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現場があたりまえに動く、を支える“職人魂”

商品づくりの現場を支えるプロフェッショナルな従業員にスポットを当て、仕事に対する想いや、商品づくりにかける情熱に迫る、「職人魂-THE CALBEE」。第4回は工場保全のスペシャリスト、石田正夫さんにお話を伺いました。

石田 正夫(いしだ まさお)
カルビー株式会社 カルビージャパンリージョン 東日本事業本部 北海道工場 保全課
1981年カルビー入社。北海道工場に配属。1986年から1990年の約4年間、タイのCalbee Tanawat Co., Ltd.で現地工場立上げに携わる。1991年に北海道工場に戻り現職。長崎県出身。
所有資格:2級機械保全技能士、エネルギー管理士



保全の仕事とは…現場があたりまえに動くこと

“工場”というと商品を作ることに目が行きますが、ポテトチップスだけでもカルビーグループ全体で1日約310万袋を生産しており、商品を安定して作るためには、製造ラインの機械はもちろん、工場全体のメンテナンスが不可欠です。そのメンテナンスを行う“保全”とはどんなお仕事なのでしょうか。

石田:保全の仕事は幅広いです。製造ラインの設備メンテナンスや修理を中心に工場内で起こる様々な不具合に対応します。
北海道工場には「ポテトチップス」「堅あげポテト」「じゃがポックル」の製造ラインがあります。「ポテトチップス」の製造でいうと、じゃがいもを投入して洗浄・皮むき、傷みがあればトリミング、そしてスライスし油で揚げ、不良品のピッキング、味付け。その後計量し包装、段ボールに詰め配送する、この一連の流れだけでも大きく8工程あります。
もしどこかの工程で不具合があれば製造ラインが止まり、商品が作れない訳ですから、“保全”とは工場を止めずに稼働させること、あたりまえに動くことを支えるのが仕事です。

北海道工場に赴任当時は製造現場で包装を担当。その後、「堅あげポテト」発売当初の製造ラインの立ち上げにも参画。新しいフライ工程の確立・改善に尽力した。
写真は約20年前 、タイのCalbee Tanawat工場再訪時の1枚。赴任当時はまだまだ人力に頼っていた工場の製造工程や保全作業に機械や道工具を導入しそのノウハウを指導した。


五感で観察してタイミングに気づく

石田:機械は突然故障するのではなく、実はアラートがでているものです。
目で見えるところだけでなく音、振動、温度、匂いなどを観察して面倒を見てあげるという気持ちが大切です。
修理の要請で現場に向かい担当者に「これいつから?」と聞くと、「実は1週間ぐらい前から調子が…」ということがあります。担当者も感じているんですね。感じたアラートをどのタイミングで見てあげるかが重要です。

つい先日もこんなことがあったそうです。

石田:ちょっと気になるところがあって定期メンテナンス以外の場所を見にいきました。案の定、油圧の温度が上がっていてモーターの振動も大きかったので、ひとつずつ作動を確かめ不具合の原因を探りあて事なきを得ました。

この出来事を保全課課長の浅野さんがこうお話してくれました。

「なんの予備情報もなくその場所を見に行った理由を聞いたところ本人も“理由はない”と言うんです。でも行ってみると不具合は起きている。豊富な経験からくる勘でしょうか。ですから保全課の皆が頼りにしているのは間違いないです。 ただ石田さんの定年退職を控えて、定期メンテナンスや手順などが決まっていることは引継ぎできているのですが、この暗黙知の辺りをどう継承していくかが目下の課題です。」

「石田さんは第六感を持っていると個人的に思っています」と浅野さんの言葉に笑顔で応える石田さん。


オリジナルのスナックは、オリジナルの機械から

北海道工場は北海道のお土産商品「じゃがポックル」を唯一製造している工場です。その「じゃがポックル」の製造ラインにも石田さんは携わられました。

石田:当時のテスト機(現在の1号機)で、テストしては改良して…を繰り返し、手作業の部分も多く悪戦苦闘しました。
「堅あげポテト」、「じゃがポックル」と新規開発商品の製造ラインに携わったこともあって、必要な部品をすぐに作り出せる環境にしたいと思いました。

少しずつ道具を揃え環境を整えた保全課工作室。突発的な修理だけでなく事前メンテナンスの効率化にも繋がっているそうです。
プレス機(強い圧力を加え、金属を折り曲げるなど加工できる機械)で部品自体も作りだします。プレス機が導入される前までは小さなパーツでも外部に依頼し加工してもらっていたそうです。


“保全”の有形と無形を引き継ぐ

石田:例えばこれはスライサーのモーター部分ですが自分なりにちょっとした工夫をしていてメンテナンスの間隔を延ばすことができるんですね。同じように小さな工夫が部品の寿命を延ばすことに繋がるので、ひとつずつ、メンテナンスも兼ねて後進に伝えています。

「この裏側に秘密の工夫を施しているんですよ。自分だけの秘密だったんだけどね」と教えてくれました。

note「THE CALBEE」の別記事で登場された藤井さんが北海道工場保全課での経験をこのように語っていました。

北海道工場では工具1個の使い方から教えてもらいました。当時先輩が言っていた “機械は嘘をつかない”という言葉はずっと心に残っています。機械の不調は偶然起きるものではなく、必ず調整やメンテナンスに原因があるということです。機械に不調が出ると、加工ラインの皆さんが困ることになります。だからこそ一つひとつの作業に丁寧に取り組みます。仕事をする上で、この言葉は自分のベースになっています

その言葉は石田さんも口にされていた言葉です。

故障した部品を手に。小さな部品もひとつずつ、その理由を確認します。
メンテナンス状況を記したノート。チャットでも情報共有していきます。


工場の未来を見据えて

石田:近年は商品の安全対策として異物混入検査用のⅩ線装置や金属探知機、製造日を個別に印刷するためのインクジェットプリンターに観察用カメラと現場のスマート化が進んでいます。その分メンテナンス対象は増えています。
また機械や部品は海外製も多く、工場に在庫がない場合、輸入して取り寄せるので時間がかかります。
修理する道具や部品が手元にないと生産に影響がでてしまう、そうならないためにも日々の観察で機械の状態を把握して、部品在庫を整備しておくことも大切です。

様々な部品がストックされている倉庫。時間を作り整備しているそうです。どのラインにどういうメンテナンスが必要かを把握していないとできない仕事です。


石田:
“職人魂”のお話をいただいた時、私は何かひとつの職人技を持っているわけではないので、テーマにあわないのではないかと感じていました。
半年後に定年退職を控え、仕事をしているうちは自分のできるものは全うしたい、何か伝えられるものがあればと思い取材を受けることにしました。退職の日まで、五感をフルに働かせて仕事に取り組みたいですね。


【カルビー北海道工場】
北海道千歳市、千歳駅から車で5分ほどの場所にカルビー北海道工場はあります。「ポテトチップス」、「堅あげポテト」、北海道のお土産商品「じゃがポックル」を製造しています。(操業開始:1969年)


 文・写真:伊藤奈美子  

     


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