「じゃがりこ」から生まれたホットスナック?!ファンを増やす「ポテりこ」誕生の裏にあった狙い
「ポテりこ」という商品をご存知でしょうか。
言うなれば「じゃがりこ」から生まれたホットスナック。カルビーのアンテナショップ「カルビープラス」などで提供しています。「じゃがりこ」とは違った食感、揚げたてホクホクでじゃがいものおいしさが味わえるのが特徴です。
この商品が生まれたのは、15年以上前のこと。これまでにコンビニエンスストアや飲食チェーンPRONTO(プロント)のバータイムなどで販売したほか、冷凍食品の売り場に並んだこともあります。カルビーにとって、珍しい領域での展開でした。
なぜこのような商品が生まれたのでしょうか。生みの親である柳井秀政さんの話をもとに、開発の足どりを振り返ります。
揚げたての「ポテりこ」は温かく、サクッとホクホク
全体の雰囲気は「じゃがりこ」に近いけれど、食べてみると揚げたての温かさがあり、食感もまた独特−−。それが「ポテりこ」です。
「『じゃがりこ』は食べ始めがカリッと、あとからサクサクという食感ですが、こちらは最初がサクッと、あとはホクホクなんですよね」。こう説明するのは、「ポテりこ」のアイデアを生み、開発を担当した柳井さん。「じゃがいものおいしさをしっかりと味わえるのが特徴です」と付け加えます。
カルビープラスでは現在、さまざまな揚げたて商品が提供されていますが、その中で圧倒的No.1の人気を集めているのが「ポテりこ」。2022年に「ポテりこ」購入者(415名)に実施したアンケート調査では、おいしさ評価(5段階)において“非常においしい”と回答した方が実に8割以上と、非常に高い評価もいただいています。リピーターの方も多い、カルビープラスにはなくてはならない商品です。基本的には「じゃがりこ」と同じ方法で調理し、最後に揚げたてをよりおいしく味わっていただくための工夫を施して提供しています。
東京駅店限定で「BIGポテりこ」も登場しており、「ポテりこ」よりも太くて長いBIGサイズで、オニオンの効いた味わいを楽しめます。
この商品の人気ぶりについて、柳井さんは「本当にうれしいですよね」と、感慨深く頷きます。
「『ポテりこ』以外にも、いろいろと試作したことを覚えています。できたときは、自分の中で『これだ』と思いました。いまもこうやって皆さんが食べにきてくれて、それを見ていると心から良かったと思います」
「ポテりこ」の開発が始まったのは、2006年秋のこと。カルビーにとって当時珍しい商品ジャンルをなぜ、開発することになったのでしょうか。
ここからは、その歩みを柳井さんに聞いていきたいと思います。
スープ開発に始まり、次に目をつけたのはコンビニエンスストアのある場所
2006年当時、柳井さんは、既に約10年にわたって「じゃがりこ」に携わっていました。発売から順調にファンを増やしていきましたが、「一定の目標を達成しつつも、このまま同じことを続けていては、さらなる成長はない」と感じていました。
そこで考えたのは、お客さまと「じゃがりこ」の接点を増やすこと。たとえば、お菓子売り場以外のさまざまな場所で「じゃがりこ」と出会う状況を作る。すると、それがトリガーになり、よりお客さまに身近なブランドになる。
「いわば『じゃがりこ』を援護射撃するような商品を、お菓子以外のジャンルで作ろうと思ったんです。実際に文房具やおもちゃなど、文具メーカーやおもちゃメーカーさんとのコラボ商品をいろいろ出していただきましたね」
食品においてもこれまでとは違うジャンルの商品開発に着手します。最初に開発したのは「じゃがりこ」のエスプーマスープ(泡状のスープ)。外部企業と作りましたが、なかなか結果が出なかったといいます。
次に柳井さんが目をつけたのは、人気が出始めていたコンビニエンスストアのホットスナック売り場でした。
「ほとんどのホットスナック売り場は“レジ横”にありますから、お会計をする方がふと見たときに『じゃがりこ』を想起したり、1つ買っていこうと思う商品があったらと考えました。そこで、できたての『じゃがりこ』をここに置いてみようと思ったんです」
このアイデアがもとになり「ポテりこ」が生まれました。「じゃがりこ」の仕上げ工程である「フライ調理」をコンビニエンスストアの店舗で行い、揚げたての「じゃがりこ」をホットスナックとして売り出すアイデアです。
さっそく各社へ提案に出向いた柳井さんは、当時キャリーバッグに調理器具を入れ、その場でフライ調理したものを試食してもらったといいます。努力は実り、一部のコンビニエンスストアで「ポテりこ」のテスト販売が始まりました。2007年のことです。
「ポテりこ」は冷凍食品。物流から自分たちで作っていった
「ポテりこ」は工場から冷凍した状態で出荷され、現場でフライ調理が行われます。それまでカルビーで冷凍食品の販売の経験はほとんどなく、適した製造ラインもありませんでした。新たな専用ラインを栃木県宇都宮市のR&Dセンターに設け、泊まり込みで環境を整えたといいます。
「商品をお店に配送する際も、冷凍食品用の物流網を持っていなかったので、最初の頃は毎回自分たちで物流業者を手配していましたね」
こうして「ポテりこ」のテスト販売が始まりましたが、まもなくしてある課題が……。揚げた商品をショーケースに入れて時間が経つと、容器内の湿度によって食感が変わってしまうことが判明。
「実際に食べてみると、ふにゃっとして本来のおいしさが失われていました。この商品は、揚げたてで食べられる環境で提供しなければいけないと再確認しましたね」
テスト販売でこういった気づきを得られた後、柳井さんは再度さまざまな企業に赴き、揚げたてで提供できる形を模索。すると、飲食チェーンプロントのバータイムでメニュー採用が決定しました。揚げたてを提供するスタイルです。
2008年に提供を開始すると、お酒との相性もよく、お客さまからも好評。「ポテりこ」の入ったセットメニューが注文数1位になったこともありました。
「ようやく製造から物流、提供まで一連の型が確立できたので、もっと『ポテりこ』を広げていこうと、さまざまな場所でテスト販売を展開していきました。高速道路のサービスエリア・パーキングエリアやショッピングセンター、映画館、高校内の食堂にも置いていただきました」
これだけに留まらず、冷凍食品としてそのまま商品化もしました。お客さまが自宅で調理して食べられるようにしたのです。
「じゃがりこ」との接点を増やしたいという開発当初の思いが徐々に実現していきました。
3.11で大きな危機。乗り越えられたのは「意外な展開」のおかげ
2010年には、とあるコンビニエンスストアから「ポテりこ」を店舗で取り扱いたいという話が。それも今回は、お客さまがオーダーしたのちに調理する、つまり揚げたてを提供できるとのこと。滑り出しは順調で、2011年には取扱店舗を増やすことになりました。
しかし、その矢先に大きな出来事が起こります。東日本大震災です。R&Dセンターも被災し、「ポテりこ」製造ラインは壊滅的な状況に。
「他の製造ラインも損壊がひどかったため、『ポテりこ』のラインより、ほかの修復を優先すべきと会社は判断しました。残念ですが仕方ありません。しかし、社内からは『せっかくここまできた商品なのだから、なんとか復活させよう』と応援いただいたんです」
もう1つ、復活を後押しする話がありました。この頃、カルビーではアンテナショップ事業を立ち上げる計画が持ち上がっていました。カルビープラスです。当時、原宿に1号店を出すにあたり、目玉メニューとして「ポテりこ」を提供したいという話があがりました。
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「本当にありがたいことですよね。この商品はいろいろな人の助けがあってここまできたと思います。もともとカルビーにとって未知の商品ジャンルでしたし、紆余曲折ありながらも、力を貸していただいた人がたくさんいました」
柳井さんはここで一度カルビーを離れることになり、「ポテりこ」も別の社員に引き継ぎました。その後も商品が愛され続けていることは、冒頭に記した通り。カルビープラスの看板商品になったほか、2021年からは「ポテりこカー」というキッチンカーまで登場。現在もさまざまな場所に出店し、揚げたての味を届けています。
「私の手を離れた後も、いろんな人が『ポテりこ』を広げ続けてくれて感謝しています。まさかキッチンカーになるとは思ってもいませんでしたから」
ふたたびカルビーに戻った柳井さんは、現在、別の事業を担当していますが、「ポテりこ」を絶えず気にかけてきました。いまの人気ぶりを心からうれしく思っているようです。
「子どもたちに愛される食品を作るカルビーは、夢のある会社じゃないといけないと思っています。みんなが楽しく働き、自分の作りたい商品にチャレンジできるのが夢のある会社だとすれば、『ポテりこ』はそうやって生まれたもの。だからこそ、この商品がさらに広まり、長く愛されてほしいですね」
一つのアイデアから始まった「ポテりこ」の開発。たくさんの挫折も経験しましたし、大変な時期は「体重が大幅に減りました」と柳井さんは笑います。それでも、揚げたての「じゃがりこ」への情熱で乗り越えました。
機会があったら、ぜひその味を楽しんでいただければと思います。それが、「ポテりこ」に携わった者にとっての最大の喜びです。
写真・編集:町田 有希
文:有井 太郎(外部ライター)