細い「かっぱえびせん」をつくろうから始まった! ブランド初の味替わり商品「フレンチサラダ味」
1964年に誕生し、今年で60周年を迎えた「かっぱえびせん」。
長い歴史の中で、発売から22年経った1986年に一つの転機が訪れました。ブランドにとって初となる“味替わり商品”の登場です。
その商品は「かっぱえびせん フレンチサラダ味」。現在は、毎年初夏に期間限定で発売されています。
「実は、細い『かっぱえびせん』をつくるというコンセプトから誕生しました」
そう話すのは、「かっぱえびせん」の開発に長く携わってきた伊藤政喜さんです。
初の味替わり商品となった「フレンチサラダ味」の誕生秘話に迫ります。
「細さ」をテーマに開発スタート、味の候補は別にあった
「フレンチサラダ味」の開発が始まったのは、1986年春のこと。場所はカルビーの広島工場(現:広島みやじま工場)。翌年に広島工場に所属した伊藤さんに、当時の資料をもとに誕生の様子を教えていただきました。
「当時はまだ定番の塩味のみを展開していました。しかし、生活者の多様化に合わせていこうと考え、通常より細い『かっぱえびせん』をつくるという商品コンセプトでスタートしました。実際に生地を細くすると、サクっとした食感に変わります。定番とはまた違う、あっさりと爽やかな味わいになるのです」
この特徴は現在の「フレンチサラダ味」にも受け継がれており、今も通常より細い生地となっています。また、撰りすぐりのえびを使用して季節の素材を愉しむこだわりの「えび撰」シリーズなどにも、同じく細い生地が活かされています。
こうして開発がスタートしましたが、当初は「フレンチサラダ味」以外のフレーバーが候補に挙がっていたようです。
「最初は、バーベキュー味やコンソメ味を混合したものが提案されていました。前者は『サッポロポテト』、後者は『ポテトチップス』のベースになっているフレーバーです。そのほかにも、さまざまなアイデアが検討されました。青のりを練り込む、カレー味を少し混ぜるといった案もあったようです」
酸味を効かせる発想は、えびの天ぷらから?
「フレンチサラダ味」のアイデアが出てきたのは、開発終盤に差し掛かってから。今まで候補に挙がっていたフレーバーに追加する形で出てきました。その中で、新商品は「酸味」をポイントにすることとなり、ビネガー(酢)の効いた「フレンチサラダ味」に決まったのでした。
もともと「かっぱえびせん」は、カルビーの創業者である松尾孝さんが、小さい頃に好きだった“川えびの天ぷら”に着想を得て生まれた商品です。その天ぷらに柑橘類をしぼってかけるとおいしいことから、酸味を加えた「フレンチサラダ味」のアイデアが出てきたのでした。
加えて、一般的に酸味と塩味がうまく配合されると、お寿司の合わせ酢のように、甘味に近い味わいを感じることがあります。こうしたことも、フレーバーを決める背景にあったようです。
「これらの判断は、孝さんによるものでしょう。私が『かっぱえびせん』のフレーバー開発に長く携わる中で感じたのは、この商品に合うフレーバーは3系統あるということです。具体的には、のり系、わさび系、そして『フレンチサラダ味』のような酸味系です。孝さんは、当時から酸味系がえびの風味に合うと分かっていたのだと思います」
スタートから半年と少し、1986年秋には全国発売へと至りました。こうして「かっぱえびせん」初の味替わり商品が誕生したのです。細い生地を新たに扱うため、各工場で設備の調整も行われました。
期間限定の裏にある「四季を大切にした商品展開」
これ以降、「かっぱえびせん」では、他にも味替わり商品が誕生していきました。「フレンチサラダ味」から4年後の1990年には「青のり」、1994年には「わさび味」、そして1995年には「ほんのり梅味」などが発売されています。
いずれも伊藤さんが開発に携わったものでした。先ほど話に挙がった3系統のフレーバーを実現していったといえます。特に梅のフレーバーは、「フレンチサラダ味」と同じく酸味を重ね合わせたものでした。
現在、「フレンチサラダ味」は毎年5月頃から、初夏限定で発売されています。他にも、季節を決めて期間限定で発売されている「かっぱえびせん」の味替わり商品があります。なぜ季節ごとに味替わり商品を出すようになったのか、その理由を伊藤さんが教えてくれました。
「カルビーの3代目社長を務めた松尾雅彦さんは、季節を大切にする人でした。商品を販売するにも、四季や二十四節季を常に意識していたんです。その中で、『かっぱえびせん』も季節の移ろいに合わせた商品を展開することになりました。こうして、期間限定の商品が生まれたのです」
毎年、初夏の季節が近づくと「フレンチサラダ味」を待ち望む声もよく聞かれます。この商品が季節を感じさせる存在になっているかもしれません。
「かっぱえびせん」は、「絶品かっぱえびせん」シリーズを除くと、通年で販売されている“定番味”は、スタンダードな塩味のみ。長い間、一つの味わいを基本としてきました。
「第二の定番味をつくろうという考えは、常にあったでしょう。もちろん私も、開発者として努力しました。ですが、『かっぱえびせん』の完成度が高く、その味わいの存在感があまりにも大きかったといえます。だからこそ、一つの定番味でここまで来たのでしょう」
「フレンチサラダ味」をはじめ、さまざまなフレーバーを展開しつつも、誕生以来、基本の味わいを大切にしてきた「かっぱえびせん」。2024年で60周年を迎えたこのブランドに対して、伊藤さんもこだわりを持ってきたと口にします。
「『かっぱえびせん』でこだわってきたのは原料です。具体的には、小麦の品質とえびの鮮度ですね。私が若い頃、カルビーの広島工場に来て驚いたのは、当時、製粉メーカーや国の研究機関にしかないような、小麦粉の品質検査を行う機械があり、ロット(1回の生産単位)ごと小麦粉の品質を分析していたことでした。えびも同様で、おいしさの指標であるアミノ酸を測る専門の機器や、鮮度も2種類の方法で、全ロット細かく測定していたのです。この原料へのこだわりが『かっぱえびせん』の原点であり、私もずっと大切にしてきました」
小麦の品質やえびの鮮度を高めることは、最後の“味”につながります。これこそ、生みの親である松尾孝さんの考えであり、「これからも、若い社員の人たちはそのこだわり持って『かっぱえびせん』をつくり続けてほしいですね」と語ります。
長い歴史を持つ「かっぱえびせん」。その中で、初の味替わり商品となった「フレンチサラダ味」。今年も初夏の訪れとともに、爽やかな味わいを楽しむ時期がやってきます。
写真・編集:町田 有希
文:有井 太郎(外部ライター)