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500日に亘り、目に見えない相手と対峙した“職人魂”

商品づくりの現場を支えるプロフェッショナルな従業員にスポットを当て、仕事に対する想いや、商品づくりにかける情熱に迫る、「職人魂-THE CALBEE」。第3回は圧延のスペシャリスト、橋本 光希さんにお話を伺いました。

橋本さんプロフィール写真

橋本 光希(はしもと こうき)
カルビー株式会社 生産本部 西日本生産部 広島工場 スナック製造課
2013年カルビー入社。広島工場 生地製造課に配属。2015年から2021年の約7年間、「圧延」の工程を担当。2022年4月から現職。山口県出身

生地づくりの現場に欠かせない「圧延」とは

カルビー広島工場では、「かっぱえびせん」や「さやえんどう」に加えて、各工場で使うスナック生地を製造しています。生地づくりの現場を橋本さんに案内してもらうと、まず目に飛び込んできたのはお餅のような生地。こちらは「かっぱえびせん」の生地で、天然えびを丸ごと使い、小麦粉などの原料と混ぜ合わせてつくられています。

お餅のような「かっぱえびせん」の生地

この生地を、専用のローラーを使って「かっぱえびせん」特有の筋(模様)を入れながらシート状にうすく延ばし、ゆっくり冷却していきます。

シート状にうすく延ばされた「かっぱえびせん」の生地

この一連の工程は「圧延」(あつえん)と呼ばれ、橋本さんは約7年間、ここで腕を磨きました。
 
「『圧延』はとても繊細で、経験や感覚がものをいう職人気質な仕事です。『かっぱえびせん』の生地は、数種類の天然えびなどを原料としてつくられています。そのため、生地の状態はいつもまったく同じにはなりません。気温や湿度によっても変わってきます。生地をうすく延ばすのは専用のローラーで行いますが、同じ厚みになるよう設定していても、仕上がり具合は微妙に違ってくるのです。小さな変化に気づき、細かい調整をしながら、常にベストな生地をつくる。これが圧延の面白さでもあり、難しいところです」

生地の厚みを測る橋本さん(こちらは「サッポロポテト」の生地。色味が違うのが分かりますか?)

IoT導入が進む生産現場の中でも、圧延はまだ人の経験や感覚が大切な役割を担う工程のようです。
 
毎日、目で見て、手で感触を確かめながら、生地のベストな状態を追求する仕事です。約7年携わったことで、その技術や感覚は、歴代の先輩方に少しは近づくことができたかなと思っています」
 
こうした生地づくりの魅力はどういったところにあるのでしょうか。
 
「実は、『かっぱえびせん』の生地がつくられているのは国内では広島工場だけなのです。ここでつくられた生地が各地の工場に運ばれて、『かっぱえびせん』はつくられています。周りにいる友人や家族、そしてお客様が笑顔で『かっぱえびせん』を食べてくれている姿を見ると、生地づくりに関わっていることを嬉しく、誇りに感じます

目に見えない相手「アレルゲン」と対峙した500日に亘る挑戦

2020年7月。橋本さんは生地づくりの現場で、ある課題に気づきます。
 
広島工場では、えびなどアレルゲンを含む特定原材料を扱っていることもあり、製造ラインの清掃作業は、お客様の安全・安心を確保するため念入りに行われています。主に水で洗い流しながら清掃するのですが、一部、水洗いができない設備もあります。人の手で拭き取り作業をすると多くの時間も要してしまうため、独自の清掃方法を取り入れています。
それは「ダミー生地」と呼ばれる、ある原料のみでつくられた生地を利用した清掃方法です。その生地を製造ラインに通すことで、設備に付着するアレルゲンを拭き取り、除去するというやり方です。
 
「ただ、ダミー生地に使われている原料は、本来、食品として使うことができるものを利用しています。昨今、工場でも環境に配慮したサステナブルな取り組みを進めていたこともあり、必要最小限のダミー生地で、アレルゲンをきちんと除去できる最適解を導くことができれば、食品ロスの削減につなげられると考えました」
 
現場で課題を見つけた橋本さんは早速動き出します。上司に掛け合い、広島工場や本社の品質保証部門、研究開発部門に声をかけ、プロジェクトチームを立ち上げたのです。そこから約500日に亘り、目に見えない相手「アレルゲン」と対峙することになります。
 
アレルゲンは、姿かたちが見えない。色もなければ匂いもしない。それでいて、何かあればお客様の命に関わる存在です。ここ数年、私たちの日常生活を大きく変えてしまった新型コロナウイルスと似たような存在かもしれません。目に見えないため、どのように対処すればよいか難しい相手です。
 
2020年8月に始動したプロジェクトの挑戦は、ここから試行錯誤の日々が続きます。
 
「ダミー生地の量を変えながらテストを繰り返していくのですが、何度も高い壁に突き当たりました。たとえば、同じ量の生地を通しているのに、アレルゲンが除去できる場合とできない場合が出てくるのです。その要因は何かを分析し、どうすれば確実に除去できるのか、様々な仮説を立てては検証していくのですが、なかなか思い通りにいきませんでした」
 
プロジェクトが立ち上がってから、半年、1年が経ち・・・「このまま続けていて、果たして最適解を導き出せるのか」そんな不安を抱えながら活動をしていたと橋本さんは振り返ります。
そのような状況下でも、一条の光が見えてきます。ダミー生地と、設備の接地面積や圧力のかかり具合がアレルゲン除去率に影響を及ぼすことが分かってきたのです。それからは、生地の形状を変えたり、特殊な模様を入れるなどして、さらにテストを繰り返しました。そして約500日にわたる検証の結果、橋本さんたちプロジェクトチームは、従来の約1/3の量でアレルゲンを除去できる、新たなダミー生地に辿り着くことができました。
 
「人命に関わる難度の高い課題ではありましたが、周りの人たちと連携しながら、あきらめずにチャレンジしたことで一定の成果をあげることができました。私自身にとっても、今後の糧となる経験になりました」

橋本さんが見据える未来

最後に。入社10年目を迎えた橋本さんに、今後の展望について聞いてみました。
 
「カルビーに入社後、最初の2年は、仕事への意欲は高かったものの、商品づくりの楽しさや奥深さに気づけていないところがありました。また生産設備に対する知識がなかったこともあり、やや苦手意識を持っていました。そんな中、3年目に『圧延』の工程を担当することになるのですが、そこで当時の上司に出会い、その方の仕事に対する姿勢や情熱を目の当たりにしたことで、仕事への向き合い方が大きく変わりました。生産設備についても原理原則を理解する大切さを教えていただき、自分なりに勉強するようになりました。私にとって、その上司との出会いが大きな分岐点になっています。今度は自分が誰かにそんな影響を与えられる存在になりたいと思っています」

2022年からは生産計画を正常に保つための保守に関わっている橋本さん。新たなフィールドでの活躍に期待です。

橋本さん写真

【カルビー広島工場について】
広島県廿日市市の瀬戸内海に面した工業団地の一角に、カルビー広島工場はあります。広島工場では、「かっぱえびせん」、「さやえんどう」、スナック生地などを製造しています。(操業開始:2006年)

カルビー広島工場
編集後記

文・写真:古澤 大輔

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