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カギになったのは鍋の素!?地元で愛され続ける「九州しょうゆ」が生まれた理由

よく聞かれる質問があります。

「地域によってポテトチップスの人気の味は違うんですか?」

答えはイエス。

カルビーポテトチップスのフレーバー別、全国売上トップ3は「うすしお味」、「コンソメパンチ」、「のりしお」で、ほとんどの地域でその順位は揺るぎません。

ただ、九州は違います。ここに「九州しょうゆ」が割って入るのです。

コク深い鶏だしが引き出す、甘口しょうゆの豊かな香りと旨みが特徴の地域限定商品で、今年で誕生から30年を迎えます。

今回はこの節目に、「九州しょうゆ」の開発に携わった品質保証本部長の遠藤英三郎さんと、DX推進部長の森山正二郎さんに、誕生の経緯とこだわりを聞きました。

遠藤 英三郎(えんどう えいさぶろう)写真左
カルビー株式会社 品質保証本部 本部長
1984年入社。4年間の工場勤務後、「ポテトチップス 九州しょうゆ」のほか、「ピザポテト」や「堅あげポテト」など多くのロングセラー商品を開発。開発本部長などを経て2022年4月より現職。
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森山 正二郎(もりやま しょうじろう)
カルビー株式会社 DX推進本部 DX推進部 部長
1985年入社。2年間の営業を経験した後、「ポテトチップス 九州しょうゆ」のほか、「ピザポテト」や「堅あげポテト」など多くのロングセラー商品の企画・マーケティングを担当。地域の経営企画や研究開発、システム部門等を経て2022年4月より現職。


きっかけは「北海道バターしょうゆ味」のヒット

遠藤さんと森山さんは「九州しょうゆ」だけでなく、「ピザポテト」や「堅あげポテト」などのロングセラー商品を二人三脚で開発した“名コンビ”。これらの商品は92~93年にかけて一気に誕生しています。

当時、二人はいろいろな方向でポテトチップスの新しい可能性を模索していたといいます。

森山さんは「私がマーケティング部門、遠藤さんが開発部門の立場として7年ぐらいコンビを組んでいました。二人で数十種類は新商品を出したと思います。忙しかったけど、楽しかったですね」と笑い、遠藤さんは「そんな中で『九州しょうゆ』はあまり手をかけることなく世に送り出せました」と振り返ります。

1992年ごろ、カルビーはポテトチップスを4つの柱に位置付けて展開していました。
 
・「うすしお味」や「コンソメパンチ」、「のりしお」など定番の“ベーシックチップス”
・「お好み焼きチップス」など味のバリエーションを気軽に楽しめる“フレーバーチップス”
・「ア・ラ・ポテト」「ピザポテト」などこだわりのある厚切り“高付加価値チップス”
・「プロ野球チップス」などカード付きの“キャラクターチップス”

こうした中、5本目の柱として森山さんが注目したのが地域限定の味でした。きっかけは“フレーバーチップス”として発売していた「北海道バターしょうゆ味」。ホクホクのじゃがいもにバターをのせ、しょうゆをかけて食べる北海道でおなじみの味わいを再現したもので、当時高い人気を誇っていました。

「北海道バターしょうゆ味」(画像は1987年のパッケージ)

「九州オリジナルの商品を出せないか」

森山さんがどの地域のどんな味をポテトチップスで再現しようかと思いを巡らせていると、タイミングよく相談があったといいます。

「福岡営業所でマーケティングをやっていた同期から相談があって、九州の味をつくることに決めました。味は、バターしょうゆから連想して、すぐにしょうゆに行き着きました。私は長崎の出身で、九州のしょうゆが独特だったと記憶していたんです」(森山さん)

参考にしたのは水炊き鍋の素

果たして“九州×しょうゆ”のコンセプトは地域商品として成り立つのか。
森山さんは、図書館で文化的な背景や歴史、つながりなどを調査。その結果、甘口しょうゆが地域独自のもので、“九州の味”としてぴったりだと確信しました。

「当時はインターネットも普及しておらず調べものが大変だったんですが、本を読み漁る中で、九州のしょうゆはしっかりとしたバックグラウンドがあり、地元で受け入れられるに違いないと感じました。一過性の人気ではなく、長く地域に根付く商品を目指して。地域の方々が“自分たちの商品だ”と納得できるコンセプトと味にする必要がありました

その後、実際の味を考えるため、森山さんは福岡のスーパーに足を運び、しょうゆや加工調味料、だしの素など様々な素材を現地で調達。“相棒”の遠藤さんのもとに向かいました。

調達した素材の中で、遠藤さんが目を付けたのは、液体のだしの素。九州で広く親しまれている水炊き鍋に使われているものでした。

遠藤さんは「少しなめて、鍋の素の裏面をみて、ビビビッとすぐに味のイメージがひらめきました。甘口のしょうゆに鶏だし、そしてアクセントとしてほんの少しの唐辛子。正直、あまり悩まなかったです。いま考えると、私自身は甘口しょうゆになじみがなかったので、かえって細かいこだわりがなくてシンプルに考えられたのかもしれないですね」と回想します。

その横で、森山さんは「名曲を短い時間でつくってしまう作曲家のようでしたよね」と笑います。

味づくりは似顔絵を描くようなもの

味の方向性を決めた遠藤さんは粉末調味料(シーズニング)の製造メーカーに「九州しょうゆ」の味のイメージを伝えました。カルビーでは、ポテトチップスを味付ける粉末調味料の製造は、複数のパートナーメーカーが担っており、このメーカーの選択と情報伝達が味づくりにおいて重要だといいます。

「いかに自分のイメージをパートナーのメーカー様にわかってもらえるか。そこのコミュニケーションや担当者様との相性が大切です。味付けは、アートのようなもの、似顔絵を描くようなものだと思っています。特徴がつかみにくい味の場合は抽象度が高い言い方をするときもあります。例えば、“もう少し黄色いイメージ”とか“朝の高原のような感じ”とか。ただ、『九州しょうゆ』に関しては、特徴がつかみやすく輪郭が描きやすかったのでストレートかつ具体的に味の構成を伝えることができました

結果、通常は試作を出し戻しするケースが多いのに対し、「九州しょうゆ」は最初の試作で、ほとんど直すところがなかったと言います。九州の支店メンバーからの納得も得て、開発着手から1年足らず、1993年11月に「ポテトチップス 九州しょうゆ」を発売。「ポテトチップス 北海道バターしょうゆ」とともに、“地域限定の味”の元祖となったのです。

1993年に発売した「ポテトチップス 九州しょうゆ」

発売から30年。「ポテトチップス 九州しょうゆ」はこれまでパッケージやフレーバーを改良しながら“九州の味”としてたくさんの方に親しまれています。

いまではポテトチップスの枠を超え、「かっぱえびせん」や「堅あげポテト」、「じゃがりこ」の味としても親しまれるようになりました。

森山さんは「30年もの間、さまざまなプロモーションやリニューアルをしてバトンをつないだからこそ、いまがあると思います。これからも40年、50年と受け継いでいってほしいです」と願い、遠藤さんは「地域の方々の生活に溶け込む商品に関われたことは開発者冥利につきますね。ブランドはメーカーではなく、お客様の心の中にあります。お客様との対話を大切にこれからも進化していってほしいです」と目を細めました。

最後に多くのロングセラー商品を生み出した二人に、その秘訣を尋ねてみました。
 
遠藤さんは、森山さんと目を合わせてこう語りました。
 
「振り返れば、森山さんと私はほぼ同世代だったので、言いたいことを忌憚なく言い合えたのがよかったんじゃないかと思います。ほかに二人の共通点があるとすれば、“さあ、次はどんなことで世の中に問いかけをしよう、驚かせよう”という好奇心があったことですかね」

「ポテトチップス 九州しょうゆ」は、中国、四国、九州・沖縄地方で販売中。詳細は下記をご覧ください。

文:櫛引 亮
写真:瀧澤 彩

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