良いか悩んでいる」といいます。IT企業と一緒に分析をしたり、視点を変えた別の使い方やインタビューの方法を再検討したりするなど、試行錯誤を繰り返しているのです。
ゼロからスタートし、試行錯誤の末、独自の流儀をつくってきたCFL。その手法を使い、これまで4つの商品を発売しました。
・振った時の「音」と広島らしい「デザイン」が特徴。地域応援をコンセプトに生まれた新感覚のスナック「ふるシャカ」(2018年発売)。
※現在発売していません
・「塾前に子供が食べるご飯に、あったかくて栄養があるものを」という母親の願いから生まれた、食パンにのせ、焼いて食べるおかず「のせるん♪」。※リニューアルして発売中(写真は2019年発売時)
・ビジネスパーソンがランチ後に口の中をスッキリさせたいというニーズから生まれた、食後用ハードグミ「ランチグミー」(2020年発売)。
※現在発売しておりません。リニューアル準備中。
・水なし、手間なしで就寝前に摂取するハードルを下げた、睡眠の質を高める、食べられるフィルム「にゅ~みん」。
※リニューアルして発売中。(写真は2020年発売)。
いずれも新コンセプトで、そのうち3つはスナックやシリアルではない商品。CFLでは「圧倒的顧客志向」のもと、ニーズや課題解決のために必要があれば、技術や知識を持つ他社と一緒に商品をつくります。
樋口さんは「スナックやシリアルで顧客の課題を解決できれば、得意なカルビーがつくるべきです。ただ、解決策がグミやフィルムなど、そうでない場合は、技術や知恵を持つ専門家に力を貸してもらった方が早くて安い。結果、お客さまにとって良い商品ができると考えています」と説明します。
その上で「サポーター、研究生の方々をはじめ多くの助けがあってなんとか、4商品を世に出せました。まだ粗削りでヒット商品とは言えませんが、思い描いたプロセスを実践しながら一歩一歩前に進んでいます」と一定の手ごたえを口にします。
新商品開発の先のステージへ
着実に前に進んでいる反面、ミッションの達成に向けて「道のりは長い」と樋口さんは表情を引き締めます。
「商品開発でいうと、プロセスを早めること。そして開発し続けられる仕組みをつくることが必要です。これまでは開発着手から完成まで数年かかりました。もっと早く、多くの商品を世に届けられれば、皆さんから『次は何か』と期待も、注目もされ、より面白い商品が生まれるはずです」
加えて、こういった「0⇒1」の新商品開発だけでなく、商品認知を高める「1⇒10」も重要だといいます。
「すでに発売した商品は、顧客の反応をみて改良したり、伝え方を工夫したりして、より多くの人に届けたいです」
「のせるん♪」は2021年12月に、「にゅ~みん」は2022年3月に再発売。「ランチグミー」も現在再発売に向けて準備中です。それぞれ、顧客の反応を踏まえたリニューアルをする予定で、一度発売して終わりではないのです。
ヒット商品をつくるため日々挑戦を続けるCFLですが、その価値は「新商品開発するだけではない」と、樋口さんは強調します。
「サポーター、研究生をはじめ、多くの企業・団体との関係、気づきなど、資産がたまりました。これをカルビーグループ全体に還元していけば、協働の相乗効果が高まるはずです」
実際、CFLで本社研究部が研究成果の報告を行ったり、CFL研究生の企画発表会に本社マーケティング本部のメンバーを招いたりするなど、新たな動きが広がっています。こうした広がりや開発プロセス改良の先に、樋口さんは大きな夢を描いています。
「“CFL流”の開発が、型として確立できれば、全国各地で同じような共創ができるかもしれません。そうすれば、業界など問わず多様な人が、それぞれの強みを活かし、一緒に世の中に価値を生み出していけます。考えただけでワクワクしますね」
創業地・広島でゼロからスタートし、多様な仲間を巻き込み、新商品を共創するCFL。カルビーの未来を担うヒット商品をつくるため、チームの挑戦はこれからも続きます。
■「Calbee Future Labo」概要
オフィス:広島県広島市南区松原町5-1 BIG FRONTひろしま7階
URL:https://www.calbee.co.jp/cflabo/
サポーターも募集中です!
中国新聞さんのnoteでも、樋口さんをご紹介いただいております!
前編、後編の2つです。