100回を超える試作から生まれた“そら豆”のお菓子。「miino」誕生までの物語
新しい商品が誕生するまでにはたくさんの苦労があり、なかには100回以上の試作の末に生まれた新商品もあります。それが、2017年から販売開始した『miino(ミーノ) そら豆しお味』です。
開発が始まったのは、発売の4年前。それも、もともとは別商品の新シリーズとして作られたお菓子でした。
この開発を担当したのが、研究開発本部 じゃがりこ・素材スナック部の高田和真さんです。一体どんな道のりを経て『miino(ミーノ) そら豆しお味』は誕生したのか、生みの親である高田和真さんが振り返ります。
きっかけは、当時売られていた「ベジップス」の新素材探しだった
2017年より一部販売先限定で発売し、2019年から全国展開している「miino」は、豆のおいしさが詰まったブランド。その中で発売以来、ブランドの中心的な存在になっているのが『miino(ミーノ) そら豆しお味』です。
そら豆を素揚げし、塩のみで味付けたシンプルな商品ですが、実はこのお菓子の開発がスタートしたのは2013年のことでした。
「そら豆を素揚げするというアイデアは、当時販売されていた『ベジップス』という商品のために考えられたものでした。そこで原型が作られたのです」
「ベジップス」は、さまざまな野菜を丸ごと素揚げしたカルビーのお菓子ブランドで、野菜の風味や栄養を壊さず、そのまま残す独自のフライ技術を採用していました。
それまでは、さつまいも、にんじん、かぼちゃ、たまねぎなどが定番の素材でしたが、2013年から新しい素材を使った「ベジップス」の新商品を模索します。その開発を任されたのが高田さんでした。
そうして研究の末に生まれたのが、そら豆、長いも、ヤングコーンという3種類が1袋に入った「ベジップス」。ここでそら豆を素揚げした商品が出てきたのです。
「この3つの素材にたどり着くまでに、たくさんの素材を使い合計100回以上の試作を行いました。いまもその記録はパソコンに残っていますが、そら豆を素揚げして試食した瞬間、良いものができたと思ったことを覚えています。味はおいしく、緑の色合いも良い。そら豆は独特の匂いがあるのですが、カルビーの独自製法で揚げると、ちょうど良い具合に匂いがマイルドになったのです」
このときは「ベジップス」に入るさまざまな素材の1つでしたが、高田さんは「いずれそら豆単品で発売しても戦えるほどの味だと思いました」と振り返ります。
実際に、しばらく経ってからカルビーのアンテナショップ限定で、そら豆単体の『マイベジ そら豆チップス』がスピンオフ的に販売され、好調な売れ行きを記録します。まさに高田さんの「単体で戦える」という見立てが証明されたのです。
2015年に高田さんは開発部門から一度離れ、「ベジップス」も2017年4月に生産が終了しました。しかしこのとき、入れ替わるように新しいお菓子ブランド「miino」が立ち上がります。女性がオフィスで気軽に食べられるおやつというコンセプトでした。
そのブランドの最初の商品として登場したのが、『miino(ミーノ) そら豆しお味』でした。「ベジップス」の製法と味付けをそのまま受け継ぎ、そら豆単体で勝負した商品です。
「開発から離れている時期でしたが、新ブランドのお菓子を作るのによい素材はないかと相談を受けたこともありました。そのときもそら豆を提案したんですよ。ですから、『miino(ミーノ) そら豆しお味』が発売されたときは、うれしかったですね。自分が生みの親だという気持ちもありましたから。私自身もこの後また開発に戻り、『miino』を担当できることになったのも感慨深かったです」
ちなみに、「miino」はそら豆だけでなく、さまざまな品種の豆を使った商品を出しています。ただ、最初からいまに至るまで、一貫して1番の売れ行きを記録しているのは、やはりそら豆です。
「なめこ」をフライしたことも。6ヶ月にわたる試作の日々を振り返る
それにしても、なぜ高田さんはそら豆という素材にたどりついたのでしょうか。そして「100回を超える試作」とは、どんなことをやったのでしょうか。ここからは話を戻して、2013年の開発当時のことを聞きたいと思います。
「新しい素材を見つけようと、野菜から何から、とにかくいろいろなものを試作機でフライして……というのを繰り返していました。同じ素材でも、産地を変え、加工方法も変えて何度も行います。出来上がったものは試食して評価。そのデータはエクセルで残っていますね」
エクセルに記録されている日付は、2012年11月~2013年4月。道の駅で地域の珍しい食材を見つけて、すぐに試作機でフライしたこともあったようです。「仕事終わりにスーパーへ行っても、気付けばいい素材がないか探していましたよ」と笑います。
とにかく多様な素材を試しました。たとえば「なめこ」をフライしたこともあります。
「きのこを揚げたらどうなるんだろうと考えて、その中でも一番面白いのはなめこかなと。実際にフライすると、最初の食感はサクサクしていて、噛むうちにネバネバが徐々に戻ってきました。これはいいかもと思ったのですが、フライすると水分が抜けてかなり小さくなります。設備の隙間から抜けるほどのサイズで、生産に支障が出る。それであきらめましたね」
こういった試作で高田さんが心がけるのは「とにかく手を動かすこと」。つまり「この素材はおいしくなりそう」「これは難しそう」といった自分の先入観は捨てて、どんなものでも一度試してみることだといいます。
「よく『いいお菓子を作る方法』を聞かれますが、ひたすら手を動かすしかないんですよね。事前に『この素材ならうまくいきそう』と思っても、その通りにならないことは多いですし、逆に、意外な素材から予想を超えるおいしさが生まれることもあります。その意味では、そら豆も予想を超えるおいしさだったかもしれません」
とにかく手を動かす――。そんなポリシーの高田さんが豆を揚げてみようと考えた背景には、こんな理由もあったようです。
「ちょうどこの頃、私だけでなく、開発サイドとして『豆を使って何か作りたい』という思いがありました。栄養成分にすぐれていますし、素材自体の味も良い。何年も前からずっと頭にあった素材です。ただ、いろんな豆の中でも、そら豆は群を抜いて優秀でした。フライしやすく、カルビーの製法で揚げるとクセが無くなり食べやすくなる。私たちが加工するためにあると思うほどでした(笑)」
100回を超える試作の中で、そら豆に初めて手をつけたのは25番目あたり。出来上がりに手応えを感じると、産地や品種、サプライヤーを変えて、次々に試作します。そして「どのそら豆でも高いレベルのものができました」と話します。
「最終的には、はじめに試作した、日本で広く食べられているそら豆の品種を選びました。その後はサプライヤーと相談し、味や品質を保った上で販売スペックを確認。商品化が可能と判断したんです。そら豆はもともと、他の食品業界で、日本の品種を海外で作って輸入している経路がありました。私たちもその形でそら豆を確保することに。現在は海外からの調達先を拡大しています」
ちなみに、そら豆を扱うと決めた際、もっともネックになったのが「収穫期の短さ」です。というのも、そら豆の収穫期は年間で7〜10日ほどしかないとのこと。それを超えると、色合いが黄色くなり、「miino」には向かなくなります。
「たった10日ほどの間に1年分のそら豆を収穫する体制を作れるかが重要でした。そこで私たちは、サプライヤーを通して村単位で栽培農家と契約し、必要量を収穫できるようにしています」
こうした体制を構築しながら『miino(ミーノ)そら豆しお味』は2017年に一部販売先限定で発売。その後、全国のコンビニエンスストアでの発売を経て、2020年からはコンビニエンスストア以外の店舗でも発売しています。
うれしかったのは2日前。初めて食べたお客さまのメッセージ
実はこの取材の前、高田さんにとってうれしい出来事がありました。カルビーでは、日々お客さま相談室に寄せられる声の中から、印象的なものを全社に配信しています。ちょうど2日前、『miino(ミーノ) そら豆しお味』についての声が寄せられたのです。
「初めて買ったお客さまからのメッセージで、『食べてみたらすごくおいしかったです!このお菓子を考えた人は天才です』と書いてくださって。天才とはほど遠いのですが、こういう声をいただいたときに、やっていてよかったと思いますね。その日1日、ずっといい気分で過ごしていました(笑)」
21年前にカルビーに入社し、長く商品開発に携わってきた高田さん。「ポテトチップス」や「かっぱえびせん」のように、いつかは「あのお菓子はこの人が作ったんだよ」と紹介されるような商品を残したいと、開発を続けてきました。そんな高田さんにとって「miino」は間違いなく代表作になっています。
この愛おしい存在の今後について聞くと、「目標は現在の売上の3倍」とのこと。また、そら豆の収穫時期の短さを考えると、ほかの種類の豆によるヒット作も増やしたいと意気込みます。それが、豆を使ったブランドを持続的に発展させる鍵になります。
「カルビーでは、タンパク質の多い商品※の売上構成比を10%にすることを2030年に向けた中期経営計画の1つの指標に掲げています。豆はタンパク質の豊富な素材ですし、『ポテトチップス』などとは違うポジションでもっと広めていきたいと思っています」
※総エネルギー摂取量に占めるタンパク質の構成比が13%以上のもの
そら豆以外の豆を使った「miino」の商品も発売されており、7月25日からは期間限定で『miino(ミーノ) えだ豆しお味』が発売を開始。そのほか、今年から新潟県の離島・粟島の粟島浦村と連携し、当地で取れる大豆「一人娘」を使ったプロジェクトも始めます。
「『一人娘』は年間数百キロしか採れない貴重な品種です。試作した際にかなりおいしいものができて、しかも香りが良く、フライ中に他の部屋から人が見に来たほど。少量生産なのでどこまで販売チャネルを広げるかは未定ですが、『miino』を通じて地域の良い素材に光を当てたり、生産者の方と二人三脚で農業のこれからを作っていけたらと思っています」
商品を進化させていく一方で、大切にしたいのは「素材を丸ごと素揚げし、味付けもシンプル」という特徴。こちらは開発当時から変わらない部分です。
「味を加えるのは簡単ですが、お客さまの声を聞いていると、シンプルな原材料を気に入っていただいている方がたくさんいます。最初から狙っていたわけではないのですが、シンプルさや素材そのままの安心感が価値になっているのです。それは他のお菓子にない良い部分なので、これからも変えずに受け継いでいきたいと思います」
たくさんの試作から生まれ、ファンを増やす「miino」。この大切なブランドについて、「本当はまだまだ試したい素材がいくつもあるんですよね」と高田さん。
「私はとにかく作るのが好きなんです。試作をしているときも、毎回どんなものが出来上がるんだろう、どんな味になるんだろうとワクワクしていますよ(笑)。とはいえ、もうマネジメント職になり、残念ですが昔のように日々試作に没頭するわけにはいきません。これからは若い人たちに良いものを作ってもらいたいですし、私がやりたかった素材も引き継いでくれたらうれしいです」
実は、昨日もチームメンバーと一緒に試作を行ったとのこと。そのとき、次を担うメンバーに伝えるのは、やはり手を動かす大切さ。まずやってみることです。
「試作において、この素材をやっても仕方ないとか、これはうまくいかないと先に決めてしまうことはダメなんです。とにかく試してみて、その中で良いものができる。メンバーにもそんな気持ちで、とにかく手を動かしてもらえたらと思いますね」
「miino」という商品のコンセプトは「私のおいしいお気に入り」。商品名の由来も“私の”を表す造語だといいます。生みの親である高田さんにとっても、このお菓子は大切な大切な一品。“作る楽しさ”の末に生まれた、最高のお気に入りなのです。
「miino」公式ウェブサイト https://www.calbee.co.jp/miino/
「miino」公式Twitterアカウント @calbeemiino
文:有井 太郎
写真:櫛引 亮
編集:瀧澤 彩