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「しあわせ」にこだわった!?あまじょっぱい「ポテトチップス しあわせバタ~」が生まれたワケ

かつて、新商品のポテトチップスを毎月、コンビニで期間限定発売する企画がありました。

「パリパリバリエーション」と呼ばれたこの企画では、数多くの商品が誕生。中には、人気の高さから“レギュラー”へと昇格し、現在は通年販売されている商品があります。

それが「ポテトチップス しあわせバタ〜」です。

2010年に期間限定で初登場すると、当時珍しかった“あまじょっぱい”味わいが人気に。以来、毎年期間限定で発売し、2015年に通年販売となりました。

4つの素材を合わせたことから「しあわせ(4あわせ)」と名付けたネーミングも印象的なこの商品。いまではカルビーポテトチップスで不動のトップ3「うすしお味」「コンソメパンチ」「のりしお」に次ぐ4番目のフレーバーに成長しました。

では、このあまじょっぱい味わいはなぜ生まれたのか。今回は、開発当時の担当者だった下谷理さんと吉田正也さんにお話を聞きました。

下谷 理(しもたに おさむ) 写真右
カルビー株式会社
マーケティング本部 新規商品部 特販チーム ブランドマネジャー
1999年入社。営業を経て、コンビニエンスストアに向けた商品企画・マーケティングを担当。海外事業を経験した後、土産・特殊チャネル向けの販売子会社に出向。2022年から商品企画・マーケティング担当に復帰し、2024年4月より現職。
 
吉田 正也(よしだ まさや)
カルビー株式会社
研究開発本部 商品開発1部 新規ポテトチップス課 課長
2006年入社。以降3年間、広島西工場ポテトチップス製造課に所属。その後、ポテトチップスや新規商品の開発に従事。2020年4月より現職。


想像のつかない“一手間加えた”バター味を目指す

「こういった期間限定の企画品は、次の年に再び発売しても、うまくいかないケースも多いのですが『しあわせバタ〜』はその後も好調でしたね」
 
振り返るのは、当時「パリパリバリエーション」の担当として、「しあわせバタ〜」を生み出した下谷さん。

毎月、ポテトチップスの新商品を期間限定発売する「パリパリバリエーション」。新しいものを求めるコンビニのお客さまに向けたこの企画は、好評で約10年間続きました。その結果「韓国のり味」や、「チーズ明太子」などの人気商品も誕生しました。

「ポテトチップス 韓国のり味」(現在は販売しておりません)
「ポテトチップス チーズ明太子」(現在は販売しておりません)

2007年から、「パリパリバリエーション」の担当となった下谷さん。毎月新商品を出すには綿密な計画が必要で、似たような商品が続かないようにしなければなりません。
 
そこでまず下谷さんが行ったのは、「酸味系」や「醤油系」などお客さまに人気の味の系統・ジャンルを明確にすること。その上で、暑い時期には酸味系、冬場は濃い味の系統など、各系統と相性の良い季節を考え、新商品の発売時期を決めました。

このとき、系統の一つにあったのが「バター系」。「しあわせバタ〜」につながる味です。「当時のデータからも、バター系の味は人気のフレーバーの一つでした。また、バターの濃い味わいを考えた時に、発売時期は冬、12月頃と設定しました」(下谷さん)。

こうして、2010年12月にバター系商品を出すことをまず決定。具体的な味の企画は、その半年ほど前からスタートしました。当時は、そのようなサイクルで毎月発売する「パリパリバリエーション」を開発していたのです。

「“一手間加えた”バター味にしようと思いました。ただの『バター味』では工夫がないし、味が想像できてしまう。新しいものを求めるお客さまには響きにくいと考えました」(下谷さん)

ここでいう“一手間”は、醤油系なら「焦がし醤油」、塩系なら「アンデスの岩塩」など、味のベースにプラスアルファ加わったイメージ。では、バターの一手間は何か。その時、レストランのメニューで見かけた「合わせバター」が印象に残ったといいます。そうして、バターに何かを合わせた新商品の検討をはじめました。

ほぼ完成からの再検討。素材を4つに絞るこだわり

下谷さんのアイデアを聞き、実際に味の開発を担当したのが吉田さん。当時、二人はよくコンビを組み、「パリパリバリエーション」の商品をつくっていました。
 
「『バターに何かを合わせる』ことだけ決まっていて、味の方向性は定まっていませんでした。合わせる素材としてガーリックやマスタード、ベーコンなど、いろいろなものを試しました」(吉田さん)
 
その結果、バターにガーリック、はちみつ、パセリ、レモンなどのフレーバーを合わせる方向で決定。配分を調整しながら味わいの完成度を高め、一度はほぼ完成したといいます。

しかし、このまま晴れて発売とはなりませんでした。「下谷さんから『メインの味はガーリックを抜いて、バター・はちみつ・パセリ・レモンの4つに絞りたい』と連絡がありました」。その提案に吉田さんは非常に驚いたといいます。

「しかも、使う素材は減らしても『味の質は落とさないで』と。ここまで来て作り直すのは珍しいですし、何よりフレーバーを少なくしながら味を保つのは、本当に難しい。大変なことになったと思いましたね(笑)」(吉田さん)

なぜこのような判断に至ったのか。「今考えると無理な相談ですよね」と、下谷さんは苦笑いしながら真相を語ります。
 
「きっかけは上司とのミーティングでした。今回のバター系商品は12月から年明けまでのお客さまの心情が盛り上がる時期に店頭に並ぶので、みんながハッピーになれるコンセプトにしようと決まりました。ハッピー=幸せだから、4つの素材を合わせて『しあわせ(4合わせ)』というネーミングはどうだろうと。それで吉田さんに無茶振りをしてしまった(笑)。パーティー需要も考えて通常(70g)より大容量にすることも決めました」

味わいも、ハッピーで気持ちが盛り上がるものにしようと考え、「甘さ」を強くすることに。「しあわせバタ〜」の特徴である“あまじょっぱさ”は、このとき初めて明確になったのです。

ところで、メインの味を4つにするために、“抜く素材”としてなぜガーリックを選んだのか。下谷さんは、「しあわせという視点で材料を見たとき、どうしてもガーリックは浮いてしまうと感じました」と話します。ガーリックは味や匂いが強い分、好みの分かれる素材。みんながハッピーになれるという意味では、ほかの素材を優先したいと考えたのでした。

「意外な形で生まれたしあわせのコンセプトですが、手応えを感じていましたし、無茶を言ってでもこだわりたかったのです。何より、吉田さんをはじめ、開発チームは難しい条件でも味を仕上げてくれると信じていました」(下谷さん)

ガーリックの抜けた穴を4つの素材でどう補うのか

要望を受け、吉田さんはもう一度味作りにチャレンジします。味を抜くのはポテトチップスの開発において至難の業で、「たとえば塩味を作るにも、使う塩の種類を少なくして味を保つのは難しいんです」(吉田さん)。しかもガーリックは味が強い分、なくしたときの味の変化は大きかったとのこと。
 
「メインで使う素材はバター・ハチミツ・パセリ・レモンに決まっているので、味を変えるには配分を調整するか、違うバターにするなど、種類を変えるしかありません。このときは配分調整に終始しました。風味の強いガーリックが抜けたので、同じく風味の強いバターの配分を上げ、ほかの素材も調整しました」
 
その後、試行錯誤を重ねた上で下谷さんと試食し、最終商品が決定。「これならいけると思いました」と、吉田さんは振り返ります。「それでも、あまじょっぱいポテトチップスは珍しかったので、ここまで売れるとは思わなかったですね」
 
商品パッケージも「しあわせ」にこだわりました。四つ葉のクローバーやリボンをあしらってしあわせ感を出したほか、内容量は111gのゾロ目に。「本当は7を使いたかったのですが、77gだとパーティー用には少ないですし、777gは大きすぎるので」と下谷さんは笑います。

2010年発売の「ポテトチップス しあわせバター味」

こうして「パリパリバリエーション No.121」として2010年12月に初登場した「しあわせバタ〜」。発売後の反応もよく、翌年以降も期間限定で発売することになりました。
 
下谷さんと吉田さんは、その後「しあわせバタ~」の担当を離れることになりましたが、後を継いだ担当者は最初のコンセプトを大切にしつつ、商品をブラッシュアップしていきました。
 
たとえば、発売当初は「しあわせバター味」の商品名でしたが、翌2011年には「しあわせバタ〜」に改名。「―」から「〜」に変えることで、幸せでウキウキした気分を連想できるようにしました。
 
4つの素材もマイナーチェンジを続けました。2010年に使用されていたレモンは、よりコクのある味わいにしようと2011年にクリームチーズへ。翌2012年には、後味をすっきりさせるため、酸味と軽さのあるサワークリームにふたたび変更。さらに翌2013年には、コクと軽さの両方を兼ね備えたマスカルポーネチーズに代え、現在まで続いています。

4つの素材

2010年から2014年まで売上は年々アップ。2014年には、「しあわせバタ〜」がベースとなった韓国の合弁会社・ヘテカルビーの「ハニーバターチップ」が爆発的人気となり、日本の「しあわせバタ〜」を買いに来る方が増えるという出来事も。SNS上でも「しあわせになれる」「買えない」など大きな話題になりました。

歴代の「しあわせバタ~」のパッケージ


「ハニーバターチップ」

ついにレギュラー化。「時代ごとの“しあわせ”を味に」

こうした反響を受けて2015年、ついに通年発売に。それから約10年、いまでは「ポテトチップス」シリーズで4番目の売上になるまでに成長しました。「しあわせのコンセプトは守りつつ、あまじょっぱさを強くするなど、徐々にブラッシュアップしてくれたことも人気につながったのだと思います」と吉田さん。

それを聞いた下谷さんは、「時代ごとの“しあわせ”を担当者が商品にしてきたからこそ、ここまで広まったのかもしれません。しあわせの定義も時代によって変わりますからね」と笑みを浮かべます。

最後に二人は「これからもずっと定番として、お客さまに楽しんでいただきたいです」と、期待を込めます。パリパリバリエーションから生まれた「しあわせバタ〜」。この商品で、たくさんの人が幸せになることを開発者は望んでいます。

文:有井太郎(外部)
写真・編集:櫛引亮

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