植物由来の食品をもっとおいしく。「Plant Based Calbee(プラントベースカルビー)」で広げる食の未来
カルビーでは、植物由来の原材料を使用した“プラントベース食”をもっとおいしくするプロジェクト「Plant Based Calbee(プラントベースカルビー)」を推進しています。
といっても、カルビーはポテトチップスの「じゃがいも」をはじめ、もともと植物由来の原材料を使ってきたメーカーですが、今回のプロジェクトには、より大きな目標があります。
それは、プラントベース食により「新しい食領域」での事業を確立すること。食の未来で予想されている課題解決も関係しています。
2022年3月には、第1弾となる商品の販売も開始。そこで、このプロジェクトに携わるマーケティング本部 miinoチームの小岩幸太さんに、Plant Based Calbeeの概要や、目指す未来を聞きました。
なぜ「新しい食領域」を確立することが必要か。背景にある危機
今からさかのぼること2年半前の2019年12月、「Plant Based Calbee」は立ち上がりました。これまでカルビーが携わってきた食領域を超え、プラントベース食を確立することが、今回のプロジェクトを立ち上げた大きな理由です。
なぜ、新しい食領域を開拓する必要性があるのでしょうか。小岩さんは、その背景として、現時点で指摘されている食の未来の課題を口にします。
「将来の食において、さまざまな課題が指摘されています。その一例が“タンパク質危機”です。今後、世界の人口が増える中でタンパク質の需要が増え続け、このままでは2025〜2030年頃に需要と供給のバランスが崩れ始めるというもの。つまり、タンパク質不足の可能性が生じるのです」。
これまでのカルビーは、「じゃがいも」を中心に事業を行ってきましたが、今後は、タンパク質の多い食品も増やすことが、食の未来を拡げるために必要。このプロジェクトは「そういった未来の課題を見据えて行うものでもある」といいます。
こういった考えは、カルビーが定める長期ビジョン「2030ビジョン」にも表れています。
2030ビジョンは「Next Calbee 掘りだそう、自然の力。食の未来をつくりだす。」と銘打ち、この中で、2030年までの目標として「新たな食領域の確立」を明記しています。具体的には、2030年に新規食領域の売上高比率20%超を目指しています。
また、タンパク質についても「タンパク質の多い商品※の売上構成比を2024年3月末までに10%にする」といった目標も掲げています。
※総エネルギー摂取量に占めるタンパク質の構成比が13%以上のもの
「ただし、お肉などの動物性食品は、つくるまでに排出する二酸化炭素なども多く、環境負荷が高いんですね。もしそのタンパク質を、環境負荷が低く、かつ栄養素の高い植物性食品で補うことができれば、未来の課題解決にもつながりますよね」。
たとえば、そら豆を原料にしたカルビーの『miino(ミーノ)』はそのひとつ。豆はタンパク質や食物繊維などの栄養素が豊富で、かつ環境負荷も低い植物性。小岩さんは、2019年の入社以来、ずっとmiinoに携わってきた人でもあります。
カルビーが見据える食の未来の課題解決。そういった背景から立ち上がったのが、「Plant Based Calbee」でした。
カルビーのプラントベースとは「おいしさの後にラッキーがついてくる」
では、「Plant Based Calbee」とはどんなものでしょうか。プラントベース食についてはいろいろな定義が見られますが、カルビーの考えとしては「植物由来の原材料を使用した食品を取り入れた、“ちょっと良い感じ”のライフスタイルを提案することです」と小岩さん。
「プラントベースの食品を生活に取り入れることで、おいしくて、しかもヘルシーというラッキーがついてくる。そんな商品を開発していくプロジェクトです」。
だからこそ、このプロジェクトの商品開発でもっともこだわっているのは「おいしさ」。その理由を、小岩さんはこんな風に語ります。
「プラントベース食は『おいしくなさそう』とイメージしている方も少なくないと思います。商品そのものがおいしくなれば、きっと多くの方が気軽に食べられて、ラッキーを感じやすくなるはず。植物由来だから手に取るというより、あくまで『おいしい』から手に取ってもらいたい。そんな商品を目指しています」。
プラントベース食が注目されている最近ですが、「カルビーはもともとプラントベース食を中心にしてきた企業」と小岩さん。自然のものを活かし、おいしくするのはカルビーの本領であり、企業理念に掲げる「掘りだそう、自然の力。」を示すことができると考えます。
実際に、どんな商品が出来上がったのでしょうか。今回、第1弾として発売されたのは3種類の商品。大豆粉からつくった飲むヨーグルト『SOYぐる』、大豆のフレーク『SOY’s flakes』、大豆の冷凍デザート『Planty Plantie』(プランティ―プランティ―)です。
詳しい説明は後述するとして、どの商品もカルビーの得意なスナック菓子ではありません。特に、ヨーグルトと冷凍デザートは、これまでにない商品分野。これも先ほど述べた「新しい食領域の確立」を見据えたものといえます。
「マーケティング本部長もよく話していますが、いわゆる“出島”のように、いろいろな分野に打って出ようと。完全な新領域の商品もあるので、苦労も多いのですが(笑)」。
もうひとつ、今回の商品に共通する特徴として、大豆由来の原料を使用しています。
タンパク質をはじめとした栄養価が豊富で、しかも、食肉に比べて環境負荷の低い大豆。まさに食の課題解決にふさわしい原材料ですが、この大豆が使われた経緯として、ある企業との出会いがありました。
「植物性食品素材を手掛ける不二製油グループ様との出会いです。この分野のパイオニア企業とお話しする中で、同社の研究する大豆たんぱくをベースに何かできないか考えるところから始まりました」。
また、カルビーは2021年3月に「Plant Based Lifestyle Lab」に参画し、プラントベース食の普及・啓発を目指しています。このLabは、不二製油グループ様などが参画する一般社団法人。こういったことも、今回の商品化の背景にありました。
方向性を決めるまでに1年。全商品に共通する「おいしさ」の工夫
大豆を原材料に使い、カルビーの技術を活かして何かできないか。今回のプロジェクトメンバーが決まり、商品を考える日々が始まりました。それが2020年初頭のこと。この期間がもっとも大変であり「最初の頃は、大豆原料の容器やストローなど、食品に限らずゼロベースでさまざまなアイデアを出しました」と振り返ります。
企画を練った期間はおよそ1年。さまざまな議論を重ねた後、商品の方向性がヨーグルト、フレーク、冷凍デザートの3つに決まりました。
なぜこの3つが選ばれたのか、小岩さんがそれぞれ説明します。
「まず飲むヨーグルトの『SOYぐる』ですが、近年ヨーグルト市場が注目され、また豆乳市場も伸びています。その中で植物性ヨーグルトの市場は今後期待できましたし、素材として大豆に可能性があると思いました」。
ちなみに、カルビーの『フルグラ』にヨーグルトをかけて食べる方が多いという調査も、今回のヒントになったようです。
大豆を使った冷凍デザート『Planty Plantie』も、不二製油様の大豆加工技術や市場調査をする中で「十分にチャンスがある」と分析。こちらの商品は、アイス(氷菓)と冷凍チーズケーキの2種類。牛乳不使用ながら「大豆だからこそ実現した新しいクリーミーさがある」と小岩さんはいいます。
大豆のフレーク『SOY’s flakes』については、タンパク質が豊富かつ、食物繊維もたっぷりな大豆の長所をシリアルに活かせるのでは、という考えから誕生。たくさん食べなくても腹持ちが良いという点もメリットだといいます。
もちろん、出来上がった商品は「おいしさ」にこだわっています。たとえば3商品に通じるおいしさの工夫として、こんなものがあるようです。
「どの商品も大豆を多く使っているので、大豆の風味が強くなり過ぎないようにしました。具体的には、それぞれの材料の配合を決めるとき、豆の匂いをマスキングする成分を入れています」。
目指すは売上100億円。ほかの原料を使ったプラントベース食も
今回の3商品は、一部のスーパーやカルビー公式オンラインショップにおいて、期間限定で販売されます。「この期間の販売結果をフィードバックして、正式販売に持っていきたいですね」と小岩さん。
また、小岩さん自身は、担当商品の『miino』に続いて、今回も豆を使った商品を手がけることになりました。その中で「今後も豆という優れた素材をより生かした商品開発に携わっていきたい」といいます。
「豆は素材そのものが優れた栄養素を持っていて、さらに様々な加工が可能です。今後もおいしさを引き出せるように研究を重ねて、『Plant Based Calbee』での商品化にもつなげられればいいですね」。
小岩さんの目標はこれで終わりません。取材の最後に聞けたのは、個人的にこのプロジェクトで目指しているひとつのベンチマーク。それは、プラントベース食品で、年間売上100億円を達成すること。
「100億円というと、カルビーでいえば『かっぱえびせん』ブランドと同等の売上です。あくまで個人的な目標ですが、その数字を目指したいですね。また、今回はすべて豆を使った商品でしたが、ほかの原料を使ったプラントベース食もつくっていければと思います」。
「Plant Based Calbee」は、まだ始まったばかり。この先に見据えるのは、豆だけでなく、さまざまな植物性原料を使った食品の開発です。自然の力を掘りだすことに全力を注いできたカルビーだからこそ、プラントベース食によって、食の未来を広げていきます。
文:有井 太郎(外部)
編集・写真:間瀬 理恵