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理想のじゃがいもを見つけ出せ!カルビーポテト 馬鈴薯研究所が目指す品種開発

カルビーが1年間に使用するじゃがいもの量は、どのくらいだと思いますか。その量は、なんと国内生産量の約19%に相当します※1。カルビーグループにとってじゃがいもは事業の土台なのです。

じゃがいもの“研究所”が北海道芽室町にあることをご存じでしょうか。その名も「馬鈴薯研究所」※2。今回は馬鈴薯研究所で行っている品種開発について、2024年に所長に就任した五十嵐さんにお話を伺いました。

※1  2023年度実績
※2「馬鈴薯」は行政・生産分野でのじゃがいもの一般呼称です。

五十嵐 俊哉(いがらし としや)
カルビーポテト株式会社 馬鈴薯事業本部 馬鈴薯研究所 所長
2006年入社。入社後は大成支所に配属後、芽室町で生産者の方々に対して、栽培・収穫のサポートを行うフィールドマンを経験。2008年から馬鈴薯研究所の品種開発課に所属し、2024年より現職。

「馬鈴薯研究所」ってどんなところ?

カルビーグループには、じゃがいも調達を担うカルビーポテト株式会社があります。1985年、同社は新品種開発や、栽培・貯蔵技術の研究を目的に「馬鈴薯研究所」を設立しました。五十嵐さんに目指すじゃがいも像を聞いてみました。

五十嵐さん:カルビーグループの商品に適していて、生産者のみなさんが栽培しやすいじゃがいもを開発しています「ポテトチップス」にするためのじゃがいもは、形や味、揚げあがりの色が重要です

その他にもポイントがいくつかあります。例えば、“打撲”に強い品種。近年、日本のじゃがいも栽培面積は減少傾向にあります。カルビーポテトは、生産者がじゃがいもをつくりやすくするために、ハーベスター※3などの大型機械の導入を進めています。これにより生産者の手間を省くことができますが、収穫や輸送中の“打撲”※4が課題になります。

※3 収穫を行うための機械
※4 打ち傷が時間の経過とともにコルク状(アザのよう)に変質することで、人で例えるとアザのような状態

じゃがいもの打撲

また、“貯蔵”しやすいことも大切です。桜前線ならぬ、「じゃがいも収穫前線」があるのをご存じでしょうか。じゃがいもの収穫は5〜6月の九州を皮切りに、7月に本州、8〜10月に北海道と北上していきます。

「ポテトチップス」の原料として、1年間じゃがいもを使用するためには、収穫したものを“貯蔵”する必要があります。実はこの“貯蔵”がとても難しいのです。じゃがいもから芽を出さないためには低温を保つ必要がありますが、温度が低すぎると糖分が溜まり、フライした時に焦げやすくなってしまいます。バランスのとれた品質で“貯蔵”するには技術の向上と、“貯蔵”に適した品種の開発が必要です

貯蔵されたじゃがいも

さらに、気候変動への対応や、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性※5、そうか病抵抗性※6も重要なポイントです。お客様においしく新しい商品をお届けするために、馬鈴薯研究所では理想のじゃがいもを追い求めて品種開発を続けています

※5 「ジャガイモシストセンチュウ」は、じゃがいも特有の害虫です。
※6 「そうか病」はじゃがいも特有の病気です。

新品種誕生までの道のりは長い

新たなじゃがいもが生まれ一般栽培に至るまでに、およそ15年がかかるそう。品種開発はどのように進められるのでしょうか。

五十嵐:収量性や耐病性などの育種目標を考慮しながら異なる品種を掛け合わせる「交雑育種」という手法を用います。例えば、病気に強いけれど味に課題がある Aと、品質がよいけれど病気に弱いB があったとします。これらのよい点を組み合わせて、病気に強く品質のよい品種をつくるために、AとBを交配(受粉)して「じゃがいもの種」をつくるのです

1年で約120通りの親の組み合わせで交配を行うことで、数万粒の種を作りますこの中から、何年もかけて理想のじゃがいもを見つけ出すのです

じゃがいもの種子

翌年(2年目)には、種を小さな鉢に、1粒ずつ植えて育てます。こうしてできあがるじゃがいもは一個ずつが違う性質をもつ新品種候補達になります。その数は約3万個です。

交配の翌年、鉢植えで種芋を育てる様子
育成2年目に収穫したじゃがいも

3年目以降は、場所を畑に移し、優秀なじゃがいもを選抜しながら育成を繰り返します。量を確保できるか、貯蔵に適しているか、「ポテトチップス」にしたときの揚げあがりの色や味がよいかなどを評価していきます。そのプロセスに約10年を要します

やっと「これだ!」という品種を見つけても、一般栽培に至るまでにはまだハードルがあります。北海道で種芋をつくるためには、約3年間の試作試験があります。北海道が農家に推薦できる水準の品種かどうかを評価するのです。さらに合格したら種芋を生産し、一般栽培に必要な量を確保しなければなりません。そのためさらに3年の時間と手間をかけて生産する必要があります。

畑での育成・試験を繰り返す

カルビーポテト独自の品種「ぽろしり」の復活劇

馬鈴薯研究所から生まれた代表的なじゃがいもが「ぽろしり」です。この新品種の誕生にも紆余曲折があったようです。

五十嵐:「ぽろしり」はジャガイモシストセンチュウ抵抗性とそうか病抵抗性をもった品種を目指して開発がすすめられた結果、誕生したじゃがいもです。2003年に交配が行われましたが、他の育成品種に比べて揚げあがりの色に課題があるという理由で、一時は捨てられそうになったんです。しかし収穫量が多いことに研究員が気づき、再度検討してみることに。試験を重ねていくうちに、病気に強く、カルビー商品にしたときに味がよいことなどがわかりました。そんなこんなで新品種の候補に急浮上。2017年に北海道の試作試験に合格し、一般栽培に至りました。今では多くのカルビー商品に使われる代表的な品種となっています。

「ぽろしり」の導入にいちばん喜んでくれたのはハーベスターの上で選別作業を行うことが多い契約生産者のご家族様でした。収穫時の障害が少なく、負担を軽減することができたのです。

元々は「ポテトチップス」用に作った品種ですが、食べてみると非常においしいため、家庭の料理にも向いているのではと考えています。皮がむきやすく、変色が少ないのが特徴です。フライ料理に適しているので、用途の拡大が楽しみな品種です。

ぽろしり

未来のじゃがいもを描く

最後に、五十嵐さんにこれからの品種開発について聞きました。

五十嵐:じゃがいもの品種開発には時間がかかります。交配をして、結果が得られるのは約15年後。かなり気の長い開発ですが、私は新しいものをつくりだせるこの仕事に魅力を感じています。私たちが開発したじゃがいもでみなさんに貢献し、喜んでもらえることが励みになります

じゃがいもの品種開発は、正直なところ、ずっと終わらないと思います。理想を追い求めるほど、新たな課題が次々と見つかるものです。だからこそ、私たちは未来を想像して「じゃがいもの種」を作り続けます

文:瀧澤 彩
写真:櫛引 亮

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