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さつまいも、新時代。キーワードは“冷凍焼きいも”?

秋はさつまいもの季節。この時季になると「さつまいも特集」なるものをよく目にしますが、近年ホクホクとしたイメージの焼き芋に対して“冷凍”といったキーワードがついているのをご存じでしょうか。
どうやらそこには、さつまいもの新しいおいしさがあるようです。
カルビーグループのさつまいも専門会社、カルビーかいつかスイートポテト株式会社 藤枝秀樹さん、金子良幸さんにお話を伺いました。

<写真右>
藤枝 秀樹(ふじえだ ひでき)
惣菜・米飯製造業を経て2004年入社。仕入れ本部。仕入れ、製造全般に従事し現在は仕入れ本部にて後進の育成に携わる。

<写真左>
金子 良幸(かねこ よしゆき)
食品メーカーの製造部門を経て2023年4月入社。製造本部 第二製造部 部長


口コミで広がった冷凍焼き芋

―近年“冷凍焼き芋”をよく目にします。その背景やきっかけなどがあるのでしょうか

藤枝:私が入社した当時は、スーパーに向けた青果さつまいもの卸しが主な事業でした。品種も「紅あずま(ベニアズマ)」を主に扱っていましたね。自然な甘さのホクホクとした食感で皆さんが想像する「さつまいも」です。
開発した店頭焼き芋機の貸出しがヒットし、多くの需要をいただいていました。

工場内、テストキッチンにある焼き芋機。下のオーブンで焼き、石焼きいもをイメージした石の部分に並べ販売する

その後、貝塚みゆき前社長が「べにはるか」という新しい品種に出会い、そのおいしさに惚れ込み『紅天使』というオリジナルブランドのさつまいもを展開し現在にいたります。今までのホクホク食感とは違う、ねっとりとした食感のさつまいもです。

その『紅天使』を使って、焼き芋、干し芋、そして新しいスイーツづくりと試行錯誤していた際、たまたま作りすぎた『紅天使』の焼き芋を捨てるにはもったいないと従業員に試食用で持ち帰ってもらったところ、「冷めていてもしっとりしておいしい、もっと食べたい」と口コミが近隣の方にまで広がっていきました。

『紅天使』をつかった冷凍焼き芋。冷凍庫からだして数分で食べられる(季節や環境により個体差があります)


―お客様のお声を実感する出来事ですね

藤枝:そうですね、だんだん事務の傍らで販売するのもたいへんになって、新事務所に移る際、旧事務所を店舗に改装しました。一時はここに行列ができたんですよ。
焼き芋にすると日持ちがしないので、まとめ買い用には冷凍販売が人気で・・・。当時は県外の方には冷凍焼き芋は珍しかったんじゃないかな。

旧店舗前。2020年に移転した。「蔵出し焼き芋かいつか かすみがうら本店


―日持ちさせるための冷凍がおいしさにもつながっているのですか?

藤枝:実は「紅あずま」を扱っていた頃から冷凍焼き芋ははじめていて、製造ノウハウは持っていました。『紅天使』を主に使うようになって、そのねっとりした食感や熟成技術で糖度を上げることで、冷やした時のおいしさが各段に高まったんだと思いますね。


焼き芋を冷凍したことで見つけた新しい視点

―少しずつ、焼き芋と冷凍の関係がわかってきましたが、実際どう製造しているのですか?

金子:冷凍焼き芋というと、瞬間冷凍のようなイメージを持たれることが多いのですが、冷凍はあくまで流通や販売時の手段で、焼いたさつまいもを冷やすところで焼き芋自体は完成します。
焼いて冷ます、ひと言で表現するとシンプルですが、焼くまでに収穫したさつまいものキュアリング(*)、熟成、製造では焼き方・冷まし方に私たちの独自の技術が詰まっています。

(*)キュアリング:熱処理をすることにより、皮と身の間にコルク層をつくり、腐敗や病気から守る工程)

貯蔵庫の中。膨大な量のコンテナが並ぶ。キュアリング後、一定の温度で貯蔵する


―冷凍する手前、冷ますところで焼き芋商品が完成するのですね

金子:はい、冷ます工程が重要で、焼き芋のおいしさを引き出すポイントです。また冷凍といっても工場内で長期保存するというより、販売需要を見ながらほぼ毎日、冷凍品を製造・出荷しています。現在は冷凍焼き芋と冷蔵焼き芋が半々の割合です。

午後の焼成を待つオーブン
オーブンで焼いた後はゆっくりと冷ましていく


―冷凍焼き芋ならではの味わいがあるように感じますが・・・

金子:冷ますところで完成とはいえ、やはり冷凍ならではの食感があるのは確かですね。お客様からは「半解凍でアイスクリームのように食べている」とお声もいただきますし、実際カルビープラスの店頭では『紅天使 アイスのような焼きいも』として販売しています。
またでんぷんが冷えることで食感の変化があるのだと思います。そのおいしさと自然な甘みで低GI(*)食品としても注目され、甘みのある原料素材として加工品に使っていただくケースもでてきました。

でんぷんは冷えることで食物繊維と同じような機能を持つ「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」に変化するため、消化・吸収が緩やかになり血糖値が急激に上昇するのを防ぐと言われています。
(*)グリセミック・インデックス(glycemic index:GI)は、血糖上昇という消化性炭水化物の生理機能の違いに着目して消化・吸収される炭水化物の質的評価を行うための指標である。[厚生労働省]


ホールフードの代表格、さつまいも

―甘みにさつまいもを使うとは健康的なイメージですね

金子:はい、焼き芋はそれ自体が商品でもありますが、さつまいものおいしさと甘さを引き出した食品素材でもあることを私たちもあらためて再発見しました。
また甘みだけでなく、色合いや栄養面、風味から皮付きのものが求められているのが特徴的です。

―丸ごと食べていただけますね

金子:はい、焼き芋は製造工程が少なく加工度が低い製品です。そのため個体差が大きいさつまいもをどう活かしていくかが課題でした。この食品素材用に皮付きのまま1cm角のダイス状にカットする場合は、逆に細かったり小さいさつまいもが必要です。食品ロスの観点からもうれしい活用方法です。

冷凍焼き芋をダイス状にカットしたもの。冷凍状態でも手に蜜がつくほど

また近年の天候によって規格外のさつまいもも増えています。そのほとんどが形や大きさ、部分的な傷みで、おいしさは変わらない。これまでも部分的につかったり、お菓子の原材料にしたりと工夫していますが、規格外のさつまいもの活用も常に私たちの大きな課題ですね。

さつまいもは大きさごとに分け、それぞれ大きさにあったものに加工していく
皮付きが求められる食品素材には細いさつまいもが向いている


―アップサイクルの商品にも挑戦されているそうですね

金子:焼き芋を製造する過程でパンク(破裂)してしまうことがあります。それを原料素材に他社とコラボレーションしてスナック菓子にしたり、私たち製造本部のメンバーでアイデアをだし、焼き芋から干し芋を作るなど、チャレンジしています。

写真左から、根本 恵(ねもと めぐみ)、加賀美 利可子(かがみ りかこ)、柴田 彩(しばた あや) 、金子 良幸、上原 友幸(うえはら ともゆき)
今秋、期間限定で発売予定の冷凍焼き芋を使った干しいも。(後ろは冷蔵焼き芋 紅小芋)


さつまいもはスーパーフード

―焼き芋、干し芋が幅広い方に受け入れられ、定着しているように思います

藤枝:青果の卸しから『紅天使』ブランドの成長、冷凍焼き芋の躍進と時代とともに変化していく様を見てきました。近年ではそのおいしさから『紅天使』の焼き芋の輸出も始めています。もっと皆さんにおいしいといってもらいたいですね。

金子:さつまいもはご家庭で焼いてももちろんおいしく焼けますが、さつまいもを知り尽くした私たちの焼き芋を一度お試しいただきたいですね。
そのまま間食にもよいですし、健康や体づくりを意識されている方には食材としても活用いただいています。丸ごと食べられるホールフード、そしてスーパーフードになる食品と自負しています。


文・写真:伊藤 奈美子

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!次の記事もお楽しみに