野菜売り場にCalbee商品が並ぶ光景を日常にしてしまった社員たちの話 ~クリエイティブなアイデアから未来を変える~
2023年になりました。本年も「THE CALBEE」をよろしくお願いします。
さて、新年1発目となる今回は、海をわたり、アメリカを舞台としたストーリーをお届けしたいと思います。
カルビーグループは、2030年に向けた長期ビジョンにおいて、海外市場への展開を掲げています。2023年1月時点で、10の国・地域で展開しており、中でも北米は重点地域の一つです。その北米で、主力ブランドの一つと言えるのが「HARVEST SNAPS」です。
「HARVEST SNAPS」 は、豆を原料とし、「Better For You」(“素材のおいしさ”と“からだへのやさしさ”)をコンセプトに開発された健康志向のスナックです。いまでは、アメリカを始め、イギリス、シンガポール、オーストラリア等で販売されており、子どもから大人まで幅広く親しまれています。
実はこの「HARVEST SNAPS」、現地のスーパーマーケットへ足を運ぶと、なんと野菜売り場にも並べられているのです。
スナックなのになぜ野菜売り場に?本記事ではその舞台裏に迫ってみようと思います。Calbee America, Inc. Presidentの坂田さんにお話しを伺いました。
Prologue~日本でヒットしていた「さやえんどう」を、健康志向のスナックとして打ち出す。
話は、約22年前の2001年まで遡ります。カルビーグループの北米事業を担うCalbee North America, LLC(以下、CNA)は当時、まだ規模が小さく、主力商品といっても「Shrimp Chips Original」(日本の「かっぱえびせん」)くらいしかありませんでした。「これからの時代、アメリカでは健康ニーズが必ず高まってくる。CNAでも、健康志向のスナックを取り扱えないか」という声が社内から挙がったそうです。ちょうどその頃、日本では「さやえんどう」(1993年に発売された、えんどう豆をまるごと使用した豆スナック)が人気を博していました。
「当時の『さやえんどう』は、お酒のおつまみとして日本の皆さんに支持されていました。しかし、アメリカでは健康志向のスナックとして打ち出そうと考えたのです」
早速、「さやえんどう」を現地に取り寄せ、ロサンゼルスのスーパーマーケットでテスト販売をしたところ、とても評判がよかったといいます。こうした経緯を経て、2001年にアメリカで「Snapea Crisps」というブランド名で発売されることになりました。“Snapea”とは、えんどう豆のことです。発売にあたっては、パッケージにもこだわり、健康志向の豆スナックという商品特徴を伝えるため、豆の素材感を全面に押しだしたデザインが採用されました。
日本でお酒のおつまみとして人気だった「さやえんどう」を、アメリカでは健康視点で打ち出す。時代の変化を先取りすることで、「HARVEST SNAPS」の前身となる「Snapea Crisps」は誕生したのでした。
八方塞がりの状態から生まれた「野菜売り場に攻め込む」というクリエイティブなアイデア
健康志向の豆スナックとして、アメリカで展開することが決まった「Snapea Crisps」ですが、いきなり大きな壁にぶち当たります。アメリカのスナック売り場といえば、世界的に有名な人気スナックがひしめき合う、超激戦区。新参者であるカルビー(CNA)の商品をすんなり棚に置かせてはもらえませんでした。主力商品だった「Shrimp Chips Original」は日系スーパーやアジア系のスーパーが取り扱っていましたが、いわゆるメインストリーム(現地のアメリカ人が行くようなスーパー)ではゼロからのスタートだったのです。
「アメリカのスーパーマーケットは、日本とは仕組みがいろいろ異なり、スナック売り場に商品を置いてもらうためにはSlotting Fee(スロッティング・フィー)と呼ばれる費用がかかります。さらに、スナック売り場の約8割をシェアNO.1メーカーが買い上げ、残りを数多のメーカーが奪い合っている状態。弱小CNAには競争するだけのお金もパワーもありませんでした」
商品を販売したくても、置いてもらえる場所がない。スタートラインにすら立てない状況の中、ここで再び、クリエイティブなアイデアがCNA社内から挙がります。
「『Snapea Crisps』は、豆(野菜)からつくられている商品で、健康軸で打ち出そうとしているのだから、いっそのこと、野菜売り場に置いてみたらどうか」
日本でスーパーマーケットに行くと、野菜売り場に様々な関連商品の陳列を見かけます。当時のアメリカでは野菜以外で並んでいるのはせいぜいドレッシングやクルトンくらいでした。「Snapea Crisps」を本当に野菜売り場に置いてもらえるのだろうか。そんな不安を抱えながらも「ダメでもともと、まずはやってみよう」と、スーパーマーケットの野菜バイヤー(野菜売り場の担当者)に話を持ち掛けたところ、これが思いのほか、好評だったようです。というのも、野菜は鮮度が命で、あまり日持ちがしないこともあり、売り場の管理がとても大変、という課題を多くのバイヤーが抱えていたのです。そこに突如現れた「Snapea Crisps」は豆本来の味を活かした商品で、おいしいし、ヘルシーで、日持ちもする。それらの商品特徴が受け入れられ、野菜売り場に並べていただけることになったのです。
「CNAとしてもメリットはたくさんありました。まず野菜売り場には、Slotting Feeがなかったので費用がかからなかったことです。また、スーパーマーケットの入口を入ってすぐ売り場があるため、多くの来店客が立ち寄ってくれます。しかも、初めて野菜売り場に並ぶ、唯一のスナックだったので、必然的にプレゼンス(存在感)が高まり、ブランドを覚えてもらいやすかった。元々、栄養価が高く、健康のイメージが定着している野菜と一緒に並ぶことで、『Snapea Crisps』=健康志向の豆スナックというブランドイメージも定着しやすかったのです。一石三鳥、いや、それ以上の効果がありました」
まさに八方塞がり状態からの、発想の転換。スナックの本場アメリカにおいても革新的なアイデアとなりました。
「当時からすれば苦肉の策だったかもしれませんが、新参者のメーカーだったからこそ出せたクリエイティブなアイデアだったと思います。もしスナック売り場が確保できていたら、この発想には辿り着かなかったかもしれないですね」
こぼれ話として。前例のない取り組みだったからこそ、最初の頃はいろいろと予期せぬハプニングもあったようです。
「袋に入った豆スナック自体が、アメリカでも目新しい商品だったこともあり、お店のスタッフが、冷凍用の豆と勘違いして、冷凍食品売り場に並べてしまったこともあったそうです」
こうして「Snapea Crisps」は、異国の地で、野菜売り場から鮮烈なデビューを飾ったのでした。
「HARVEST SNAPS」へのリブランディング。そして、その先へ。
2013年に、カルビーからCNAへ転籍した坂田さんは「Snapea Crisps」のマーケティングを担当することになります。「Snapea Crisps」の未来を考えるなかで、坂田さんは大きな決断をします。
「このブランドを、今後カルビーグループがグローバルで展開する、豆スナックの傘ブランドに育てていきたいと思ったのです。そうしたときに『Snapea Crisps』という名称だと、Snapea(えんどう豆)の枠を超えにくい。それだったら、他の豆素材にも拡張性を持たせて展開できるブランド名にしようと考え、『HARVEST SNAPS』へと変更しました」
今日に至るまで、さらなる進化を遂げている「HARVEST SNAPS」ですが、ちょっとユニークなブランディングをされているようです。
「現在、『HARVEST SNAPS』はアメリカだけでなく、イギリスやシンガポール、オーストラリア等でも販売され、グローバルブランドとして成長し続けています。ブランドガイドラインとして最低限のルールは設けていますが、できるだけ各地域の特性に合わせ、フレキシブルな商品開発ができるようにしています。自由なアイデアを生み出す“余白”をあえて残しておくことで、そこから新たなイノベーションを起こしたいと思っています。これからもグローバルで挑戦し続けるブランドでありたいですね」
スナックはスナック売り場に並べる。そんな業界の常識を変えてしまう戦略をとり、現在に至る「HARVEST SNAPS」のお話しはいかがでしたでしょうか。2023年で「HARVEST SNAPS」はリブランディングしてから10年目を迎えます。未来へ向けて、「HARVEST SNAPS」が打ち出す、クリエイティブなアイデアにぜひご注目ください。
文:古澤 大輔
SPECIAL THANKS
取材協力・写真提供:Calbee America, Inc. 勝野井 崇