「つながるDX」~DXは目的ではない。課題解決の手段である~
DX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)という言葉を、目や耳にすることが増えてきました。「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられます。新型コロナウイルス感染症の流行やデジタル化によって、人々の生活様式がめまぐるしく変化している今、データやデジタル技術を活用した業務や企業文化の変革を求められてきています。そんな中、カルビーは、2019年9月にDX推進委員会を立ち上げました。事務局のメンバーでもある、情報システム本部 本部長の小室滋春さんにお話をうかがいました。
小室 滋春(こむろ しげはる)
カルビー株式会社 執行役員 情報システム本部 本部長
2015年入社。情報システム部長を経て、2017年より現職。
「Calbee New Workstyle」を実践するため、1月から出社回数合計10回程度で勤務。
中期経営計画に盛り込まれたDX
ー中期経営計画(2020年3月期~2024年3月期)の重点課題の一つとして、DXが掲げられましたが、どのような背景があったのでしょうか?
小室:カルビーがおいしさと楽しさをお客様と一緒に作っていく中で原料から消費者までの10プロセスを定義しています。そしてそれぞれのプロセスの中で生産者の方や流通の方、お客様などとつながる好機があります。デジタルを活用し、つながりの無限の可能性を追求するために盛り込まれました。
カルビーの10プロセス
10プロセスの中で仕事していると、デジタル・非デジタルに関わらずデータが生まれます。その中にお宝があると思っています。
10プロセスの周りに発生するデータのイメージ図
単独のデータはそれぞれでも意味があるかもしれませんが、データがつながると新たな価値や気づきが生まれます。最初は、データをつなげて何ができるか、何が見えるか、情報システムが主導で、できることをやってみたものが、「カルビーデジタル年表」です。
過去20年の一品別の売上データを軸とし、商品で紐づけできるデータを集めてみました。商品画像、卸店から小売店への出荷、商品通達、お客様の声、SNS、売場情報などなど、名前の通りまさに「年表」です。売上だけではなく、総合的に何が起こったかを簡単に把握できるようにしました。3年前にスタートして、今でも新たなデータが追加されています。
デジタル年表イメージ図
デジタル年表の取り組みを始めたことで気づいたことがありました。それは人によって活用度合いがまちまちだということです。課題意識を持っている人は、仮説を確認するために頻繁にアクセスしますが、そうでない人もいます。教科書的な進め方だけでは実用には結びつかないのです。
このような背景もあって、DX推進委員会を設立しました。教訓を生かして、事業部門(営業・生産・購買・マーケティング)のメンバーを中心として、情報システムは事務局の立場で事業の課題解決に徹することにしました。
カルビーでは、業務の課題を解決していくために、仮説を立て、データを集め、分析をするアプローチで進めようという方針を最初に打ち出しました。
アプローチの仕方
集めたデータから何ができるかを考えるのが「データ先行型」で、課題を解決するためにデータを集めるのが「目標具現型」と定義しました。どちらが良い悪いとは言えませんが、IT企業ではないカルビーは「目標具現型」を選択しました。
困っていることの解決や、やりたいことの実現を目指す方が、初期投資も少なくて向いていると考えたのです。
DX推進委員会での活動
―2019年9月に設立したDX推進委員会では、どんな活動をされてきましたか?
小室:これまで、工場IoT(つながる工場)の取り組みや、デジタルカルビーファンベースであるルビープログラム、需要予測、契約農家の方への栽培技術支援などにも着手しています。既にスタートしたものもあれば、まだ検証を繰り返している案件もあります。
その中で、共通したキーワードとして「つながる」を持っています。カルビーは社内だけでDXを行うのではなく、社外と連携して「全てはお客様のため」に社外とつなげていこうと思っています。
目指す姿 つながるDX
生産者の方やお取引先、消費者の皆さまといった具合に、それぞれでデータのプラットフォームがあり、それらとカルビーのプラットフォームをつなげてやりとりをしていこうとしています。
サプライチェーンで見れば、種子、圃場(畑)から何事も始まると考え、馬鈴薯契約農家の皆さんが品質の高い馬鈴薯を収穫、出荷できるために肥料や病虫害の情報、生育状況も衛星データやドローン画像を用いて分析しています。その上で、工場で商品に加工するときの歩留まり、品質の予測にまで一気通貫につなげられないかも検討しています。
お客様との関係では、店頭で商品を手に取っていただくタイミング、ネット店舗にアクセスしてカートに入れていただく時点、実際に商品を食べていただく瞬間など、それぞれで接点があります。お一人おひとりのニーズに応えた商品、サービスについてデジタルで検証することを考えています。
カルビーが求めるDX人材
―カルビーが求めるDX人材とは、ずばりどんな人でしょうか?
小室:一言で言えばデータを活用し既存ビジネスを進化させる社員です。社内にそういう人を増やすことがカルビーのDX人材育成だと考えます。
ちまたでDXって言葉がありますが、スペシャルなことをするのではなく、私たちの事業や業務をデータを使ってもっと発展させるものなのだと思います。つまりDXは目的ではなくて、課題解決の手段です。データで何を生みだせるかイメージするには、センスが必要です。データを見てピンとくる人を社内で育てていかなくちゃいけません。仮説をもって分析し実証していくことの繰り返しです。
データサイエンスの専門家である必要はありません。むしろカルビーのことを良くわかっていることが大切です。その上でデータも少し理解できれば良いのです。そういう社員を育ていきたいですね。
社内のデータを見て仮説を立てられるのはカルビーの人しかいないんです。
社外にはいません。工場のデータを見て「想定より馬鈴薯の比重が高いからフライヤーの温度を調整しなければならない」と言えるのは社内の人しかいないでしょう。
そこを磨くのがカルビー流のDXではないでしょうか。宝を発掘できる人を増やしていきたいです。
(出典)株式会社ジール ホームページ (https://www.zdh.co.jp/)
これからのカルビーDX
―最後にカルビーのDXは今後、どのようになっていたいですか?
小室:カルビーで取り組んでいるDXテーマは、面白いけどまだ数が少ないです。もうちょっと小さくてもいいからボコボコとお湯が沸騰する直前の状態のように、「あれしたい!これしたい!」といろんな部署から声が出て、情報システムが「もう動けない!」というくらいになりたいです。 あちこちでいろんなことを始めて欲しいです。
誰もがデータを少し使いこなして、業務を進化させていく。それが私の夢です。ちょっと偉そうに聞こえるかな(笑)