オートミール市場参入までの舞台裏。ユーザーの要望に応えて生まれた「ベイクドオーツ」
近年、注目が集まっているオートミール。
オーツ麦を脱穀して食べやすく加工したシリアル食品で、健康志向の高まりなどを受け、ここ数年で市場が急成長しています。
2022年4月、カルビーもオートミール市場に参入しました。
発売したのは、カルビー独自の製法でオートミールをおいしく焼き上げた「ベイクドオーツ」。通常のオートミールは加熱調理してふやかして食べるのに対し、加熱不要でそのままでもミルクをかけても食べられる即食タイプの商品です。
通常と異なるアプローチにいたった背景には、オートミールユーザーが抱いていた要望があったといいます。
発売から1年。早くもたくさんのお客様から支持を集める「ベイクドオーツ」誕生の舞台裏について、二人三脚で開発した大本都子さんと岸本卓也さんに聞きました。
参入のきっかけは、市場の急成長とオーツ麦の可能性の追求
本題の前に、オートミールについて整理しようと思います。
オートミールの名前の由来は、オーツ麦を意味するオート(oat)と、食事のミール(meal)の組み合わせです。オーツ麦を脱穀して蒸し、調理しやすくしたもので、平べったいフレーク状のロールドオーツや、それを細かく砕いたクイックオーツなどがあります。
海外では古くから食事として取り入れられており、おかゆ状に調理するのが一般的。糖質やカロリーが低い一方、食物繊維や鉄分、タンパク質といった栄養素を豊富に含んでいます。
そんなオートミールが、なぜ国内で急速に広まったのでしょうか。
背景に大きく2つの要素があるというのが、大本さんの見立てです。
「1つ目はコロナ禍で健康志向が高まる中、ダイエット文脈で多くのメディアで紹介されたこと。2つ目はオートミールと水を合わせてお米のように食べる米化(こめか)が広がったことです。米を主食とする日本ではこれが受け入れやすかったのだと思います。海外では温めたミルクで食べるのが主流ですから」
実際、国内のオートミールの商品ラインアップは2020年ごろから増えており、市場の推計規模をみると2019年からの4年間で約12倍に拡大しています。
カルビーはこれまでオートミールこそ手掛けていませんでしたが、1988年のシリアル市場参入以来、主力の「フルグラ®」をはじめ、オーツ麦を主原料とするシリアルを数多く生産販売しています。
オートミールの需要が高まる中、オーツ麦の使用量で日本トップクラス※の食品企業としてカルビーも水面下で市場参入を検討していました。
※出典:財務省貿易統計 2020年4月~2021年3月 税番コード 110412000のシェアより
岸本さんは「オーツ麦の可能性を追求する中で、市場への参入は、コロナ禍になる前から計画していました。ただ、当時は市場がどの程度成長するのか、懐疑的な部分もありました。発売するとしても、競合が出していた、加工や味付けがないプレーンタイプでよいのかどうかなど、大本さんと検討してましたね」と当時を振り返ります。
調査で分かったオートミールユーザーの本音
どんなオートミールが市場で求められているのか。方向性を模索する中、大本さんらはユーザーの実態を探るべく、アンケート調査を実施しました。
その結果、オートミールの購入理由として「食物繊維が摂れるから」「ダイエット食に向いているから」などが上位を占めた一方で、「味のバリエーション」や「調理の手間」に課題を感じていることがわかりました。
「市場が拡大し、ユーザーが増える中で、“もっと簡単に食べたい”というニーズが出てきたんだと思います。なんとなく耳にしていたユーザーの本音が調査の結果、確信に変わったという感じです。加熱する面倒くささとか、どろっとした食感そのものが苦手で長続きしない方がたくさんいたんです」(大本さん)
こうした調査と並行し、様々なコンセプトのオートミールを探求しました。そんなときに出会ったのが、海外でテスト的につくられていた、オーツ麦のみをシロップをかけて焼いたシリアルでした。
大本さんはそのときのことを、こう回想します。
「食べたときはハッとしました。『フルグラ®』がザクザク食感なのに対し、オーツ麦だけを焼いたら、こんなにサクサク食感になるのかと。しかも、焼いたものであれば、そのままでもミルクをかけてもすぐに食べることができて、ユーザーの方々の手間を解消することができる。そのうえ、カルビーがこれまで培ってきた、グラノーラの技術も活かすことができ、まさにピッタリのコンセプトでした」
開発のために乗り越えた2つのハードル
オーツ麦のみをおいしく焼き上げる。
長年、「フルグラ®」などのグラノーラを生産するカルビーにとっても、これは簡単な話でありませんでした。大きく2つの難しさがあったといいます。
まず頭を悩ませたのが、水分調整です。オーツ麦だけでなく、ライ麦、玄米など複数の穀物とシロップを混ぜて焼き上げるグラノーラに比べ、オーツ麦だけを焼く場合は水分を抜くのが難しかったのです。
「焼く時間が長すぎるとバリバリになってしまいますし、短すぎると中に水分が残って食感が損なわれてしまう。何度も試作を繰り返して、均質に火が通りサクサク食感に仕上がる方法を見つけました」と、岸本さんは当時の苦労を口にします。
大本さんは「サクサク食感を再現するのは本当に大変だったと思います。当時コロナ禍だったこともあり、なかなか工場に行くことができず。この部分は岸本さんに頼りっぱなしでした」と、感謝します。
オートミールにじっくり熱を通すことで、1粒1粒ムラがなく熱が入り、香ばしいオーツ麦の味わいと、おいしさを引き出す。この製法は後に「ベイクド製法」として確立しました。
もう1つは、甘さを抑えること。先ほどお伝えした海外のテスト品は、シロップで焼き上げており甘いシリアルでしたが、目指したのは「フルグラ®」に比べて甘くない商品。
ここは大本さんがどうしても譲れないところでした。ダイエットやボディメイクを意識しているストイックなオートミールユーザーが求めているのは、甘い商品ではないという確信があったのです。
「極限まで甘みを抑えてほしい」
大本さんからこのような要望を受けた岸本さん。主役であるオーツ麦のおいしさを引き立てつつ、甘さを抑えて焼き上げるため、シロップに代わる素材を探しました。
砂糖やはちみつなど様々な素材を試しては大本さんに「もっと甘さを抑えられませんか」と突き返されたと言います。最終的にたどり着いた素材は、オリゴ糖でした。
岸本さんは「あくまでもオーツ麦が主役でどういったものを加えれば、食感や素材の風味を引き出すことができるのか、いろいろと試しました。社内からは“もう少し甘くても良いのでは”という意見もありましたが、大本さんは一切妥協しませんでしたね」と大本さんに目を向けます。
大本さんは「そうでしたか?」と笑顔で答えた上で、「甘くしすぎると『フルグラ®』との差別化も難しくなってしまいます。この時に、岸本さんと一緒にこだわり抜いたことが、結果的に現在の人気につながっていると思います」と説明します。
「フルグラ®」と並ぶ一大ブランドへ
たくさんの苦労を乗り越えて完成したオートミール加工品「ベイクドオーツ」。食感の変化や味わい、彩りを意識し、リンゴやマンゴーなどを入れた「フルーツ」と、スライスアーモンドやクラッシュアーモンドを加えた「ナッツ&シード」の2種類を2022年4月に発売しました。
発売から1年。少しずつ認知も拡大し、特に「ナッツ&シード」は、国内のオートミールカテゴリーでトップクラスの人気を誇るまでになりました。
焼き上げたオートミールである「ベイクドオーツ」は、これまでにないコンセプトの商品であり、一部のバイヤーやお客様からはオートミールでもグラノーラでもない、新しいカテゴリーとして好意的に受け止めていただいているといいます。
一方で、発売後に見えてきたこともあります。パッケージだけでは、オートミールカテゴリーの商品であることが伝わりづらかったり、「フルーツ」に関しては、味がイメージしづらかったりするなど、解決すべき課題が浮き彫りになったのです。
そこで、愛され続けるブランドを目指し、この4月、ベイクドオーツは初めてリニューアルします。パッケージを、オートミールカテゴリーであることを強調するデザインに一新。人気が高い「ナッツ&シード」はそのままに「フルーツ」の代わりに「バナナ&ベリー」を発売します。
「ストイックなオートミールユーザーの方々は彩りよりも栄養的価値を評価しているのではという仮説のもと、一新します。バナナは、オートミールと一緒に食べる方も多く、言わば最強の相棒です。味のイメージもしやすいはず」と、岸本さんは狙いを語ります。
リニューアルを実施し、さらなる成長が期待される「ベイクドオーツ」。
一新したパッケージに目をやりながら、大本さんが目標を語ってくれました。
「オートミールに興味関心があるけど、食べることを躊躇している方々に、“そのままおいしいオートミール”という価値を『3秒オートミール』というキャッチコピーを使い、ブレることなく届けていきたいです。そのために試食販売やサンプリングなど、食べてもらうための施策を積極的に行っていきます。目指すは、オートミールカテゴリーでトップ。シリアルでは『フルグラ®』と並ぶ一大ブランドです」
調査でわかったお客様の要望に応え、提案した新しいコンセプトのオートミール加工品「ベイクドオーツ」。その魅力をより多くのお客様に届けるため、2人の挑戦は続きます。
文、写真:櫛引亮