「働きやすい」だけでなく「働きがい&やりがい」の実現へ! ~「Calbee New Workstyle」の挑戦~
カルビーは新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、2020年7月からオフィスで働く社員(約800人)を対象に、モバイルワークの標準化やフルフレックスタイム制の導入、業務上支障がない場合の単身赴任の解除など、ニューノーマルな働き方「Calbee New Workstyle」をスタートしています。
「Calbee New Workstyle」は、たくさんのメディアに取り上げていただき、多くの方々に興味を持っていただけていると感じています。今回はカルビー人事総務本部長の武田雅子さんにお話を伺い、その背景や具体的な対応策、社員の取り組み等の詳細について、あらためてレポートします。
武田 雅子(たけだ まさこ)
カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長
1989年株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターでショップマスターを経験後、営業推進部トレーニング課長、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役就任。2016年営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。2018年カルビー株式会社入社。2019年より現職。
ライフテーマは「しあわせに働く人を増やす」
好きな言葉「全機現」(ぜんきげん)
がんサバイバー
日本の人事部HRアワード個人の部最優秀賞受賞(2018年)
社員の“生の声”から生まれた「Calbee New Workstyle」
新型コロナウイルスの感染者が国内で初めて確認されたのは2020年1月中旬のことでした。社内では同月末に社長の伊藤秀二さんを本部長、武田さんをリーダーとして生産、営業、海外、広報、関連部門の役員らで「新型コロナウイルス対策本部」を立ち上げました。
対策本部では当初、罹患リスクの管理や子供の休校対応に伴う休日ルール、休業補償、出張や工場への移動禁止等のルール整備を主に検討していました。一方で、オフィス勤務者に対しては2月から在宅勤務を推奨、3月末からは原則在宅勤務へと移行し、社員一人ひとりがリモートでの業務遂行に試行錯誤を模索していく中で、次第に仕事の質を向上させるための取り組みについて議論が行われるようになりました。
並行してイントラネットで役員がコロナ禍での考えや社員へのメッセージを発信するブログリレーを開始。人事部門主導のもとカウンセリング窓口の開設や、コミュニケーションの場としてオンラインのワークショップを実施しました。
役員によるイントラネットでのブログリレー
当時の様子について武田さんはこう振り返ります。
「4月(2020年)に在宅勤務が一気に広がる中で、社員の皆さんが不安を感じていないかとても心配になりました。まだZoomの使い方を覚えたばかりで、人が集まるのか不安になりつつも、働き方について考えるワークショップを初めてオンラインで開きました。初回参加をして下さった方がいたのは本当に嬉しかったです。『参加してよかった!やっぱりこういう場は必要』『オンラインでも話せてよかった』という声を画面越しに聞き、不安を感じていた自分を後悔しました。
回を重ねていくにつれ、そこで実感したのは、皆さんの変化への対応力の高さです。当初は戸惑う声もあったものの、ワークショップを重ねるごとに、備品やWifi等のハード面や家庭内ルールを整え、働く環境を自発的に改善し、在宅での過ごし方を工夫している方が増えていきました。さらには生産現場で働く皆さんを心配する声も挙がり、社員の皆さんの仕事に対する熱意や現場への想いを痛感しました」
2020年5月にオフィス勤務者を対象にした社内アンケートでは、回答者の6割以上が”コロナ感染症拡大前の働き方に戻りたくない”と感じていることが分かりました。”在宅で働く環境が全く整っていない”人は、その時点で回答者のわずか2%ほどでした。
具体的にワークショップやアンケートでは以下のような声が挙がりました。
―在宅でも意外と支障なくやっていける
―集中して効率的に業務に取り組めるようになった
―通勤時間が無い分、家族との時間が増えた
―会議室の空き状況を気にせずミーティングができる
―毎日同じ時間に出社する必要性を感じなくなった
―これまでの仕事の無駄に気づいた
また、”家庭菜園をするために土地の開墾から始めた” ”庭にスケボーパークを作った” ”凝った料理にチャレンジした” ”地域での交流が増えた”という声もあり、社員それぞれでライフを充実させながら仕事を効率的に進めるよう工夫をしている様子が伺えました。
「社員の皆さんの変化を見て、たとえコロナが終息したとしても、働き方はもう元には戻してはいけないと直感的に感じました。皆さんに背中を押されるかたちで、ごく自然な成り行きで新しい働き方に向けた準備を整えていきました。
『単身赴任の解除』は特に反響が大きく驚いたのですが、もともと東京の本社部門に所属していて、大阪の自宅から転居せず、リモートと出張を組み合わせて働いている女性社員もいましたし、新幹線通勤をしている方も少なくありません。働く場所の制限を受けずに成果が出せるのであれば、あえて家族と離れた場所で仕事を続ける意味は無いですよね、という人事内でのごく自然な会話から生まれました。家族のいる地域に根差して家族との時間を大事にしてもらうことは仕事にも活かされると思います。
一方で、単身赴任や転勤を全て否定しているというわけではありません。個人のキャリアや人事施策上必要な転勤も、もちろんあります。社員の皆さんそれぞれが自身の生活基盤や拠点をどう考え、これを実現するためにどんな働き方をしたいか、どのような働き方をすれば成果を高められるかを考えることが重要で、会社からそのボールを渡しているという形です」
なぜ新しい働き方を実現できたのか?
社内では大きな混乱もなく、比較的スムーズにモバイルワークの標準化に移行できました。実現のポイントについて、武田さんは大きく3点を挙げます。
1点目は、もともとフリーアドレスやモバイルワーク制度等、「Calbee New Workstyle」を実現するための素地があったということです。カルビーでは社員一人ひとりが自ら選択し、生産性高く効率的に働くことを目指して1991年から働き方に関する制度導入やインフラ整備を段階的に行ってきました。
「2000年代初頭からはオンラインでの経費申請や社内稟議決裁を導入し、ペーパーレス化を実施し、2010年には現在の東京駅近くの本社ビルへの移転を機にフリーアドレスを全国へ順次導入しました。在宅勤務制度は2014年に開始し、3年後には利用日数や勤務場所の制限をなくした『モバイルワーク制度』を導入する等、比較的早くからどこででも働ける仕組みを整えてきました。場所と時間に縛られず、チーム全員が同じ場所に揃わない状態で働くことに慣れていたと言えます」
カルビーの働き方改革の変遷
2点目は、真面目で好奇心旺盛な社員が多く、新しい環境への対応力が高いことを挙げています。
「2020年3月に原則在宅勤務となる中で、社員が積極的にITツールの勉強会に参加してスキルを向上させ、在宅で働く環境の整備に自助努力をしてくれました。この時は、失敗しながらの模索や周囲のメンバーのトライを素直に賞賛するカルビーの良さを同時に感じていました」
3点目は、トップの理解があったことだと言います。
「『Calbee New Workstyle』を発信した時に、社長の伊藤から『全社員に対してすべての環境が整ってからと考えていたら何もできません。躓きながら進んでいきましょう』というメッセージをもらいました。
もともとトップが性善説を前提に、社員の自主性と『社員それぞれが多様な強み・個性を持っている』という人財の可能性を信じてマネジメントを行っているのが当社のスタイルです。社員の皆さんからも『会社が社員を信じてくれていると思うとさらにやる気が出る』という声をいただきました。社員を信じ、チャレンジする人を応援する『心理的に安全な職場』を増やすことで、変化に対応し新しいことにチャレンジできる風土がつくられていくと思っています」
社員それぞれが“自分事”として変化に対応
モバイルワークを標準にした一方で、出社を事前承認制にし、出社数を把握するため、また感染者が出た場合も、濃厚接触者等を素早く把握して適切に対応するため、社員の出社状況を把握する仕組みづくりが急務となりました。出社状況をモニタリングするシステムは、情報システム部門の尽力もあって、開発から動作検証まで、たった8日間で立ち上がりました。これにより、出社予定の社員を検索することも可能となりました。
ServiceNowのクラウドプラットフォーム「Now Platform®」を活用した出社状況をモニタリングするシステムの画面
このほか、オンラインでの契約システムや請求書処理・経費精算の運用等、不要不急の出社を無くすための施策が、社内メンバーの緊密な連携によってスタートしました。
「社員の家族を職場に招待する『ファミリーデー』や、小学校での食育授業『カルビー・スナックスクール』、工場見学等、様々な取り組みを初めてオンラインで開催しました。社員の皆さんそれぞれが今回の変化を柔軟に捉え、自発的に自分事として取り組んでくれたと感じます。『Calbee New Workstyle』のロゴ(冒頭に掲載)も社内のデザイナーが自ら作成してくれました」
オンラインの工場見学の様子
時短勤務からフルタイムへ 家庭と仕事を両立して柔軟に働ける環境に
「Calbee New Workstyle」では、フレックスタイム制(コアタイム午前10時~午後3時)を廃止し、より柔軟に働けるフルフレックスタイム制(コアタイム無し)を導入しました。1日1時間以上出勤すれば出勤扱いとなり、午前5時~午後10時の間でコアタイムを意識せずに自身が選択しながら効率的に働くことができるようになりました。
ある男性社員の1日
フルフレックスタイム制とモバイルワークを活用することで、育児短時間勤務からフルタイム勤務へ自主的に戻す社員が増えました。
「コロナ禍ではお子さんを預けられず、お子さんを寝かせた後にパソコンを開く方もいます。社員の皆さんが個々のライフイベントに左右されることなく家庭と仕事を両立し、成果や生産性を志向できるように、そのための働きやすい環境や制度を作るのが人事の仕事だと考えています。
そして、働きやすさにとどまらず、ライフの充実とワークの生産性の向上、そして成果の最大化が相乗的に作用・循環することにより、働きがいが実現される『ライフワークインテグレーション』を目指しています」
「月の9割以上をモバイルワーク」が最多
2020年7月から毎月、モバイルワーク勤務を主体とする社員を対象に、働き方や生産性、コミュニケーション等における満足度、社員自身の振り返りを目的としたアンケートを行ってきました。アンケート結果によると、7割以上の社員が月の半分以上をモバイルワークしています。職務内容によっては出社を必要とする社員もいますが、月の時間の9割以上がモバイルワークという社員が最も多くを占めています。
オフィス勤務者(営業含む)の働き方
「働き方の満足度」については、月ごとにアップし、約7割が”満足”と回答。”不満”は10%未満です。役職者の3分の2がタスクの見える化や業務の見直し等、何らかの工夫を実行しています。アンケートでは、満足度に影響する問題の内容や自分自身で解決できないことについても聞いており、”相談したい”と回答した社員とは人事部門が個別に面談をするなどして、問題の解消に取り組んでいます。
また、毎年社内ではメンバーシップサーベイ(エンゲージメント調査)を行っています。2020年度は、カルビーで働くことへの誇りや人事・制度面についての満足度がアップする等、エンゲージメントの全体スコアが上昇する結果となりました。
社員のコミュニケーション工夫事例を横展開
モバイルワークにおけるコミュニケーションや仕事の進め方については、社員それぞれで工夫がみられており、アンケートを通じて収集した良事例を紹介して横展開をしています。
例えば、TeamsやZoomで繋ぎっぱなしにしてオフィスで近くの席に座っているような環境をつくり、雑談や質問をする時間を定期的に設けたり、自己紹介や雑談をするグループチャットを作ったり、オンラインのランチワークショップや勉強会も増えました。
Zoomで定期的につなぎっぱなしの「自習室」を設けている部署も
人事部門が定期的に開催するオンラインの「Calbee Learning Café」は社員なら誰でも自由に参加できる学びと交流の場になっています。マインドフルネスやオーセンティック・リーダーシップ、幸福学等、多岐に渡るメニューを社内外の専門家が講師となって提供しています。
ITツールのスキルを磨くための社員向けの勉強会も、頻繁に行われています。さらに、ITツールの活用方法や効率よく快適に仕事を進めるためのコツ等を、メールマガジン「New Workstyleナビ」で定期的に社内へ発信。この中で、より自分事として取り組むポイントを共有しています。
オフィスは「リアルだからこそ」を追求するコミュニケーションスペースへ
オフィスの在り方について、武田さんはこう言います。
「リアルな場で感じる熱量や雰囲気等、リモートでは受け取れない情報がたくさんあります。アイデア出しをするブレスト会議やプロジェクトのキックオフ、実際の商品を手に取っての商談等、リアルだからこそ成果が高まるコミュニケーションは多いです。
よって、オフィスが不要ということにはなりません。オフィスに来ることでお互いに影響を与え合ったり、偶発的に生まれた雑談から新しい何かが始まったりということもあります。これからのオフィスは、カルビーらしさが感じられるオープンで新しい価値を創造する場所になればと思っています。
『Calbee New Workstyle』は、出社を禁じるというものではなく、自身と関わる人達が最もパフォーマンスを出せる場所や時間は何かを考え、自ら選んで働くということです。出社のメリットを意識しつつ、出社とモバイルワークを使い分けていくことが必要です」
幸せに働く人を増やし「全員活躍」の強い組織を目指す
カルビーは中期経営計画(2020年3月期~2024年3月期)の重点課題の一つとして、「働き方改革によるパフォーマンス向上」を明文化しています。「Calbee New Workstyle」は、単に働く場所がオフィスから自宅へ変わったということではなく、仕事の内容や状況に応じて働く場所を自立的に選択することはもちろん、社員それぞれがあらためて自身の働き方や在り方を見直すきっかけとなりました。
「どんなに人事が制度を整えたり方針を定めたりしても、その価値を享受するのは社員の皆さんで、働き方改革は社員起点でなければならず、常に現場が主役です。社員一人ひとりが『圧倒的当事者意識』をもって主体的に取り組むことが重要だと考えています。
多様な経験や価値観を持つ人たちがそれぞれの持ち味を活かして『自分が主人公』だと思って働けば、成果を実感でき、それが働きがいや幸福度の向上、豊かさの実現につながると思います。幸せに働く社員を増やし、全員が活躍する、そんな強い組織にしていきたいです」