「ドリトス」の変貌。日本オリジナル生地と新しい楽しみ方はなぜ生まれた
濃厚で香ばしい味わいに、パリッパリのトルティーヤの食感。そんな特長を持つスナック菓子「ドリトス」が、日本に来て35周年を迎えました。
「ドリトス」は、長い歴史を持ちながらも、ここに来て大きな変貌を遂げています。数年前にスナック生地の改良を行い、日本オリジナルの生地にしたこと。そして、まさにいま、お菓子の領域を超えて「新しい楽しみ方」がSNS発信で広がっていること。
そんなドリトスの変貌について、商品を担当するジャパンフリトレー マーケティング本部の中村博司さんに聞きました。
世界でもガラパゴス的な発展をした、日本の「ドリトス」
「ドリトス」は、世界55カ国以上で販売されているスナック菓子。現在もその国数は増えており、世界No.1※「トルティーヤチップス」です。「トルティーヤチップス」とは、すりつぶしたコーンをこね、薄く伸ばした生地を小さくカットして焼いたり揚げたりしたもの。「ドリトス」は原料のコーンを丸ごとすりつぶして生地を作っています。
発祥は1966年のアメリカ。誕生した経緯はさまざま語られているようで、中村さんはこんなエピソードを話してくれました。
「世界的に有名なテーマパークにあったレストランでトルティーヤを提供しており、あるとき、売れ残ったトルティーヤを揚げてチップスにしたそうです。それを販売したところ好評だったため、スナック菓子として市販化したのが始まり、という話がありますね」
いまでは世界中で「ドリトス」が食べられ、最近もアジアを中心に販売エリアを増やしているのだとか。現在はカルビーグループであるジャパンフリトレーは、当時ペプシコの傘下で、毎月アメリカから工場にスタッフが査察に来ていました。そこから自国で「トルティーヤチップス」が「ポテトチップス」の販売比率と同等なほど人気があると聞き、日本でも大きく成長する可能性があると見込んで、1987年に販売を開始しました。
ところが、発売して最初の7~8年は全く売れませんでした。定着を図るため、日本人向けに生地や味の改良をし、パッケージも変えていきました。1995年ごろにはテレビCMを使い、ノベルティとしてテレフォンカードを作成するなど消費者キャンペーンも頻繁に実施。1997年ごろには「ドリトス」に油脂を2度掛けしたメルトタイプの「スペシャル・ドリトス」を販売。ホットメルトチーズ味が人気商品となり地道な活動で徐々に定着をしていきました。
その後、日本の「ドリトス」は “ガラパゴス的な発展”をしたのだとか。たとえば袋の色と味の組み合わせは、日本と海外で異なるようです。
「日本の場合、赤い袋のメキシカン・タコス味が一番人気で、次に黄色のナチョ・チーズ味、緑のマイルドソルト味と続きます。しかし、世界的にはナチョ・チーズ味が赤い袋で、人気も一番の国が多いんです。ですので、海外の方が日本に来て赤い袋の『ドリトス』を買うと、味が違ってびっくりするかもしれません(笑)」
日本で定着していった「ドリトス」ですが、実はこの5年ほどで大きな変貌を遂げています。それはファン増加にもつながり、売上に反映されている様子。ということで、ここからは詳しく聞いていきたいと思います。
2018年に誕生した「日本オリジナル生地」の秘話
近年起きている「ドリトス」の変貌。その1つ目は、2018年8月に行ったチップス生地の改良でした。
「それまで『ドリトス』のチップス生地には、単一品種のコーンが使われていました。しかし、2018年8月から複数の品種をブレンドした生地に改良したんです。パリッとした食感をより強く感じられ、さらに、噛んでいるうちに旨味が出てくるような生地を求め、1年ほどかけてブレンドを研究。複数のコーンの候補から配合を考えていきました」
日本に「ドリトス」が来てから、期間限定でブレンド生地を使用したことはあるものの、ブレンド生地を採用するのは、この時のリニューアルが初めてのことでした。
「日本人に合う食感や味わいを求めて作ったもので、この生地は世界中の『ドリトス』の中でも日本オリジナルになります」
グローバルで展開する「ドリトス」には、どの国でも必ず守るべきブランドルールが定められています。たとえば、コーンを丸ごと使って生地を作るのもルールのひとつ。コーンを砕いた粉状のものから生地を作るのは、「ドリトス」ブランドとして認められていません。
この日本オリジナル生地づくりは、「ドリトス」のルールの範囲内で実施されました。スナック菓子の定番商品としては珍しいほど、以前の生地から大胆に変えたといいます。
「通常、世の中に定着している商品は、リニューアルする場合もあまり大きく中身を変えないことが多いです。しかし『ドリトス』のリニューアルでは、多くの人が違いを感じるほど変更しました」
「ドリトス」は、ジャパンフリトレーにとって「マイクポップコーン」に次ぐ売上のある定番商品。なぜ生地を改良しようと考えたのでしょう。
多くの関係者から「海外の『ドリトス』はおいしいけど、日本のものはおいしくない」という声を聞きました。「ホントかな?」と思いつつ実際に食べてみると確かに違ったのです。
そこで“おいしさ”を理化学的に分析すると、数値的な差異が認められました。この現象の原因を探り、改善することで、旨味・甘味の数値が向上し官能評価で海外の「ドリトス」にも負けない日本オリジナルの生地開発ができました。
「決して低迷していたわけではなく、『ドリトス』の売上を日本でさらに伸ばすために実施しました」
こうして誕生した日本オリジナルの生地は茨城県にある古河工場だけで製造しています。
この大胆なリニューアルは、結果にも結びつきました。2018年8月にブレンド生地の商品を販売すると、2019年から売上が増加したのです。
「生地の食感や味わいはとても微細な部分ですが、当時の担当者は『必ずお客さまに届くものであり、少しずつ効果が出てくるはず』と話していました。売上が伸びた背景には、間違いなく生地改良も一役買っているはずです」
売上の面では、2020年以降のコロナ禍により、家でのスナック需要も高まりました。これらも加わって、ここ数年で「ドリトス」のニーズは伸び続けているといいます。
「ドリトス」の新しい楽しみ方
近年の「ドリトス」は大きく変化していきます。それは、スナック菓子としてだけではない、新しい楽しみ方が拡がってきたこと。
「最近、SNSでドリトス ロコスやナチョステーブルなど、『ドリトス』を使った食べ方のアレンジが流行っていて、スナック菓子以外でも親しんでいただいています」
ドリトス ロコスとは、「ドリトス」の袋の中に野菜や肉、サルサソース、ケチャップやマヨネーズなど、お好みの食材や調味料を投入。それらを袋ごとフォークで食べるもの。メキシコの屋台料理をヒントに、最近SNSで流行しています。
ナチョステーブルは、アルミホイルの上に「ドリトス」を敷き詰めて、野菜や肉を乗せ、チーズをかけて食べる料理。これもTikTokなどで話題になりました。
これらはなかば自然発生的にSNSで生まれたトレンドですが、実は「ドリトス」のブランドとしても、2017年に横開きパッケージを導入するなど、違った食べ方を提案していました。
「横にして切り口を広くすることで、野菜などを入れて一緒に食べていただこうと生まれたものでした。現在は販売していないのですが、当時の担当者はドリトス ロコスがいま流行しているのを見て、『出すのが早すぎた』と悔しがっていましたね」
現在、ジャパンフリトレーでもいろいろな食べ方を提案しており、そのひとつとして「ドリトス DIP(ディップ)」を中村さんは紹介します。
「『ドリトス』にディップして食べると相性抜群な、ざく切り野菜入りのサルサ(ソース)です。現在は店舗や期間を限定して販売しています。『ドリトス』と一緒に売り場に置くと、『ドリトス』の売れ数が1.5〜2倍に上がるなど、はっきりと効果が出ていますね」
さらに、「ドリトス DIP(ディップ)」を買ったお客さまが併せて何を買うかという「併売分析」もしていますが、「ドリトス」単体での購入に比べて、併せ買いするお酒のバリエーションが増えています」と話します。
「新しい楽しみ方の拡がり」。それは自然発生のようでいて、どこかで以前から行ってきた食べ方の提案が身を結んだのかもしれません。
「ドリトス」の新しい可能性
35周年を迎え、新しい姿を見せる「ドリトス」。商品のこれからについて中村さんに尋ねると、新しい楽しみ方をさらに拡げていくことを熱く話します。
「『ドリトス』は、今後スナック+αの価値を追求してきたいと思います。『ドリトス』そのものを食に取り入れていただくほか、業務用としての普及も考えています。外食産業でもトルティーヤチップスのメニュー採用が増えていますし、スーパーのお惣菜にトルティーヤチップスを提案するのも有効でしょう。バリューとバラエティーに富んだ“バリュエティースナック”を目指していきます」
「そのほか、『ドリトス』の軸である“BOLD(芯のある強さ)”はブラさず、新しい可能性も探っていきたいですね。食べ方においても、商品自体においても、まだまだ追求していきたいと思います。50年後も100年後も日本人に愛される『ドリトス』を目指していきます」
三角形のこのスナックには、たゆまぬ追求の姿勢が詰まっています。「ドリトス」のブランドコンセプトは「もっと強く、もっと濃く」。それは味や食感だけのことではありません。新しい食べ方の提案も含めて、もっと先を追求するのが「ドリトス」のスタイルです。
「ドリトス」公式サイト
写真・編集:町田 有希
文:有井 太郎