【対談】ドキドキをつくるこだわりとは!?カルビーとロッテの「おまけ付きお菓子」のスペシャリストが語る“マイルール”
異なる企業の2人が、その“枠”をこえて語り合ったとき、いったい何が見えてくるのでしょうか。
そんな思いから今回対談したのは、ともに歴史ある「おまけ付きお菓子」を担当する2人です。
カルビーで「プロ野球チップス」を担当するマーケティング本部の三井剛さん。そして対談相手は、株式会社ロッテで「ビックリマンチョコ」を担当するロッテ マーケティング本部の本原正明さんです。
2人とも、それぞれの商品を10年以上担当する「おまけ付きお菓子」のスペシャリスト。まさに“ミスタープロ野球チップス”と“ミスタービックリマンチョコ”です。
対談の舞台は、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアム。球場で「おまけ付きお菓子」をテーマに会話の“キャッチボール”をするという、ワクワクする企画が実現しました。2人には「商品へのマイルール」など、いくつかの話題を投げかけ自由に話してもらう形に。すると、商品の“価値づくり”や“先を読む大切さ”など、2人の仕事の共通項が見えてきました。
三井 剛(みついたけし) 写真右
カルビー株式会社 マーケティング本部 ポテトチップスチーム
本原 正明(ほんばら まさあき)
株式会社ロッテ マーケティング本部 マーケティング戦略部 新ブランド開発課
カルビーの「プロ野球チップス」
ロッテの「ビックリマンチョコ」
カルビーとロッテのコラボ舞台裏。カギは元千葉ロッテマリーンズ・里崎さん?
―お二人とも「おまけ付きお菓子」を長く担当していますが、それぞれ担当してからどれくらい経つのでしょうか?
三井:私は「プロ野球チップス」を担当して14年目になりますね。
本原:僕は「ビックリマンチョコ」の担当になって、10年目です。
―そんなお二人に今日はいろいろ聞きたいのですが、まずは2019年に行われた「ビックリマンチョコ」と「プロ野球チップス」のコラボ企画「ビックリマンプロ野球チョコ」について教えてください。これはどんな経緯で生まれたのですか?
本原:この企画は、僕からお話しをして生まれました。4月1日の「ビックリマンの日」に何かできないかを考えていたときに、「プロ野球チップス」が浮かんで。ちょうどカルビーさんに知り合いの方がいたので、コラボできないか相談してみたら「それなら『プロ野球チップス』の担当者につなぐよ」と言っていただいて。
「プロ野球チップス」はブランドとして確立されているので、面白くなると思ったんです。しかも、里崎さんがビックリマンの名誉大使を務めていたので、野球とつなぐことに違和感がなかった。きっと相性が良いだろうなと。これまで「ビックリマンチョコ」もいろいろなコラボをしてきているので、同じようにカルビーさんにも相談してみました。
三井:その流れで、本原さんとお知り合いになりました。ただ実はその1年ほど前に、企業のマーケティング担当者が集まるイベントで、本原さんの講演を聞いたことがあったんですよね。
本原:それは知りませんでした(笑)。お会いしてからはスムーズに話が進んで、コラボ企画もすんなり決まりましたよね。2019年はZOZOマリンスタジアムでの球場配布だけでしたが、実は当時から商品化もできればと思っていました。
―すんなりとコラボが決まったんですね。
三井:そうですね。「ビックリマンチョコ」のファンの方が「プロ野球チップス」を知っていただく良い機会だと思いましたし、コラボ自体も、とてもうまくいった事例だと思います。
昔は、「プロ野球チップス」のカードにロッテさんの選手がいない時期もあったんです。私が担当する前の話ですが。そもそも、商品を発売し始めたときは読売巨人軍の選手がほとんどでしたし、その後も、ロッテさんは同じ食品会社ということで遠慮していたのかもしれません。ただ、1985年ごろから入るようになり、現在は12球団均等にカード化しています。
ドキドキを生むのは“落差”。その落差が生まれる仕掛けとは
―歴史の長い「おまけ付きお菓子」を担当する中で、それぞれの「おまけに対するこだわり」はありますか?
三井:「プロ野球チップス」でこだわっているのは、すべてのカードが誰かにとっての当たりになることですね。この商品でお客さまが一番うれしい瞬間っていつだろうと考えると、袋を開けるときなんです。どんなカードが出るのか、まるでおみくじを引くような。
そして、出てきたカードに対する喜びは、お客さまがどの選手・球団のファンなのかによって変わります。つまり、それぞれの当たり・外れがあるんです。だからこそ、すべてのカードが誰かにとっての当たりになればと。
本原:「ビックリマン」の原点やコンセプトは、商品によって人をびっくりさせる、ドキドキさせることです。だからこそ、シールが出たときの驚きをつねにアップデートさせていきたいと思っています。
たとえば、「ワンピースマンチョコRED」(2022年8月16日発売。映画「ONE PIECE FILM RED(ワンピースフィルムレッド)」とコラボ)では、シール裏の二次元コードを読み取ると、主要キャラのスペシャルボイスが流れる仕掛けにしました。これも“驚きのアップデート”の1つです。
三井さんが「おみくじを引くような」と表現していましたが、僕もよく同じ言い方をしているんですよね。ただ、1つ違うと思ったのは、「ビックリマンチョコ」の場合、すべてが当たりになるというよりは、ドキドキは落差から生まれるので、当たり外れによってその落差を作ろうと。
三井:おもしろいですね。「プロ野球チップス」の場合、そのチームや選手のファンには当たりのカードになるし、たとえばライバルチームのファンには外れになることも。なので、人によって自然と当たり・外れができるんです。
本原:同じ選手のカードでも、受け取る人によってドキドキが変わるということですよね。
完全試合により、佐々木 朗希投手のカードを急いで差し替え
―逆に、おまけを作る上で「これだけはやらない」「これだけは無くさない」などの“マイルール”はありますか?
三井:「プロ野球チップス」については、選手をリスペクトしているので、裏面のプロフィールは選手にとってプラスになるような内容で書いています。ただ、悩ましい場面もあります。カード化する選手を選定して、写真も決めて、発売に近づいたときに、その選手がケガをしてしまうこともある。そのときのプロフィール文をどうやってプラスの内容にするか、悩みますね。
本原:どんな文章にするんですか?
三井:たとえば、その選手はもともとこれだけの素晴らしい成績を残していて、いまはケガで療養中だが復帰が待たれる、など。そういう形が多いですね。
本原:前から思っていたのですが、「プロ野球チップス」はカード化する選手を選ぶのが本当に大変そうですよね。数ヶ月先の選手の活躍を予想するんですから。僕らもおまけのシールを作るにはかなり前から動き出しますが、その時点で先を読むのは大変だなと。
三井:選手選びはすごく難しいですね。「プロ野球チップス」のカードは、例年、3月に第1弾、6月に第2弾、9月に第3弾が出ます。そのなかで第1弾と第3弾の選手ラインアップを決めるのは、それほど難しくないんです。第1弾は昨年の成績をベースに選びますし、第3弾は前半戦の成績を参考にするので、自分で予測する部分が少ない。
ただ、第2弾は大変で。6月発売となると、シーズン開幕から1週間ほどのタイミングで選手を決めないと間に合いません。その年の新人選手もなるべく入れたいのですが、4月時点で2ヶ月先に活躍している新人選手を見極めるのは本当に難しいんですよね。
本原:2022年の第2弾カードには、千葉ロッテマリーンズの松川虎生捕手が入っていましたよね。それもすごいですよね、1年目でいきなり活躍している選手が選ばれているんですから。
―新人で活躍しているところでいうと、巨人の大勢投手も第2弾に入っていますね。
三井:このチョイスは自分でもよく当てることができたなと思います(笑)。これはチェックリストカードという、各チームから話題となった出来事や選手を選ぶ枠なのですが、巨人では「彼がすごいな」と。きっと活躍し続けると信じて、入れてみました。
それと、せっかくZOZOマリンスタジアムに来たのでお話しをすると、2022年の第2弾カードでは、佐々木朗希投手の完全試合の写真が採用されているのですが、実はその試合、私はこの球場で見ていたんです(笑)。
4月10日の試合でしたが、この時点では、佐々木投手のカードに使う写真も文章も確定していて。ただ、完全試合を達成したとなると、何とかこの試合の写真を使いたいと。すぐに製作側に連絡して、写真の差し替えと、裏のプロフィール文に完全試合を盛り込みました。6月発売なので、かなり急ぎだったんですが、なんとか間に合いましたね。
本原:そんなことがあったんですね。僕も同業なのでわかりますが、そのスケジュールで差し替えるのは本当に大変だったと思います。
コラボ商品を、あえて映画公開後しばらくして出す理由は?
―本原さんは、「ビックリマンチョコ」を作る上でマイルールはありますか?
本原:「ビックリマンチョコ」は、僕が担当になってからさまざまなコンテンツとコラボしているのですが、必ず行っているのは「自分自身でそのコンテンツが良いかどうか」を見極めることです。たとえば、先ほどの「ワンピースマンチョコRED」は、映画とのコラボ商品ですが、この場合も、映画がどれほどヒットするかを自分で予測してコラボを決めているんです。
マーケティングの仕事をしていると、たとえば代理店さんからチョコ商品化コラボのお話を提案していただくこともあるのですが、より自分で企画を面白くするために代理店さんを使わずに磨き上げるのが私のビックリマンチョコを作るときの大切にしている流儀なんですね。担当になって最初にしたもの以外はすべて自分でコラボ先を選んで全て自ら交渉しています。
三井:「ビックリマンチョコ」はいろいろなコラボをしていますが、その相手が絶妙だと思っていたんですよね。流行したコンテンツをうまく商品化していて。ただ、コラボ企画はかなり早くから動かないといけないですよね。
本原:そうですね。コラボ自体は1年前くらいから動くことも多いですね。たとえば直近の「ワンピースマンチョコRED」では、ストーリーのカギになる人物の話をきちんと映画化すると分かった時点で、これは気合の入った作品になるだろうなと。そのときにコラボを考えましたね。
―その意味では、お互い「先を読む」という共通点があるかもしれませんね。先を読む対象が「選手の活躍」なのか、コラボ先となる「コンテンツのヒット」なのかという違いはありつつ。
本原:もう1つ、映画コラボで意識しているのは、商品発売のタイミングをあえて映画の公開後、しばらく経ってからにすることです。「ワンピースマンチョコRED」なら公開の約2週間後ですね。
なぜなら、映画公開前はプロモーションで他社もさまざまなコラボを行うので、どうしても埋もれやすい。それを避けるのもありますし、さらに映画がヒットすれば、最初からの作品のコアファンだけでなく、ヒットの評判を聞いて後から映画を見たユーザーも対象になり、より多くの人が対象に入ってくるんです。ただ、これは映画自体がヒットしなければ全然変わってしまうので、コンテンツ選びは本当に重要です。なので、独自の情報網で様々なトレンド情報を精査した上で判断するようにしています。
三井:確かに公開後というのは特徴的ですよね。映画って公開前1週間くらいで1番宣伝をかけるので、そこに乗っかれば一定の成果は出ると思うのですが、それをあえて避けると。
本原:もうひとつ、コラボで印象に残っているのは、UUUM 所属の動画クリエイターとコラボした「Bチューバーマンチョコ」ですね。それなりに冒険したコラボだったんですが、売上は伸びました。
これも自分の中には想定があって、このコラボでは19組の動画クリエイターが登場するのですが、そのフォロワー数を合計すると“億”を超えるんですよね。単純にそれだけのフォロワーがターゲットになると考えれば、かなりの確率で売上は立つと。
コラボの中には、その作品に熱狂的なファンがいて、1人のファンが何枚もシールを集めることを期待する、いわば「深さ」や「奥行き」を軸にするものもあれば、かたや1人2、3枚しか買わなくても、ファンの総数の多さで勝負する、「間口の広さ」を期待するものもあります。
もちろんお菓子にもこだわり。小さな頃のおいしいが未来につながる
―ここまでは“おまけ”の話を伺いましたが、商品のお菓子そのものに対してのこだわりはありますか。
三井:「プロ野球チップス」で現在使っているのは、基本的に「ポテトチップス うすしお味」です。カルビーのこだわりが詰まった味で、カードを楽しむだけでなく、あくまで中身もおいしいと感じてほしいなと。そうすると、小さな子お子さまがたとえ最初はカード欲しさに「プロ野球チップス」を買ったとしても、そのときに食べた味を思い出して、大人になってもカルビーのポテトチップスを食べようと思ってもらえるかもしれないですから。
本原:量もちょうどいいですよね。
三井:そのほか、味をうすしお味にしているのは、アレルギー物質が入っていないことも大きいですね。やはりお子さまが食べる機会が多いので。
本原:私たちもお菓子にはこだわっていますね。いまちょうどアレルギーの話がありましたが、「ビックリマンチョコ」は昔ピーナッツが入っていてそのイメージが強いんです。ただ、これもナッツアレルギーなどの対策から、2010年以降はビスケットクランチに変えています。お子さまから大人まで楽しんでいただけることが大切なので、時代に応じて工夫しています。
―いろいろなお話をありがとうございます。2人のこだわりや考えがいろいろわかりました。最後に、これからの商品の展望や夢はありますか。
本原:10年前に担当になったとき、「ビックリマンチョコ」はファンの熱量の高い商品だけれど、ある意味で過去のブランドとして見られつつありました。そこで1つ決めたのが、「ビックリマンチョコ」を「いまの時代を生き抜けるブランド」にしたいということ。人をびっくりさせるというコンセプトを大切にしながら、いまを生きるブランドにアップデートしようと心に誓って、挑戦し続けてきました。
それからいろいろなコラボを始めて、最初はコラボ先もまったく見つからず、苦労したんです。当時はビックリマンの人気もなかったので、誰からも相手にして頂けずに何度も断られたりしましたね(笑)。でも、人の縁に助けていただき、ここまで来ることができました。なので、これからも同じ思いでびっくりをアップデートしながら、「いまのブランド」として展開していきたいですね。そして人の縁を大切に感謝の気持ちを持って行動し続けていきたいです。
三井:「プロ野球チップス」は今年発売50年目で、そのうち13年を私が担当してきました。今後も歴史を重ねていきたいですし、100年続くような商品になってほしいですね。
コンセプトはこれからも変わらず、みんなが覚えている瞬間、印象的なシーンをカードにしていきたいですね。それは決して試合中の選手だけではないかもしれません。たとえば、盛り上がった始球式の瞬間をカードにしても面白いでしょうし。前にも一度やろうとしたことがありましたね。
そんな風に、人々の心に残るシーンをこれからもカードにしていけたらと思います。
文:有井太郎(外部)
編集・写真:櫛引亮
※「水墨ビックリマンチョコ」「2022プロ野球チップス」の販売は現在終了しています。
ロッテのWEBマガジン「Shall we Lotte」でも別切り口の対談記事を公開中!ぜひ、ご覧ください。
記事のURL:https://www.lotte.co.jp/entertainment/shallwelotte/interview/tsukuru/calbee-proyakyu-bikkuri-man/