【特別対談Vol.2】カルビーグループが目指す、サステナブル経営とは?
気候変動への適応や食の安全・安心の確保、持続的かつ安定的な原料調達など、さまざまな社会課題に直面している食品業界。こうした状況のなかで企業が事業活動を継続し、中長期的に成長を遂げていくためには、持続可能な社会づくりに向けた「サステナブル経営」の実践が求められています。
では、「これから食品メーカーが目指すべきサステナブル経営」とは何か――。このテーマについて、カルビーグループのサステナビリティ推進に関するアドバイザーを務めていただいた河口真理子氏とカルビーの伊藤秀二社長が語り合いました。
事業活動継続のヒントは“時代変化に合った社会課題解決”
―河口さんは、さまざまな場で「コロナ終息後は、サステナビリティが世界をリードする新しい価値観になる」と指摘されています。昨今の社会情勢をお二人はどう見ていますか?
河口:国内だけでなくグローバルな視点でも、世の中の価値観が大きく変わりましたよね。コロナ禍で暮らし方が変わり、外面を飾る代わりに違うところにお金をかける、遠出せずに家の周辺で穴場スポットを見つけるなど、身近な幸せや喜びを大切にすることへの優先順位が上がったように思います。自分のため、家族や身近な人のために何をすればいいのかを皆が考え始めるようになったと感じますね。
この価値観の変化は、一時的なものではないと思います。社会の持続可能性に対する意識が人々の間で高まっていますし、異常気象が増え、「何かおかしい」という肌感覚を持つ人が増えたことも背景にはあるかもしれません。
伊藤:おっしゃる通り、世の中の価値観が変わるとともに、カルビーグループを取り巻く事業環境も急速に変化しています。そのなかで私たちが事業活動を継続するには、環境問題や人権問題など、社会課題に真正面に向き合う必要があると考えています。
河口:先日、英会話学校の先生からの依頼で、学生と対話の機会を持ちました。印象的だったのは中学2年の女子生徒から「環境問題に積極的に取り組むよう、企業や国に働き掛けたい」と相談されたことです。このように、環境問題を自分ゴトとして行動する若い世代が増えています。こうした意識を強く持った若者たちが、これからカルビーさんのメインターゲットになってくるのでしょうね。
伊藤:そうですね。若い世代をはじめとする消費者のニーズや社会全体の変化を把握し、理解するためには、私たちはもっと外に出てさまざまな情報をつかみ、対話することが大切だと思っています。オフィスでじっとしていても、いいアイデアは生まれません。足元のコロナ禍を受けて、私たちも2020年7月からリモートワークが中心となり、働く場所と時間の自由度が高まりました。これを機に、現場に行ってヒントを見つけてアウトプットをどんどん出してほしいですね。
それから、新しい価値を創造するためにも、Z世代との交流や「フードコミュニケーション」活動を通じた子どもたちとの交流の機会をより増やしていきたいと考えています。未来のお客様、次世代の人たちにもカルビーを選んでもらえるべく、継続的に価値を創っていく必要があると考えています。
目指すのは、社会課題解決につながる価値創造
―カルビーグループが創出している社会価値とは何だと思われますか?
河口:健康的かつおいしく、気軽に食べられて、社会課題解決にも貢献する商品づくりだと思います。「フルグラ」は健康的な素材を気軽に摂れますし、何より「かっぱえびせん」です!カルビーさんのなかで最初に驚いた商品です。開発のきっかけが、当時食品として活用されていなかった小えびを利用して商品をつくれないかという発想からだったんですよね。食べられるのに市場に出回っていなかった食材を私たち日本人の国民食にまでして、フードロスという社会課題解決にもつながっている。おいしくて、カルシウムも摂取できるんですよね。エコでヘルシーな商品を世の中にお届けしていることにもっと誇りを持っていいと思いますし、それこそ、カルビーさんの価値ではないでしょうか。
伊藤:「かっぱえびせん」をつくった創業者の松尾孝は、「未利用な食糧資源を活かした商品づくり」というコンセプトがベースにある人なんです。地元・広島の瀬戸内海の浜辺で干されている小えびを見てもったいなく思い、自身がえびのかき揚げが好きだったこともあってえびのお菓子を思いついたそうです。このエピソードに私たちの価値創造の原点があると思っています。「かっぱえびせん」はえびを殻ごとつぶしてつくっていて、加工度があまり高くないホールフード(丸ごと食べられるもの)です。ポテトチップスも、じゃがいもをスライスして植物油で揚げただけ。自然の素材を丸ごと食べるというのが商品づくりの基本にあるんです。
河口:自然の素材をなるべく加工せずにおいしく食べようというお考えが根本にあるんですね。
伊藤:はい。自然の素材を活かして商品をつくっているので、原料となる農作物の安定的な供給がなければ成り立ちません。ちゃんとおいしいものをつくって需要を創出し、農作物の生産量を増やしてもらって供給する。このバランスが上手くいけば、需要と供給の最適なサイクルを回す「正しい循環」が実現し、私たちにも収益が残る構造になっています。これがカルビーグループの特徴のひとつでもあります。
河口:誰がつくっているかというサプライチェーンの最上流までわかり、長年にわたり、原料の多くに国産の農産物を使用している。サプライチェーンがきちんとつながっているという点は、しっかりアピールすべきだと思います。
伊藤:私たちの役割は、まず環境に配慮した持続的な調達によって、「正しい循環」をつくり出すことです。その上で、生産者・原料の取引先・地球環境・地域社会やコミュニティなど、あらゆるステークホルダーとともに新たな価値を創造し、自然・農業・生活者の生活スタイルを統合的に結びつけていく。この「正しい循環」を守ることが、持続可能な環境だけでなく、畑や消費者の生活を守ることにもつながっていくのだと思います。
そんな役割を担いながら、これからどんな価値を生み出していくか。健康志向の高まりに対して、タンパク質を多く含む商品開発・展開することも、新たな価値創出の一つです。
従業員一人ひとりの挑戦と行動、そしてステークホルダーとの共創
―今後のサステナブル経営において、従業員にはどのようなことが求められるとお考えですか?
河口:伊藤さんがおっしゃったように、食品メーカーの従業員にとって特に重要なのは、世の中の環境変化や消費者のライフスタイルの変化を察知・予測し、行動することではないでしょうか。例えば、買い物をしながらアンテナを張って、他の人のライフスタイルや消費行動をちょっと観察してみる。そうすると、日常生活の中にもたくさんのヒントがあることに気付けるし、やっていても楽しいと思うんですよね。
伊藤:視野を広げるためには、従業員が自分の個性と能力を活かしていくことです。一人ひとりが持つ力を最大限発揮することで、本人が豊かになり、会社も豊かになる。そして、それをさらに周りに広げていくという発想。この発想を持っているのと持っていないのとではだいぶ違ってくると思います。
―従業員の個性を活かした未来の経営において、重視すべきことは何でしょうか?
河口:これからの時代のキーワードは、「最適」だと思います。「最高」「最低」は1つの軸で評価できますが、「最適」は複数の軸のバランスになります。注目を集めている「ステークホルダー資本主義」にしても、株主だけでなく従業員などあらゆるステークホルダーを意識した最適解を追求し、経営としてどのようなバランスをとるかが問われるようになっています。最適という発想をもっと重視していくといいのではないかと感じています。
伊藤:多様な観点を踏まえた最適解を目指す上でも、カルビーグループを取り巻くステークホルダーとの共創がますます重要なキーとなります。ステークホルダーとともに生み出すイノベーションは社会課題の解決にもつながりますから、私たちはスナック菓子・シリアル食品のトップブランドとしてのリーダーシップを発揮し、各部門が社外を巻き込んで行動する必要があると思っています。具体的には、農業生産者の皆さんとは、IT技術の導入による栽培サポートのありかたを模索していますし、共創型のラボであるCalbee Future Labo(CFL)では、企業や行政・団体・一般消費者である登録制のサポーターといった社内外の方々と、将来に向けた商品開発に取り組んでいます。私たちが従来から取り組んできた「正しい循環」にいろいろなイノベーションを組み合わせていくことで、もっと世の中の役に立てる企業になれるはずだと確信しています。