【特別対談Vol.3】Calbee×不二製油 地球の未来のために、食品メーカーがすべきこと
地球環境を考える上で、食品メーカーの役割はおいしい製品を届けるだけではありません。食品の原料調達の段階から、適切なものを使うことが求められているのです。
そういった取り組みをいち早く行ってきたのが、植物性油脂や大豆加工素材などの食品素材を手掛ける不二製油グループです。たとえばいま、世界中で使われる「パーム油」は、農園開発による森林破壊や強制労働などの問題が指摘されてきました。その中で、不二製油グループは他社に先駆けて、パーム油のサステナブル調達に注力しました。
カルビーでも、パーム油をはじめ「責任ある原料調達」への取り組みを進めています。そこで今回、不二製油株式会社の大森達司代表取締役社長と、カルビーの伊藤秀二社長が対談。食品に携わる企業が目指すべきサステナブル経営を考えます。
原料調達の大切さ。食が「社会価値」を壊しては意味がない
後藤:私たち食に携わる企業は、最終製品だけでなく、原料調達の面からもサステナビリティを踏まえることが必要になっています。不二製油さんは早くからサステナビリティの観点をもって事業を展開されてこられましたが、改めてその重要性をどう感じていらっしゃいますか?
大森:不二製油は、「課題解決型の製品」を開発しようと努力してきました。たとえば、高齢者の健康という課題を解決するために植物性油脂(多価不飽和脂肪酸)の開発があり、健康のために良質なタンパク質が必要という考えから、大豆タンパクを活かした大豆加工素材を作るなど、生活者の課題に向き合い続けてきたのです。
しかし、その製品を作るための原料調達において、環境破壊や人権侵害の問題が起きているケースがあります。そのため、生活者の課題だけでなく、原料の課題、もっといえばサプライチェーン全体の課題にも同じレベルで目を向けなければいけないと強く感じるようになりました。
後藤:パーム油は、加工のしやすさや単位面積あたりの収穫量の大きさから、現在さまざまな製品に幅広く使われる一方で、乱開発による森林破壊や強制労働などの問題も指摘されています。
不二製油さんは、2016年に示された「責任あるパーム油調達方針」の中で、パーム油のサステナブル調達の方針やロードマップを細かく出されてきました。衛星写真による森林破壊防止のモニタリングといったこともされていますよね。
大森:パーム油がだめなら使わなければいいという単純な問題ではありません。収穫量や加工にすぐれたパーム油がなくなれば、地球全体の油脂の需要をまかなえなくなる可能性もあります。また、パーム油はアブラヤシの果実から取れますが、これらを植生する東南アジアにとっては重要な産業でもあるのです。地球にも地域にも必要なものであり、だからこそ、やめるのではなく適正に収穫することが本当の意味で持続可能な形だと思うのです。
後藤:カルビーとしても、パーム油をはじめ原料のサステナブル調達に力を入れています。伊藤さんはこの点についてどう考えておられますか?
伊藤:私たちも長い間、自然や農業との関係を考えてきました。その中で、食品メーカーとして大切なのは「正しい循環」をつくることです。これまで、我々を含め、企業や生活者が利便性やおいしさを求めた結果、環境破壊などが起きてしまいました。これからは原料が作られる段階から、それを加工しお客様にお届けするまで、さらには食べた後のごみを回収するところまで、正しい形を思い浮かべて事業をしないと持続可能な世界にはなりません。
企業はどうしても経済価値を求めてしまいますが、その結果、社会価値を壊しては意味がないのです。二つの価値を両立させる過程で正しい循環が生まれていきます。
ポイントは「消費者の理解」。付加価値をどう伝えるか
後藤:責任ある原料調達をしていくためには、消費者の方に、正しく原料調達された製品を選んでいただかなくてはなりません。正しく理解していただくためには、どんなことが必要でしょうか。
大森:そこは非常に重要で、原料の問題というのは消費者の方に伝わりにくい面があります。たとえばパーム油でいうと、これほどたくさんの製品に使われているのに、認知度は低い。日本にいるとパーム油の“顔”は見えないですよね。
その中で原料調達の重要性をどう伝えるか。一例として、不二製油では子どもたちにその大切さを伝える「食育授業」に取り組んでいます。パーム油に関しては「パームおかん」というキャラクターを立てたビデオを制作して、親しみやすい形で展開しています。ただし、森林破壊や強制労働といったネガティブな情報もきちんと伝え、その問題をどう解決していくか説明しています。
とはいえ、私たちは原料加工のメーカーであり、消費者と直接の接点を持つ企業ではありません。今後は、その接点作りにも力を入れていきたいと思います。
伊藤:その意味では、私たちカルビーのような企業が最終製品を通じて、原料調達の適正さやその付加価値を分かりやすく示すことが必要です。たとえば、9月からカルビーでスタートするRSPO認証パーム油のマーク表示(※)はその一例です。
仮に「コストが上がるから」と、こういった原料調達の問題から目を背ければ、その企業は世界から取り残されるでしょう。コストが上がるなら、他の無駄を排除して、価格を調整するのが私たち企業の役目です。そして、消費者の皆さんにもご理解いただけるよう、説明を尽くしていくことが大切です。
不二製油とカルビー、両社は「真逆」のアプローチだった
後藤:不二製油さんもカルビーも「食を通じて課題解決を図る」という点で共通していると思います。その視点での思いや、現在取り組まれていることについても聞かせてください。
大森:これまでの不二製油は、先ほど申したように、最終製品ではなく原料加工の分野で事業をしてきました。特に私たちが扱う素材は、もとの原料(農産物)から何かを“抜いて”製品化することがほとんどです。パーム油なら色や香りを抜く、大豆タンパクなら大豆特有の風味やクセを抜くなど。カルビーさんのような、素材を丸ごと使い、その個性を活かしながら最終製品を作る会社とは“真逆”のアプローチだったのです。現在、不二製油はそれらの植物性原料と技術を組み合わせて、植物性の素材や食品の開発を進めています。それが世の中の食糧や環境の課題解決にも貢献できると考えているからです。今年7月には植物由来のプラントベースフードにこだわった「GOODNOON」を打ち出しました。
グループ全社で注力するフラッグシップであり、こだわるのは“おいしさ”です。プラントベースフードに関するアンケート結果を見ると、おいしさが足りないという声は多く聞かれますよね。その課題解決を図ろうと。これからも、おいしさにこだわった製品の開発を進めていきます。
伊藤:プラントベースフードについては、カルビーでも2019年から不二製油さんと共同で「Plant Based Calbee」を立ち上げ、大豆由来の製品を共同開発しました。先日、第1弾を発売したばかりです。
▶「Plant Based Calbee」に関する参考記事
私たちはもちろんおいしさにこだわってきた企業ですし、プラントベースフードでもそれは変わりません。植物性食品というだけではダメで、やはりおいしさがないと日本では普及しないと思っています。
大森:植物性食品を作るといっても、決して動物性食品が悪いということではありません。大切なのは食の選択肢を広げることで、これからの地球のためにはさまざまな選択肢を用意する必要があります。その意味で、おいしい植物性食品を作っていきたいと思います。ぜひこれからもカルビーさんと力を合わせられたらいいですね。
伊藤:先ほど大森社長がおっしゃった“真逆”に見えていた両社の取り組みが、徐々にクロスしてきているわけですよね。不二製油さんの技術とカルビーのおいしさへのこだわりを合わせながら、ぜひうまく共創していけたらと思っています。
これからの企業に必要なのは、需要と供給に目を行き渡らせること
後藤:最後に、両社とも自然と生活者の間に立つ企業だと思います。その中で社会に貢献していくための思いをそれぞれ教えてください。
伊藤:やはり「正しい循環」を作ることが大切で、そのためには製品の需要と供給の両方に責任を持たなければいけないと思います。どの企業も、需要の部分、つまり社会が望むような良い製品を作ることには心血を注ぎます。ただ、原料を調達し、製品を作り届けるまでの過程、いわば供給の面にも目を行き渡らせ、適切な形にしないと、お客様のご期待にも応えられないでしょう。また、環境破壊にもつながっていくと考えています。
だからこそ、需要と供給の両立が大切で、供給への投資も惜しんではいけません。2つの視点を持つことは私たちにとって間違いなく必要だと思います。
大森:不二製油は、植物性素材を通じて課題を解決する課題解決型メーカーです。課題というのは、生活者の課題はもちろん、地球や社会の課題もあります。その課題を先読みし、解決に向けて何ができるかを考えることが大切ですし、そこに経済価値を生みだしていくのが企業の使命です。課題解決型のメーカーとして、地球や社会の課題にこれからも向き合っていきたいですね。
▶不二製油グループのサステナビリティ https://www.fujioilholdings.com/sustainability/
▶カルビーグループのサステナビリティ https://www.calbee.co.jp/sustainability/
文:有井 太郎(外部)
編集:深谷 真理奈
写真:稲垣 純也(外部)