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【特別対談】Calbee✖️TGES(後編)多様な企業が手を取り合うことで、循環型社会の未来は拓ける

脱炭素社会やカーボンニュートラルを目指す上では、企業同士が手を取り合って連携することが大切になります。
そんな考えのもとに行われている取り組みが「清原工業団地スマエネ事業(以下、清原スマエネ事業)」です。
 
この事業は、清原団地にあるカルビーの3事業所(新宇都宮工場、清原工場、R&Dセンター)と、キヤノンの3事業所、久光製薬の1事業所が連携し、エネルギーを一体管理しながら省エネを目指すもの。
 
事業所ごとではなく、“面的”にエネルギーを供給することで効率化を図るほか、独自のエネルギーセンターと供給ネットワークを構築し、発電時に発生する「廃熱」の有効活用や、送電時の「電力ロス」を抑える仕組み実現。その結果、年間約20%という大幅な省エネを達成しました。
 
清原スマエネ事業において、全体のエネルギー管理や企業連携の調整といった“コーディネーター”の役割を務めたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(以下、TGES)です。
このたびTGESの小西康弘社長と、カルビーの江原信社長が対談。先に公開された前編では、本事業の概要や、その中で省エネを目指す両社の姿勢に触れてきました。

■前編はこちら


後編の今回は、脱炭素社会に向けて企業が手を取り合う意味、そして両社が新たに始めた取り組みについて話します。

小西 康弘(写真中央)
東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
代表取締役 社長執行役員
東京ガス株式会社 常務執行役員

江原 信(写真左)
カルビー株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

後藤 綾子<ファシリテーター>(写真右)
カルビー株式会社 サステナビリティ推進本部 本部長


個性を持った企業の連携で生まれた「清原のベストミックス」

後藤:長くエネルギーに携わってこられた東京ガスグループとしても、清原スマエネ事業は画期的な取り組みだったと伺いました。やはり実現は容易ではなかったのでしょうか?
 
小西:現場の社員は、本当に大変だったと思います。なぜならこの事業は、内陸型の工業団地において、業種の異なる複数の企業に電力と熱を合わせて供給する、国内初の内陸型工業団地における「工場間一体省エネルギー事業」でしたから。
 
加えて今回難しかったのは、各社にすでにある設備を活用して行ったことです。こういった取り組みは、新たに設備を作り行うケースが多いものですが、既存設備の中で前例のない挑戦をする大変さがありました。半世紀以上にわたり地域冷暖房事業に携わってきたノウハウがなければ、実現できなかったと感じています。

清原スマートエネルギーセンター

江原:企業が連携するということで、その分の苦労はありましたが、エネルギーについて個社でできることには限界があります。前回お話ししたように、1%の省エネを実現するにも単体では相当な苦労がありました。その中で約20%という大幅な削減ができたのは、企業が力を合わせ、共創したからこそでしょう。
 
カルビーの事業でいえば、近年は販売や流通といった領域についても、業態の近い企業が手を取り、価値を高めようという動きが起きています。同じようにエネルギーや原料調達についても、複数の企業が集まって何かに取り組む形は今後ますます重要になるでしょう。

小西:エネルギーは、管理するエリアや規模が大きくなるほど省力化の効果が出やすく、今回のような連携の取り組みは理想的でした。連携する企業・事業所の“組み合わせ方”によっても効果が異なるのがポイントです。たとえば、どの企業・事業所にもエネルギー使用量がピークに達する季節や時間帯がありますが、そのピークが多種多様な企業が組み合わさるほどメリットが大きくなります。
 
例えば、ピークのエネルギーを賄うために100の設備が必要な事業所2つが、それぞれが設備を持つ場合、合計で200の設備が必要です。しかし、ピークが異なればまとめることができ、2つの事業所で100でも済むかもしれない。これはビルや商業施設のエネルギーマネジメントでも同様です。清原スマエネ事業は、各事業所のタイプが異なり、良い形で平準化を達成できたのですが、実は設計段階からそのような“ベストミックス”が生まれると確信して事業を進めてきたのです。
 
江原:ちなみに、同じ業種の企業同士でも今回のような省エネ効果を出すことは可能なのでしょうか。
 
小西:可能だと思います。業種はそれほど関係なく、エネルギー需要のピークさえ異なれば十分に成り立つでしょう。たとえば食品メーカー同士でも、作るものによって稼働の時間帯も季節変動も違うでしょうから、さまざまな企業の連携があり得ると思います。

カルビーとTGESの新たな取り組み、将来の脱炭素に向けた展望も

後藤:清原スマエネ事業で実現した約20%のエネルギー削減は意義深いものと受け止めていますが、一方で、政府が掲げる2050年のカーボンニュートラル社会を実現するには、さらなるハードルがあると思います。お二方が課題に感じていることはありますか?
 
江原:再生可能エネルギーへの転換は着々と進めているものの、カルビーの場合は、エネルギー消費量の半分以上を占め、しかも食品加工に欠かせない「熱」の脱炭素化は、非常に大きな課題です。ここをクリアすることで、また一歩進めることになります。そこでTGESさんとともに、再生可能エネルギー由来のJ-クレジットを活用し、商品の製造工程で必要な熱エネルギーのCO2を実質ゼロにする取り組みを清原の3事業所で始めました(※)。

※再生可能エネルギー由来のJ-クレジットとは、再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量をクレジットとして国が認証しているもの。TGESが再エネ由来のJ-クレジットを調達し、カルビーに提供。TGESが清原スマートエネルギーセンターからカルビー3事業所に供給する熱(蒸気・温水)のCO2にJ-クレジットを割り当ててオフセットする。本取り組みは今年度から段階的に開始し、2025年までに、カルビー3事業所の熱利用における温室効果ガス排出量(Scope2)の全量に相当する約5,000トン/年のオフセットを目指す。

熱の脱炭素化は一足飛びには行かない問題ですが、こういった形で少しずつでも進めることが大切だと考えています。ただし、当然ながらJ-クレジットが根本的な解決になるわけではありません。あくまで移行期における打ち手であり、第一弾の位置付けです。長期的には、TGESさんをはじめ、さまざまな機関の知見や技術を借りながら、真の脱炭素化を目指していきます。
 
小西:今回、J-クレジットのような形でカルビーさんのカーボンニュートラルへ向けたお手伝いを新たにできることをうれしく思います。ただし、江原社長がおっしゃった通り、今後はより現実的な脱炭素化へ向けて歩みを進める必要があるでしょう。

そのひとつとして、私たちが取り組んでいるのがe-methane(イーメタン)の実用化です。e-methaneとは、CO2と水素から作られる合成メタンであり、都市ガスの原料になるものです。つまり、e-methaneが実用化できれば、すでにあるCO2をリサイクルしながら都市ガスを作れる、CO2の排出量を増やさずに都市ガスを活用できるのです。

CO2 をリサイクルしつつ、再生可能エネルギーを使用して水素を製造すれば、e-methaneはカーボンニュートラルなエネルギーと考えることができます。CO2 の排出量を増やさずに都市ガスを活用できるのです。このe-methaneは既に実用化のロードマップも策定しており、2050年には商用ベースに乗せたいと考えています。わざわざe-methaneを作らず、クリーンエネルギーの水素をそのまま使えば良いのでは、という意見もありますが、水素を広く一般家庭で使えるようにするには大掛かりなインフラ整備が必要であり、費用も時間もかかります。であれば、現在の都市ガスインフラをそのまま使えるe-methaneが現実的だと考えています。

清原のような共創事例を全国に広げ、循環型社会の実現を

後藤:今回の対談で、両社の連携や今後の取り組みがよくわかりました。最後に改めて、循環型社会や脱炭素化へ向けた思いを伺えますでしょうか。
 
江原:循環型社会や脱炭素化の実現に向けては、現状さまざまなハードルや制限があるのは事実です。しかし、企業はその苦難を乗り越えて進まなければなりません。私たちカルビー創業の精神は「未利用資源の有効活用」であり、限られた資源を余すことなく活用するのが当社のDNAです。その姿勢はエネルギーに対しても同様であり、電力や熱をはじめ、あらゆるエネルギーを最後まで余すことなく使いきる、循環型のサステナビリティ経営を目指していきたいと思っています。

小西:TGESはガスだけでなく、熱や廃油・排水も含めてお客さまのエネルギー等に関する実情を把握し、課題解決の提案をしながら新しい価値を提供していく企業です。その営みを真摯に続けることが、社会全体のサステナビリティの実現につながっていくと考えます。

これからの鍵になるのは、やはり企業の共創です。一社では難しくても、企業が集まると新しい価値が生まれることは、清原スマエネ事業で証明されました。それも、より個性豊かな、多様なエネルギーの使い方を実践する企業が集まると、より良いものができるのです。TGESとしては今回のような好事例を全国に展開し、共創の事例を増やしていきたいですね。

江原:カルビーも広島県と茨城県で新工場の操業を控えており、今回得た経験を活かしながら、さまざまな企業・機関とのコラボレーションを視野に入れていきたいと考えています。集まることでメリットが生まれ、未利用資源の活用は広まっていくでしょう。たくさんの方と力を合わせ、循環型社会を目指していきたいと思います。


編集:深谷 真理奈
文:有井 太郎(外部)
写真:稲垣 純也(外部)

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