【特別対談】Calbee✖️TGES(前編)20%の省エネを達成した“日本初”の取り組みは、カルビー創業の精神につながる
カルビーをはじめ、多様な企業の製造拠点が集まる、栃木県宇都宮市の「清原工業団地」。
このエリアで、企業間が連携し、省エネルギーや脱炭素を目指す国内初の取り組みが行われています。それが、2019年から稼働を開始した「清原工業団地スマエネ事業(以下、清原スマエネ事業)」です。
参加しているのは、カルビーの3事業所(新宇都宮工場、清原工場、R&Dセンター)のほか、キヤノンの3事業所と、久光製薬の1事業所。これまでは、それぞれの設備で電力や熱といったエネルギーを管理していましたが、清原スマエネ事業では7つの事業所が連携し、エネルギーを一体管理しながら省エネを目指します。
具体的には、3社7事業所の使用する電力と熱の供給を担うエネルギーセンターと供給ネットワークを構築し、発電時に発生する「廃熱」の有効活用や、「送電ロスの低減」を実現。その結果、年間約20%という大幅な省エネ・省CO2を達成しました。
この取り組みにおいて、事業所の単位を超え複数事業所間でスマートエネルギーネットワークの構築や管理を行ってきたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(以下、TGES)です。今回、TGESの小西康弘社長と、カルビーの江原信社長が対談しました。
2人の会話から浮かび上がったのは、この取り組みがカルビー創業の精神である「未利用資源の有効活用」につながること。そして、地球環境に配慮した事業活動を行うために複数の企業が手を取り合うことの大切さでした。
まずこの前編では、2人が考える清原スマエネ事業の意義や、その活動に見るカルビー創業の精神に触れていきます。
この取り組みで、工場の業務改善の努力をし続けてきた人たちに光が当たった
小西:今回の取り組みで、非常にうれしかったことがあります。カルビーさんをはじめ、実際に工場の省エネや業務改善に取り組まれている社員の方々に、この事業の成果を大変喜んでいただけたことです。
工場は、いわゆる「省エネ法」により、毎年1%のエネルギー消費効率改善を目指さなければなりません。しかし、これが本当に難しいことで、昔から徹底的なコストダウンや業務改善を表現する際に「乾いた雑巾をなお絞る」という言葉が使われますが、工場の方に話を聞くと、毎年1%の改善を達成するのは、本当に乾いた雑巾を必死に絞る作業のようだとおっしゃっていました。そしてまた、そういった現場の苦労は、なかなか他部門の方に伝わる機会もない、と。
その中で、清原スマエネ事業により20%近い省エネが達成でき、さまざまな賞もいただきました。このことを工場の改善に取り組む方々がとても喜んでいらっしゃったのです。私たちはエネルギーに関わる会社として、そのお手伝いができたことをとてもうれしく思っています。
江原:食品メーカーという立場ゆえ、私たち経営者や社内外の視線は、どうしても販売成績や原材料の供給といった項目に偏りやすくなります。しかし、省エネや脱炭素に向き合っている工場の努力は素晴らしいものであり、もっと目を向けなければなりません。
その意味で、清原の取り組みは広く注目され、他の企業の方からもよく質問をいただきます。工場の改善に取り組む社員たちに光が当たり、本当に良かったと心から思います。
非常時には地域への電力供給も。「清原スマエネ事業」2つの大きな意義
後藤:改めて、お二人は清原スマエネ事業の意義をどう捉えていらっしゃいますか。
江原:まず大きいのは、個社では難しいレベルの大幅な省エネを実現できることです。脱炭素社会を目指す上では、当然ながら省エネが重要であり、清原ではそれを個社で行うのではなく、「共創」の形をとって面的に行っています。
小西: 私たちTGESは、それらの共創や連携を支えるコーディネーターの役割を担ってきました。約50年にわたり、地域冷暖房事業を担ってきたノウハウを活かすことができたと感じています。
この事業で大切にしているのは、徹底的にエネルギーを有効活用することです。たとえば清原では、工業団地の近傍に設置した発電設備を持つエネルギーセンターから電気を供給していますが、その多くが都市ガスによる発電です。 通常、遠方にある大型火力発電所から電力を供給する場合、廃熱の利用が難しく、また送電時にどうしても電力のロスが生まれますが、都市ガスは運ぶ際のロスがありません。さらに、工場付近で発電することにより、発電時に発生する廃熱を蒸気や温水といったエネルギーとして有効利用できる仕組み(コージェネレーションシステム)となっているのです。
江原:もうひとつ、この事業の大きな意義がレジリエンスです。いまお話ししたエネルギーセンターの発電設備により、災害などの停電時にも電力供給が可能な設計で作られました。もともと、清原スマエネ事業が始まったきっかけは、東日本大震災によって清原工業団地で長時間の停電が発生したことです。今回、事業所の安定操業と強靭なエネルギー基盤を構築できたことはとても意義深いと捉えています。
小西:長期停電時にも電力と熱を作り出すことができるため、将来的には地域にも役立てたいと考えています。少し専門的な話ですが、都市ガス供給では、阪神淡路大震災や東日本大震災でも強さを見せた「中圧ガス導管」を使っており、エネルギーセンターにも高度な耐震設計を適用しました。日本ではすでに、コージェネレーションシステムによって災害時に地域住民へ電力が供給された事例が多く、清原スマエネ事業も同様の地域貢献ができればと考えています。
カルビー創業の精神は、エネルギー活用にもつながっている
後藤:清原スマエネ事業は2019年に稼働を開始し、3年半が経過しました。その間にも、エリア内では省エネ化に向けたアップデートが行われていますよね。どのようなことをしてきたのか、具体的に伺ってもよろしいでしょうか?
江原:より一層エネルギーの有効活用を進めるために、カルビーではいろいろな取り組みを行ってきました。一例を挙げると、食品加工では高温の蒸気を使うのですが、これまで食品に直接触れる蒸気は都市ガス焚きの専用ボイラで製造していました。それを、発電時の廃熱を使って食品加工用の蒸気を製造できる設備(リボイラ)を導入することで、CO2削減に取り組んでいます。
また、製造過程で生まれるバイオガスを使った発電にも取り組んでいます。新宇都宮工場では、排水処理工程で発生するメタンガスを活用して、排水処理工程の電力をすべてまかなっています。いわば“自家発電”ですね。バイオガスは再生可能エネルギーとして利用することが可能であり、CO2削減効果も期待されています。
後藤:こういった「さらなる省エネ化のアイデア」は、どのように生まれているのでしょうか。
小西:カルビーさんとTGES、両社の社員が話し合いを重ねながら考えてきました。私たちはエネルギーの会社ですから、カルビーさんの生産プロセスの奥の奥まで知り尽くしているわけではありません。そのプロセスを細かくご説明いただき、私たちのノウハウもお伝えする中で、こういったアップデートにつながってきました。文字通り共創させていただいていると思いますね。
江原:逆に私たちはエネルギーに関する知見がないので、TGESさんの経験や技術をもとに、いろいろな提案をしていただけてうれしいですね。
小西:もちろん私たちからアイデアを出すこともありますが、現場の話を聞くと、むしろカルビーの社員の方から最初の提案をいただくことが多いようです。未利用のばれいしょを発電に使えないか、発電で生まれた温水をこの工程に利用できないか、など。カルビーさんの「エネルギーを余らせず、有効活用するための知恵」がもとになり、私たちも新しいことに挑戦するチャンスをいただいているのかもしれません。
江原:それは本当にうれしいお言葉です。カルビーが創業から大切にしてきた精神は「未利用資源の有効活用」であり、最初のヒット商品である「かっぱえびせん」も、創業者の松尾孝さんが、瀬戸内海で干されていた小エビに着想を得たものでした。当時の瀬戸内の小エビは産地で消費される程度で、広く市場に出回っていなかったのです。以来、私たちは限られた資源を余すことなく活用する姿勢を大切にしてきました。
それは食品の原料だけでなく、電気や熱といったエネルギーにも共通することです。エネルギーという資源を無駄なく使い切る、そのための創意工夫をする。社員から出てくる省エネ化のアイデアには、カルビーのDNAである創業の精神が通じているのだと思います。
対談の模様は、前後編の2回に分けてお届けします。
後編では、企業が手を取り合い省エネや脱炭素社会を目指す大切さ、そして、カルビーとTGESの新たな取り組みについてもお伝えします。
▼後編はこちら
編集:深谷 真理奈
文:有井 太郎(外部)
写真:稲垣 純也(外部)